わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第八十二回
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タルレジャ第1タワー、すなわち、皇帝専用タワーの中にある、不可思議な『実験室』のような大きな部屋。
これは、もちろん皇帝ヘネシーが設計したものではない。
当然、ヘレナが作ったものだ。
なぜ、このような、ある種、大変不気味な部屋がここに、あるのか。
ヘネシーには、なぜだかそこは考えられなかった。
もし、皇帝になる前の、素直な第3王女ならば、当然不思議に思っただろう。
火星の王宮に居たことがあるもの、・・・たとえばダレルやリリカのような・・・ならば、ここがそのかつての火星王宮の、おそろしい女王専用の実験室に、大変良く似ていることに気がついただろう。
女王は、永く、多くの人体実験を繰り返していた。
しかし、そうしたことは、ヘレナはもう二度とやらないと、誓ったはずだったのだが。
確かに、ここはとても真新しくて、古色蒼然とした火星の王宮の実験室に比べれば、ぐっと近代的な感じはするけれども。
「こいつがそうなのか?」
大きな真空管を、真ん中で切ってつなぎ合わせたようなケースの中を見ながら、皇帝は尋ねた。
コンピューター『カイヤ』は答えた。
『はいそうです。今は、無色、無臭の気体です。しかし、おそらく自由に三体を行き来できる物質でしょう。』
「自分で変化できるというのか?」
『そう思います。ただし、この特殊なケースは人間の成体には小さすぎますが。』
「この、わしの声は聞こえておるのか?」
『いえ。現在、音は遮断されております。テレパシーのような思念信号も届きません。光は透過します。ただし、遮断も可能です。』
「会話は出来るのか?」
『おそらくは。ただ、現在口をつぐんでおります。』
「では、こちらの音を聞かせてやれるかのう?」
『はい。オンにします。』
大きな椅子に腰かけながら、皇帝ヘネシーは再び話した。
「さて、こやつを消滅させることは可能かのう?」
『はい。物質であることは間違いありません。したがって、原子核を破壊すれば、問題なく死滅させられるでしょう。』
「難しくは、ないのか?」
『はい。わたくしならば、簡単です。とくに、こうして捕獲していますから。』
「そうか。こやつは人類に害を及ぼす害獣であるとみた。では、さっそく、消去するがよい。」
『地球そのもの』には、さっそく聞き捨てならなくなった。
『待て。私は、『地球そのもの』であり、人類の究極の存在である。私の死は、地球人類の死だ。』
「ほう。そうかな? しかし、そなたが現れようが、居なかろうが、何も変わることはなかろうに。まして、わしは、今の今までそなたを認識したことなどない。必要はなかろう。」
『ばかな。私が存在することによって、君たちは存在している。私を消せば、人類は終わる。』
「笑止千万なことじゃ。意味はない。」
『協定をしよう。』
『地球そのもの』は、生まれて初めて、自身の存在の危機に直面しているのだと、ようやく気が付いた。
「協定? 何の為にか?」
『あなたの為に。また人類の為にも。』
「そうして、貴様のためにか?」
『まあ、そうだ。』
「ははは。意外と素直な奴じゃな。わしに従うと?」
『いや。協定だ。協力である。』
「ばかな。もうよい。わしは忙しいのじゃ。姉上の『婚約の儀』が迫っておる。創立式典ものう。そなたにかまっては、おれぬ。消えるがよい。」
『待て! 協定には、あなたに指示を仰ぐことにしても良い。』
「そんな、あやふやな。わしの部下として働くならば、考えても良いぞ。もちろん、ある種の担保は必要じゃな。カイヤ、そのようなことが可能かのう?」
『はい。原子核に細工して、こちらの指示で、簡単に崩壊するようにいたしましょう。』
『ばかな。不可能なおとぎ話である。』
『これは、女王さまの技術です。』
『火星の女王か?』
『そうです。』
『ふふん。ブリューリには、まったく歯が立たなかった、女王だ。私はブリューリをよく知っておる。今、どこにいるのかもな。』
「ほう??」
皇帝は、俄然興味を示したのだ。
「それは、まことかな?」
『もちろん。』
「ふうん。ならば、当面そなたの言う協定とやらを結んでも良いぞ。ただし、そなたの命は、わしが握らせてもらう。」
『ふん。そうしたら、自由にしてくれるのかな?』
「まあ、内容次第じゃな。わしを、甘う見てもらっては困るのう。まあ、わし自身は地球人にすぎぬが、この『カイヤ』には、壮絶な力が秘められておる。女王の飼い犬である、あの間抜けなコンピューターを超える能力があるのじゃ。まあ、それも、元は、女王の力ではあるらしいがのう。細かい過去は、わしにも分らぬがのう。おそらく、そなたの言うブリューリも、まず相手になるまい。」
『む・・・』
『地球自身』も、いくらかそこには、思い当たるふしはあった。
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「ねえねえ、やましんさん。なんかまた、このところ寝てばっかりですよお。幸子の活躍はどうなったのですかあ?」
「ああ、幸子さん。ぼくは、不調であります。人生、もう目星がたちません。」
「またあ。ハイパーお饅頭嵐、行きますかあ?」
「いやいや、なんでも、どうぞ。」
「あらら、女王さまが心配して来てくれた割には、効果が出ないかなあ。」
「彼女は、飲んだくれた、だけですから。」
「女王様も、ストレッチが多い方だから。」
「ストレスね。」
「う。そのレスです。」
「はあ・・・気晴らしに、雨が上がったら尾道にでも、行きますかなあ・・・。」
「え? また幽霊に会いに?」
「いやいや、景色を見にですよ。あそこはいい。遠いけど。」
「ふうん・・・・まあ、女王様に相談してみますけど。奥様もいることだし。」
「いや、あなたは、特に、来なくて、いいから。」
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