わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第八十一回
************ ************
大きな乗用車の後部座席から、遥か前方の吉田さんに弘志は語りかけていた。
「なぜ、ここに来たの?」
「そりゃあ、ぼっちゃん、来るように言われたからですよ。」
「だれから?」
「あなたからですよ。」
「はあ?」
「気にしなくて大丈夫。吉田はすべて心得ておりますゆえ。」
「はあ・・・・そりゃあ、どうも。」
吉田さんが、不思議な行動を時にとることは、兄妹の間ではつとに知られた有名事項である。
窮地に陥ると、なぜか吉田さんが現れるのだ。
幼いころからずっとそうだった。
近所の悪ガキ様たちから「や~い、おとこおんな‼ や~い!!」と言われ、取り囲まれたような時も、すぐに巨大な乗用車と共に、また時には、高級ミニカーとともに、忽然と現れる。
にこにこしながら、美味しいお菓子を皆に配布し、手を引かれながら、お坊ちゃまは引き上げて行く。
悪ガキ様たちは、実はこのお菓子が狙いだったりもする。
「あの、これでは、全然は事態は改善しないんですが・・・」
幼い弘志は、言葉の習得が異常に早く、生意気にも、多少間違ってはいても、すでにそんなことを言っていたように思う。
「いいんですよ。ぼっちゃん、隣国との友好には、お菓子も必要なのですよ。」
「むむむ・・・・」
あまり意味は、よくわからなかったのである。
その時期に比べると、今は弘志のほうがいくらか成長していたことは確かだ。
『やはり、黒幕は雪子かな。いったい雪子は何なんだろう?』
弘子のことも分かっていないのに、更に訳が分からない。
しかし、実はその弘子も、また道子も、同様の経験をたくさんしていた。
『肌の色が違うやつ!』
『外国人なんだって!』
『お姫様やーい!』
『はだし姫さま!』
まあ、とにかく、なんでもいじめの理由にはなる。
ただ、このふたりは、あまりに傑出した天才で、勉強もスポーツもなんでも圧倒的な一番だったので、いじめと賞賛が、常に同居してはいたが。
また、まともに喧嘩したら、相手がおおケガするのは目に見えていたので、弘子と道子は絶対に相手に手を出さないように教育されてもいた。
弘志も、またそうだった。
それでも、気の強い弘子に、背負い投げを食らった子が、まったくいなかったわけではないけれど。
そのおかげでなのかどうかは、定かではないが、中学生時代以降には、表立ったいじめは姉二人に関しては、ほぼ見られなくなった。
もちろんそれは、公立校から、実家が経営する中高総合学園に入ったことが、大きな理由なのだが。
弘志は、それでもまだ、いくらか陰険な嫌がらせをされることがあったのだが。
** ** **
小学生時代までの、この幼い兄妹たちの持ち物には、小さな通信機が仕掛けられていた。
なんといっても、王室のお子様たちである。
おかしくはない。
ネタを明かせばそんなところだ。
では、今回の弘志は、どうだったのだろうか?
そうした通信機は、もう付けてはいない。
************ ************
北島の住民たちにとっても『婚約の儀』は、誠に、おめでたい行事である。
だから、島中で祝賀の準備が進められていた。
あさってには、第一王女様がおいでになるという。
そうした時に、20名の若い男たちが、『島長』から呼び出されていた。
なぜ呼び出されたのかは、表向きは極秘だった。
しかし、住民たちの多くは、それがきわめて神聖な意味を持つものだと悟っていた。
これこそが、『婚約の儀』の最も神聖で、けっして侵すべからざる、もっとも『中心的儀式』の準備なのだと。
しかし、その現場を見たものは、誰もいないのだ。
その現場を見るのは、ただ本人のみだから。
今回は、この20人の中から5人が選ばれると言うことだけは解っていた。
何をするのかは、もちろん具体的には知らされていない。
********** **********
ギオスクは、現在の北島における、最高の美青年だと目されていた。
アニアラは、それに次ぐ美青年だとされていた。
今回の選考候補者には、二人とも含まれている。
その二人以外も、北島の20を数える各村落を代表する、美青年ばかりが集められていた。
そこで、重要なことがある。
アニアラは、例の議員さんと秘かに繋がっていたことである。
************ ************




