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わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第八十回


 ************   ************


「君は、あそこで、『何お』やってたのかなあ??」


 制服の警官の隣に座った、カッターシャツにネクタイの人物が言った。


 『どうも、普通の警察官ではないな。』


 そこは、マツムラコーポレーションの、おぼっちゃまである。


 まあ、今は女子になっているが。


「さあ・・・なんだった、か・・かなあ・・・・」


 弘志は、時間稼ぎに出た。


「何だったかなあ・・・って・・あのね、この警官さんは、君たち一行が、あのビルから出てくるのを見ていたんだよね。あそこは、この時間は、閉鎖されているはずなのね。なのに、どうして、あそこから出て来たのかなあ・・・ね?」


「ああ、なるほど。あの、他の子は?」


「ああ、確保して、他所で聴取している。時に、君は、お家はどこ?」


「ええ、・・・どこだったかなあ・・・ちょっと緊張していて・・わたし・・・」


 弘志は、わざと胸に手を当てながら答えた。


 あまり、効果は無さそうだった。


「はあ。まあ、緊張はするよね。そう言う場所だから。ここで緊張してもらわないと、少し困るんだ。」


「あの、あなたは、どういう係の、どういう立場の方ですか?」


 今度はけろっとして、そう尋ねてみた。


「む。言わなかったかな?」


「全然。身分証とか見せてください。」


「む。ここはね、警察署なの。この方は、あそこの駐在所の、林警部補さん。ぼくは『シブヤ地域管理官』のオオヤブです。」


「おおやぶさん。ふうん。本省の大藪統括次長さんの親戚かな?」


「え? 知ってるのか?」


「うん。まあね。」


「なんだ、ちゃんと、記憶があるじゃないの。お名前は?」


「あああ、まいったなあ・・・。やり手だね、お兄さん。」


「こらあ。からかうんじゃないよ。あのね、じゃあ教えてあげよう。他の子の話が少し、入ってるんだからね。ある知らない女の子2人に誘われて、お菓子とお茶とゲームをさせてやるということで、あそこに入った。鍵はその子が持っていた。地下の部屋に案内されて、美味しいお菓子とお茶が出て、良いゲームがいっぱいあった。で、遊んでいたら、突然ドカンドカンと音がして、壁が少し崩れたりした。びっくりして外を見たら、また知らない女の子が走って来て、ここはまずいところだから逃げろと言われたし、実際まずいと思っていっしょに逃げた。その子は、すごい武器を持っていて、それで撃つと壁とかも溶けて消えるくらいだった。この子は危ない子だと思って、外に出たらすぐに別れた。ね、君の事でしょう? その危ない武器は、どこにやったのかな?」


