わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第七十五章
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キッチンは、地球に向かうべきだろうと、判断するしかなかった。
もう、ジャンプは出来ない。
膨大で、特殊なエネルギーが必要なジャンプは、一度限りである。
今となっては、生き続けるか、そうではないかを判断する以外にはない。
彼は、失敗だったと思いながらも、自分の作った装置に関しては、いささかの自負もやはり捨てがたかったのである。
きちんと確かめてから、さらに考えたって、遅くはならないだろう。
きっと。そうだ。
そこで、彼は宇宙船を地球の方向に向けた。
太陽系内を移動する程度ならば、なにも問題はないだろうから。
そんなキッチンを、猛スピードで空間を縫いながらここまで移動してきた警部2050が、誰よりも先に発見したのだった。
ただし、アニー以外では、だけれども。
もう地球は目と鼻の先であり、警部としては、やはり火星を見ておきたかったのだ。
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マオ・ドクは永遠の命なんて、ばかばかしくて御免だぜと、思ってはいたものの、しかし、やはりお嬢の事は心配で仕方なかった。
一方、デラベラリ先生のことを考えれば、これもまた、アマンジャとのことを、なんとかして、何とかしてやりたいとも思った。
しかし、これは、意外と難問となってしまったのである。
彼は、あれほどビュリアに懇願したのにもかかわらず、結局のところ、まだ何も実現していない。
もちろん、ビュリアがお嬢であることは、マオ・ドクだってお見通しであったが、だからといって、ハイどうぞとは言ってもらえなかった。
もっとも、拒否されたわけではなくて、結論から言えば、受諾されていたのである。
しかし、まだまだ先の事だと、ビュリアは言うのだった。
「あなた方には、まだたくさん仕事が来るでしょう。急ぐものではありませんわ。」
結局、うまい事言われて、『不死化』されてしまったのである。
ただ、ビュリア=ヘレナからしてみれば、いくらかの『不死化』した人間を、秘かにだが、地球最後の日まで連れてゆくことには、大きな意義があると思われた。
彼女は、全員ではないが、幾人かは太陽系の滅亡後も、次の世界にいっしょに連れてゆくつもりでいたのである。
太陽系に来た時も、そうだったのだから。
つまり、『金星のママ』は、その代表者だったわけである。
いまは、『教母様』だけれども。
しかし、ずっと連れて来ていたのは、彼女だけではないのである。
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くっこは、きちんと学校には来ていた。
まあ、もっとも、突然勉強が出来なくなるとか、逆に出来るようになったとか、そういう変化は見られない。
授業中の小テストでも、特段変わった変化はない。
ただ、やたら態度がでかくなり、おおへいになったということである。
かといって、授業の邪魔をすることはなかったけれども、しょっちゅう、あっさりと、いなくなる。
大概は、携帯に電話が入ったとか、メールが入ったとかのようだった。
こうした逸脱行為は、当然御法度である。
先生方が、黙っているはずがない。
黙っているはずがないのだが、なぜか、くっこは、懲罰の対象にはならなかったのである。
「不公平だろう!」
と、一部の生徒は苦情の声を上げた。
当たり前である。
しかし、それでどうなるという事は、結局のところ、何も起こらなかったのである。
数日で、くっこは、クラス替えされた。
そうした生徒だけを集めた、別クラスが編成されたわけだ。
つまり、【紅バラ組】の組員は、いまや、この学校だけでも急増してきていたのだ。
当然、くっこが仕組んでいたわけだけれど。
ミアは、くっこから、子分のように扱われていたが、弘子のとりなしが、なぜか非常に効いているらしく、拉致されて洗脳されると言う事態は免れていた。
おかげさまで、ミアは、特に望みもしない、紅バラ組のコメントを外部に伝える、非公式スポークスマンのような存在になってきてしまった。
「せんこうたちに、伝えておくんじゃ!ええな!」
くっこは、ミアに命令する。
ミアは、それを先生方に伝える。
先生方は、校長や、新任教頭や、理事長に連絡する。
理事長は、複雑な地位にある。
各、権力側とのパイプも太い。
日本政府とも、王国政府とも、である。
【紅バラ組】は、ヘレナの影の群団であり、スパイ組織でもあり、またミュータントの動向を探る、地球帝国の『地下組織』にもなっていた。また強力な、体制側テロ群団にもなりうる。
公式には行えない、異端分子の排除を実行するのだ。
一方で、あんじは、その闇の地下組織を暴こうとしていた。
彼女は、秘かに東京に戻って来ていたのだ。
きれいな、良いマンションである。
マツムラ・コーポレーションの息は、ここには、かかっていない。
その夕方、彼女は夜陰に乗じて、街に出て行った。
きょうは、シブヤに行こうと思っていた。
あそこになら、どうせ、紅バラ組が出てくるだろう。
めぼしい͡女の子を見つけたら、どこかのアジトに連れ込んで洗脳して、仲間にする。
あんじは、そこを押さえて、逆に占領する積りでいた。
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弘子たちは、警部2050の到着を待った。
「時間はかからないですよ。すぐ行きます。」
警部はそう言った。
そうして、実際、彼はすぐに来たのである。
彼の宇宙船は、キッチンを乗せて来ていた。
キッチンの宇宙船でも、地球の現在の技術から言えば、遥かに先進的なものだが、警部の宇宙船は、まったく隔絶した能力を持つ。
もちろん、2憶5千万年前のものと、同じものだけれども。
はっきり言えば、アブラシオでさえも、女王様抜きで、真正面から闘ったら、ちょっと歯が立たないかもしれない。
キッチンの船は、火星の周回軌道に置いてきたのだった。
さっきまで、宇宙空間にいた警部2050は、いまやシブヤの高級喫茶の玄関に立っていた。
「やあ、おまたせいたしました。」
「まあ、いらっしゃいませ。警部様。」
「いやあいやあ、お久しぶりですなあ、女将さん!」
ふたりは、抱擁を交わした。
「あの、警部さん、ゆっくり思い出話もしたいのですけれども、とりあえず、こちら様には時間がございません。ます、先に聞いてあげてくださいな。」
弘子と、シモンズ、それに弘志が立ち上がった。
「こりゃあどうも。これはまた、何とも、お美しい姫様ですなあ。夢の中に出て来そうだ。」
三人は、顔を見合わせた。
警部は、当然、ビュリアの事を、思い浮かべていたのだけれども。
弘子がビュリアに似ていることは、女将さんは、よく分かっていたわけである。
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