わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第七十六章
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「ふうん・・・・なるほど。で、ぼくにあなた方の味方をしてほしいと、言うのですなあ。」
警部2050は、低く言った。
弘子が、じっと見つめて来ていた。
しかし、もしこの子たちの味方をしたら、それは何を意味するのか?
警部2050は、職務上の習いに準じて回答した。
「解りました。しかし、まずは調査させてください。その結果で判断してゆきましょう。」
三人は顔を見合わせたが、今のところ、それで同意するしかないと思い合わせた。
「わかりました。ただ、わたくしは、まもなくヘレナ様と一体化します。その後はシモンズ様か、弘志にお話しください。危険ですから。」
「なるほど、でも、ぼくは、まずビュリアさんに会いたいのですが。」
警部が、あっさりと言った。
「ああ、なるほどね。それならば、ヘレナ様に会うしかないですわ。まあ、もちろんお願いしているわたくしたちに、あなたを指図する権限はございませんわ。ただ、ヘレナ様は、誰でも支配してしまう方だから。」
「ああ、そこは、ご心配なく。ぼくは、不感症だからね。」
「あの、ビュリアさんのことなら、よろしければ、わたくしもお手伝いいたしますよ。なにしろ、ビュリアは私の娘ですから。」
女将さんが、やや自慢そうに言った。
「おおお。そうでした、そうでした!それはいい。」
警部2050が、突然思い出したように同意したのである。
『まあ、このひと、いや、ひとじゃないかも・・・大丈夫なのかしら・・・』
弘子は、内心そう思ったが、もちろん、言いはしなかった。
ただ、シモンズも弘志も、どうやら、同感だったらしいけれども。
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正晴と武は、それぞれ王国入りの準備をほぼ完了してしまっていた。
双方の親は、さかんに本人たちがなすべきことがらについて、しきりにお説教したがっていた。
心配でしかたがなかったのである。
まして、相手が、昔から決められていたとはいえ、王女様である。
それが、いったい何を意味するのか。
この子たちは、けっして、まだよく認識できてはいない、と、どちらの親も考えていた。
正晴の母は、非常に話しにくい事柄を、言おうとした。
「いいですか。王女様は、大変早熟なお方です。つまり、非常に濃密な、というか、まあ、正常なと言うか、立派な夫婦関係をのぞんでおられるのです。そこを、つまり・・・」
「あのね、いいよ。言いたいことはわかるから。まあ、なるようになるから、大丈夫だから。」
「はあ・・・・それだから、心配で。。。」
実は、正晴の母も、また武の両両親も、当然、知ってはいたのだ。
そんな心配は、要らないと言う事を。
実際は、正晴が言うように、なるよになるのである。
すべては、王女様がリードして、きっぱりとやってしまうだろう。
本当のところを言えば、親が心配しているのは、このふたりの行く末のことだった。
実のところは、最近は、実例がなく、どうなるか誰にも分からない。
ただ、昔から言われていることは、『王女様の夫は、みな早死にする』ということである。
後継ぎが出来たら、数年以内に、みな亡くなってしまっていることは、歴史的資料が明確に物語っていた。
しかも、その死因は、あまり明確ではない。
と、言うよりも、まったく、公表されていない、のである。
直近は、アヤ姫様の代までさかのぼる。
アヤ姫様自体が、わずか23歳で、アヤ岬から飛び降り、入水しているが、これも伝説と事実が入り乱れていた。
この悲しいできごとは、歴史的な悲劇として世界的に有名で、また大きな観光資源にもなっている。
ただ、王国や、タルレジャ教会自体は、これを今でも、ある種の『殉教』のように捉えている。
両親も、そう教えられ、そう、考えてきていた。
ただ、アヤ姫様の夫は、その事件の前の年に、亡くなってしまっている。
その真相は、いまだに深い霧の中である。
タルレジャ教会庁は、・・・たぶん、教母様と、第1の巫女様は、事実をご存じなのであろうと言われているが、まったくそうした話は出ない。
弘子さんや道子さんは、この国では、正晴や武の友人であり、クラスメートでもあったりした。
だから、お互いの家への行き来は頻繁にしていた。
だが、事前の了解事項として、王国や教会での、地位に関する話は、基本的には、お互いの家庭内ではしない、と言うことに、なっていたのだ。
しかしながら、まあ、実際のところは、そこらあたりは、ある程度長年の習慣みたいなところでやってきた側面も大きい。
多少は、そう言う話も、どうしたって出るのだ。
それでも、この件は、大きなタブーのひとつである。
とにかく、親は親であり、この子たちが、すぐに早死にすることに対する強い懸念は、当然に持っていたわけだ。
しかし、だからといって、どうしようもないのが実情なのだ。
「とにかく、王女様のご意向に逆らわないで。いいわね?」
正晴の母は、毎晩のように、念押ししたのである。
武も、似たようなものであった。
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『地球そのもの』は、地下からタワーに入り込もうとしたが、それも、やはりうまくゆかないのだ。
「おかしい。あり得ない。」
地中を巡りながら、『地球そのもの』は考え込んでいた。
「いささか、甘く見たか。まあ、しかし、人類に完璧などはあり得ない。絶対にすきはある。」
『地球そのもの』は、優秀だが、少し自惚れが強く、ナルシストでもあった。
自分の求める行動が阻止されるなど、実際、今までは無かったし、これからもあってはならないことだ。
なぜなら、彼こそが地球で最高の存在だから。
『火星の女王』などというものや、ましてや、『地球皇帝』なんて認めるわけにはゆかなかったのだ。
ついに、『地球そのもの』は、小さな空間を発見した。
巧妙に基礎部分に隠し込んではいるが、何らかの配管ミスか、手抜きか、不注意か、見落としか、やりかけか、まあ、そうしたものだろう。
人間がすることは、どんなにがんばっても、やはりこの程度だ。
『地球そのもの』は、いささか喜んだ。
「まあ、しょせんは、人類のすることだ。」
しかし、それは、巧妙にできた、というか、かなり幼稚な、罠だったのだ。
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「捕まえましたよ。」
カイヤが、すぐにヘネシーに報告してきたのである。
「ふん。あっさりとじゃのう。すぐに見に行きたい。」
「お待ちください、陛下。とはいえ、やはり危険です。まずは、こちらで調べますから、少しお待ちを。」
カイヤが忠告してきた。
ヘレナだったら、こうした忠告は、まず受け入れるだろう。
しかし、ヘネシーは、その優雅な見た目に関わらず、気性がかなり強く、また正義感も強いが、とにかく、まっすぐに進もうとする。
まあ、年齢も若いので、無理もない。
「いや、のんびりしては、おられぬのじゃ。」
「はい、陛下。ならば、直接ではなく、映像での対応にしてください。」
カイヤは喰い下がった。
「ふうん。まあ、では、そうしよう。準備いたせ。」
「はい。いま少し、お待ちください。」
「5分か?」
「ああ・・・・いえ、10分お願いします。」
「わかった。10分じゃ。」
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