 弘志は、ビルから出る時に、あの銃はとっさに隠していた。


 ビルの郵便受けの中に放り込んだ。


 まあ、そのほうが、あす、騒ぎになってよかろうと・・・


「あの、ちょっとお、連絡を取っても、いいですかあ?」


 長い髪を手で梳きながら、弘志は、少女っぽく言った・・・つもりだった。


「まあ、相手にもよるが、ご家族かな?」


「まあ、そうした関係ですわ。タルレジャ王国の大使館に。」


「きみ、王国人? 観光? パスは持ってる?」


「なくした。だから、大使館にまず連絡。」


「ふうん・・・・・」


 困った時はしかたがない。


 例の事件以来、ヘレナは腹心の部下とか言う人を、大使館に忍び込ませていた。


「何があっても、助けを呼んでいいわ。ただし、緊急時だけね。」


 弘志はそう言われていた。


 弘志をちょくちょく少女化しては、お忍びで連れ出したりする張本人がそう言ったのだから、こうした場合も想定内と見た。



 **********   **********



 弘志は、少女の体のまま、大使館の車に乗せられて去っていった。


「いやあ、まいったなあ。手が出せないなあ。」


「何者でしょうか? やはり、王室の関係者ですかね。」


 物陰から出て来た、すこし派手な、かなり背の高い女性の警官がささやいた。


「うん。しかし、データベースにないなあ。確かに、何者だろうか? ぼくの親父のこと、知ってた。調べてくれる?」


「はい。まあ、録音も映像もありますし。わからないことは、何もないでしょう。銃は?」


「探させてるが、きっと、すぐ見つかるさ。あれが出回ったら困る。」


「ええ。大目玉ですよ。」


「まあな。ああいうややこしいのが、この先、たびたび出てきたら、困るなあ。野放しにはしたくない。」


「まったくですね。」



  **********   **********



 教授は、弘子の話を、じっと聞いた。


 和尚さんは、腕組みしたまま、固まってしまっている。


「つまり、君は、容れもの?」


「そう。」


「じゃあ、ぼくらと話してる君は、宇宙人なわけ?」


「『じん』じゃあないの。先生。ひとじゃあないもの。でもまあ、一般的に、なんでもひっくるめるならば、そう言っても誤りではないわね。存在しないのに、まるで存在してるかのように振舞うのが、つまり、わたくし。」


「・・・・やっぱり、わからん。」


「幽霊と言うのが一番近いのでは・・・やはり。」


「幽霊は、物理的存在ですわ。わたくしは、そうではない。少なくとも人類が考えている物理現象の範囲には入らない。でも、最終的な正体は、自分でも分からないのですもの。」


「・・・いやあ・・・・だめだ。そりゃあむりだよ。君は、ヴァイオリンもピアノも演奏する。タルレジャ語も日本語も英語もフランス語も話すし、食事もする。なんでも最優秀だが、でも、隠れて酒も飲む。時に小さな悪さもする。きわめて人間だ。」


「じゃあ、先生、ここはどこ?」


「だから・・・・そこが分からない。あり得ないよ。」


「だから、それが回答ですわ。」


「で、どうしろと?」


「先生やご家族の安全は保障します。だから、わたくしの意向に逆らわないで。このまま、普通に生活すればよいのです。それだけ。無駄なお口を挟まなければ、それでよいのです。難しいことではないわ。今までのままでよいのです。奥様や、あんじのお父様などは、わたくしがうまく対処いたします。だから、普通にこのあとお家に帰って、それからは、今まで通りに暮らして、ご活躍ください。それだけですわ。」


「社会がおかしくなっても?」


「先生は変わらなくて良いのです。和尚様もね。いつまでも、同じでいい。」


「拙僧は、事情が良く分からずに動いていたわけだが、今は、なおさらわからん。どうにもならぬものは、どうにもならぬ。しかし、永らくあった世の定めに反する物事に、従えるものかな? 黙っていろと言っても、自ずと無理が行こうに。」


「そうでもないと思いますがね。2億5千万年以上、そうして従ったり反発したりしながら生きてきた人もいるから。わたくしの信頼があれば、多少は何かあっても、それでも生きて行けます。」


「信頼? なに、それは。」


「信頼は信頼。お互いを尊重し合う態度です。否定しあわない。お互い排除しようとしない。」


「ふうん・・・・そりゃあきみ、難儀なことだな。ちょっと考えたい。」


「ええ、もちろん。まずは、タールベルク様のリサイタルを聞きましょう。すごい方ですわ。」


「ショパンさんを聞きたい。」


「あの方は、お家からは出ないから。まあ、いいでしょう、あとで行って見ましょう。内緒ですからね。」


 弘子は、唇に指を軽く押しあてた。




 ************   ************



「立場上、ヘレナ様にお知らせいたします。」


 大使館のお兄さんは言った。


「少し待てない?」


 弘志は、もう少し時間が欲しかった。


『この体も悪くないしなあ。もうちょっと、このまま、遊んでいたいしなあ。』


 なんとなく、そうも、思ったし。


 しかし、なぜか雪子の声が頭の中で聞こえた。


『お兄様、もう大丈夫、吉田さんが行くから、乗り換えて。心配いらない。』


 大使館の車は、なぜか小さな丘の上で、静かに止まった。


 ドアが開く・・・・


 弘志は車から降りた。


 自動車は、無言で走り去って行く。


 なんだか、計画された誘拐みたいな感じかな・・・・・


 吉田さんの車がすぐにやって来た。


 乗った時には、もう、元の体に戻っていたのである。



 ************   ************



























































































































 

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