わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第八十六回
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取調官長は、パブロ議員を訪問していた。
そこは、南島側から遥かにアヤ湖を見下ろす、小高い丘の上にある、議員の別邸だった。
高級住宅地域である。
議員は、名門の家庭出身であり、お金持ちである。
そんなところを、下級官僚で、ごく普通の家庭出身の取調官長が訪問すると言う事は、いかに平等な南島でも、そうはない事柄である。
しかし、もともと、お付き合いの幅が広いパブロ議員に限っては、なんでもありそうな感じもしたのだ。
訪問用の自動車は、取調官長の自家用車だった。
まあ、日本製のごく一般的な乗用車である。
それは、非常に大きな邸宅で、南国風の巨大な庭園が広がっている。
もっとも、議員は武装組織のオーナーというわけでもなく、政府の閣僚でもなく、機関銃を構えたボディ-ガードたちが、そこかしこに配置されているというものではない。
先に、タルレジャタワーを訪れて、皇帝陛下に謁見すると言う、信じがたい栄誉を与えられていた取調官長である。
おかげさまで、気分の余裕というものが、大幅に違ってきていたのだ。
この、皇帝陛下と会見したと言う事実は、パブロ議員にも伝わっていた。
しかし、そこでどんなお話が皇帝陛下、つまり『第3王女』から出たのか?という質問はタブーである。
パブロ議員は、そうしたことに拘束されるのが大嫌いではあったが、小さなミスで失脚させられるのは避けたかった。
皇帝陛下が、『第3王女』であり続ける事には、実は相当な意味があったわけなのだ。
「いや、よくおいでくださいましたな。ああ、取調官長さま。」
議員は、『どの』ではなくて、『さま』を使った。
これは、個人的に話をしているのだと言う合図である。
パブロ議員は、周囲の人たちをすべて追い払った。
「ここは、すばらしい、お館ですなあ。」
心に余裕がある取調官長が、先に褒め言葉を述べた。
「ああ、ありがとうございます。まあ、先祖からの譲り受けですよ。ときに・・・」
議員は、相手に主導権を取られるのは嫌いである。
「お忙しい中、お会いしたいと申し上げたのには、それなりの理由があります。」
「なるほど。」
「もちろん、あなたは政府の公務員だから、言えない事もあるでしょう。可能な範囲でよいのです。強制でもない。議員から圧力がかかった、などと言われたくはないのです。」
「ええ、そうでしょうとも。」
「あなたの管理する場所において、いささか、変わった収容者がいるという話を聞いたのですが。」
「ほう・・・変わり者は、多いですからなあ。」
「まあ、そうでしょうけれど、普通の収容者ではない、まあ、ある種、特殊な収容者というか、この国の人間ではない者、というような、収容者は、どのくらいいるのですかな。つまり、スパイ容疑とか。」
「スパイなら、もちろんいますよ。現状で、まあ10人というところです。しかし、みな、合法的に裁かれたものです。多くは、北島における違法な情報活動を行ったものです。」
「それらは、公表されていますか?」
「ええ、もちろん。」
「北島側によって、拘束されている人は?」
「それは、判りません。われわれの管轄外の部分があることは、事実ですよ。しかし、まったく政府は掴めないですから。議員よくご存じの事です。」
「なるほど、そうですなあ。しかし・・・ぼくの持ってる情報の中で、ひとり、公表されていない収容者が、あなたのところに、おるような話があるのです。事実ですか? 証拠を出しましょうか?」
「公表されていないものというのは、つまり、いないのです。」
「ふむ。わかりました。ああ、つまり、いないのだけれども、いると言う事は、ないですかな?ああ、ここだけの話です。現状、それがどうだからと言って、どうするつもりはありません。もし、将来的に、新しいこの国の展望が開けた時には、あなたに有利に働くかもしれませんが。」
「ふむ・・・・ああ。すぐ、政治に利用しませんか?」
「ああ、お約束しますのは、あなたに不利なようには一切利用しません。もし活用するならば、あなたの有利に働く場合のみです。」
「ふうん・・・」
当然、彼はここに来る前に、アリムと相談したうえで、来ている。
話の筋道が、頭の中で立っているので、取調官長には、まだ余裕があったのだ。
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