わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第八十四回
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洋子は座り直して正座した。
「じゃあ、申し上げましょう。」
ふたりはまだ、立ったままだった。
「まあ、まずは腰かけなさい。」
「ああ・・・どうも。」
明子はそう言い、兄にも座るように促してから、高級な竹製の座椅子にさっさと座った。
「ふうん。まあ、私が思いますには、おそらくこれは女王様のご意志でしょうね。」
姉は、ややしんみりと、そう切り出した。
「はあ? お姉さま、それ本気で言ってますか?」
明子は少し呆れたように言った。
「もちろん。」
「あたくしは、『女王様』の実在を信じないのをご存知ですよね。」
「はい。あなたは昔からそうだった。女王は『潜在的意識の集合体』とか。」
「まあ、そうです、つまり『妄想』ですわ。それを利用して、どなたかが操っている。地球人をね。」
「誰も意識せずに、脳内に刷り込まれた『女王』に対する忠誠心に従ってきていた・・・と。」
「そうですよ。操っているのは、おそらくいわゆる『第1王女様』か『第1の巫女様』、あるいは『教母様』、あるいは、『他の誰か』、たとえば、お姉さまとか。いずれにせよ、タルレジャ教の指導者の誰かだった。ずっとね。まあ今の国王様ではないだろう、とは確信しています。でも、陰に隠れていたことがあったかもしれないけれども。まったく一般人に紛れていたかも。今回、その意識が顕在化された。」
「そいつが、地球人を操っている。」
「そうそう。」
「まあ、あなたの持論です。」
「そうそう。」
「それこそが、妄想だろう。」
昭夫が口を挟んだ。
明子が睨みつけている。
どちらもあまり、人前では、普段こうした様子は見せないのだが。
「まあまあ、意見を持つのは良い事です。しかも、今の状況においても、そうした持論を展開できること自体が、なかなか大したことです。」
「ほう・・・意図的に許されている。とか。そう、おっしゃいますか?」
「そうです。きっとね。」
「あなたが許しているのですか、お姉さま。それとも、やはり、・・・弘子かな。」
洋子は静かにほほ笑んだが、それには直接は答えなかった。
「ご質問に、お答えします。ここは、お父様をお助けしましょう。」
「なぜ?」
「私が思うに、もし皇帝陛下の今の行動に追随したら、まあ、それまでです。非難する人は誰もいないでしょう。でも、それまでです。そうではなく、我が社の明確で新鮮な意図を、はっきりと示すべきです。皇帝陛下、国王陛下、わが首相様、どちらも両立させるようにしなければ。きっと、多くの方は、まず批判するでしょうけれど、最終的には、それが正しいと認識されるでしょう。」
「独自性を示せ、と。」
「まあ、そうですね。あえてもっと言えば、わが社が動かすのです、世界をね。」
「まあ・・・お姉さまは、やはりけっこう、危ない方ですね。潰されますよ。妹に。」
「いや、姉上だから言えるのさ。下手したら、『背徳者』入りだ。」
昭夫が、わざとらしく突っ込んだ。
「まあ、そうですわね。昭夫さんの、おっしゃる通りだわね。でも、私は、経営者として申し上げているのであって、それは『意識の自由な領域』なのです。」
「おもしろい。お姉さま。それって、つまり、個人の考えるやり方によっては、統制された思考も、かなり制御可能ってことかな? それとも、お姉さまは自由かな。」
「おいおい。」
「まあ、そうらしいですわね。でも、私は、不感応者ではございません。」
洋子は昭夫を制しながら答えた。
「じゃあ、それは、もしかしたら、『経験』、からくるのかしら?」
明子はちょっと試しに聞いてみたのだ。
「ほほほ。明子さんらしい。ほほほ。でも、ちゃんと回答しましたでしょう?」
「確かに。わかりました。では、その方向で考えましょう。」
「おいおい、ぼくは?」
「まあ、お兄様、なにか、ご異議があります?」
「・・・・・いや。ないよ。」
「じゃあ、結構ですね。」
明子は、もう立ち上がった。
しかし、こう付け加えたのだ。
「お姉さま、少しは表を見に行かいないと、お体に良くないですよ。」
「うん。わかってる。」
「そう・・・、じゃ、また。」
明子は立ち去り、昭夫はそれを、見送った。
「どうしたの、昭夫さん。」
「いや・・・ねぇ、姉さん。弘子は、やはり本当に『女王』なのか?」
洋子は、声には出さなかったが、小さくうなずいて見せた。
「そうか・・・。」
昭夫は、つぶやいて、明子の後をそそくさと追った。
尋ねている昭夫と、妹を追いかけた昭夫には、いくらか表情の齟齬があった。
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吉田さんは、余計な事は言わない人だ。
弘志は、もうそれ以上は何も尋ねられず、話もせず、巨大な自宅に帰り着いた。
正門からは入らないで、裏口から地下の『専用駐車場』に入った。
まあ、言ってみれば、お忍び用の専用駐車場である。
コンピューターの管理が厳重になされてるが、人間はタッチしない。
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弘志は、建物の中に上がって、そのまま双子の妹の部屋に行った。
「かえったよ。」
「ご苦労様です。」
雪子は弘志にだけ聞こえる『声』で答えた。
これは、弘子にでさえ、どうやら聞こえないらしい。
「失敗だよね。捕まりそうになっちゃったよ。」
「いいえ、それで良かったのです。お兄様は、正しく行動しました。」
「何の役に立ったの?」
「宇宙警部に、繋がりが出来ました。これが大きいのです。彼はきっと地球人の側に立つことでしょう。『紅バラ組』の秘密基地を発見しました。彼女たちにとっては、意表を突かれたのです。自分たちの守りは完全ではないと認識しました。『恐れ』が生じます。組長に報告が行くことでしょう。楽しみです。」
「楽しみ? 分からないなあ。」
「彼女たちの心は、操られています。『恐れ』は、その心に隙を生みます。」
「そうかなあ。」
「はい、そうです。」
「学校で、くっこに会うよ。明日には、きっと。」
「そうですね。きっと、お兄さまを殺そうとするでしょう。」
「おいおい、それは、いやだよ。いくらなんでも。」
「大丈夫です。手を打ちますから。」
「手を打つ?」
「そうです。任せてください。」
「ふうん。信頼はしてるけどね・・・」
「ユキコは何者だろう・・・と?」
「うん。」
「・・・ぼくを女の子に変えたのは、君かい?」
「いいえ、あれは、お兄様ご自身が、なさったのです。」
「はい?」
「弘子姉さまが、かつて、あなたの中に、その能力を植え込んでいたのです。それは、かつて金星の指導者だった、ビューナス様が持っていた能力なのです。あなたが、受け継いでいます。」
「あのね、それって、いつの話し?」
「まあ、2億5千万年より、もっと前の事です。」
「ぼくは、まだ高校生だよ。20年も生きてないんだから。」
「体は、そうです。」
「は?・・・・・」
「あ兄さまは、ビューナス様の生まれ代わりですから。」
「はあ?」
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