わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第七章
「アニーさん、聞いてる? 見てるよね? ・・・・・・・おやおや、またまた返事なしか。仕方ないから、強硬策と行こうかなあ。」
シモンズはぶっつりと言った。
『ああ、コチラ、アニーデス。す。ただいま、第二補助システムにて営業中。メインシステムは、多数のハッカー攻撃を受ケたタメ、現在閉鎖中。第一補助システムに異常データ蓄積分析中。【 緊急、緊急。ヘレナが異常。異常。ルイーザも異常。救助乞う。】システム保留。言語しすてむハ、負担が大キイノデ、で、以降の"アプローチハ、データ送信ニテ、受付中。ただし、抽選デス。以上。温泉がいいです。アニー、休憩。』
「なんだ、そりゃあ。くそ、僕のシステムで介入しよう。【アニーさん、入れてください。救助したいけど、状況が不明瞭。システムに入れてください。シモンズ。確認メッセージ。手を振るから見てください。】
シモンズは、中空に向かって大きく手を振った。
「アニーなら、認識するさ。」
コンピューターにメッセージが入った。
『手の振り方ニ、ココロがコモッテオラズ、熱心サガ足リマせんシタガッテ、シモンズさんト確認シマシタ。接続キョカ。』
「なんだ、まったく、”Onlookers see most of the game”(岡目八目)なのだ。ふうん。こりゃあでも、まったくわかんないなあ。宇宙人が作ったんだものな。アニーさん映像ください。ぼくのと合わせてみるから。・・・来た来た。ふうん。この腕輪が問題な訳か。ヘレナは、自分は抗ブリューリ薬を再投与したから影響を受けないんだと考えた。まったく外れていたわけでも無いか・・、でも結局腕輪をはめられちゃったら、しっかり意思を操作されてしまっているらしい。つまり、相手はタッグを組んできているんだ。人間の肉体を通して、実体のないヘレナも操ってしまうとなると、相当にこれは、ちょっと、やっかいかなあ。ふうん。まてよ、僕の分まであったりしたら、非常に迷惑だ。それだけは阻止しなければ。ここの部分はどうなってるの。腕輪が体に同化してる。取り除こうとすると、動脈とかをどうする?でも、こいつ自体が生物体の様だな。なるほど、そこが弱点かな。血液中に、何かを分泌している。難しく考えないで、こいつ自体にショウユ・ソースでも飲ませて見たらどうなるかな。マスタード入りの。しかし、硬度が高いぞ。こりゃあ注射針は通さないな。ヘレナの体内の抗ブリューリ薬は、空間思念には対抗できたが、直接には役に立ってはいない。この物質が邪魔してるのかな。ならば、こいつを退治してやればよいと。それは何かい、と尋ねると・・・・・・・ふうん。ニンニクかなあ。とにかく、あらゆる物質を疑似投与して、反応を見るか。バーチャル・コピー完了。行くよ。まずはニンニクから・・・・・・・・」
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「じゃあ、女王様、地球にお帰りください。」
「わかりました、リリカ様。地球を支配いたしましょう。地球人の食料化については、再度計画を立てましょう。火星の失敗は教訓として。」
「はい。女王様。」
「では、ダレル様、行ってまいります。」
「うん。がんばってね。第三王女はかわいそうだが、必要な犠牲だ。おかしな手を出さない事。いいね。」
「わかりました、ダレル様。」
「それと、ブリューリが、君に早く会いたがっているんだけれど、あいつの欲望は邪だからね。もう少し技術的に完ぺきにコントロールできるようになるまで、許可しないから、そのつもりで。」
「はい。どこにいるのですか?」
「分裂した方は、ご存知の通りに、君の地獄で拘束中。本体は、内緒だ。」
「はい、ダレル様。」
「まあ、しばらくは、僕にまかせてください。悪いようにはしない。八方丸く収めたいからね。」
「はい、ダレル様。」
「じゃあ、まずは、演奏会頑張ってね。ルイーザさんにも、練習させている。ただ、ぼくには、君たちの音楽はどうも、理解不能だけどね。やたら音が、上がったり下がったりしているだけで。ああ、ぼくは研究室に帰る。セレモニーは見に行くよ。細かいところは、リリカさんお二人に任せるよ。まあ、あなたがたは、アリムさんの部下だけどね。協力関係なんだから。よろしくね。」
「わかりました。ダレル様。」
リリカ二人が、声をそろえて答えた。
「うん。じゃあね。」
ダレルとソーは、自分たちの船に帰っていった。
「では、女王様、新しいお仲間になれてうれしゅうございます。地球にお送りいたしましょう。ああ、その前に、王国の掌握が必要ではありませんか?」
「うん、そうなのじゃ。国王の権限を消滅させる。わしがすべてを握らねばならぬ。「第一の巫女」による「神政」を実行するのじゃ。まあ、奥の手じゃ! かつて、ビュリアが一回だけ行ったことがある。」
「『第一の危機』の時ですね。」
「そうじゃ。『カタクリニウクの乱』の時じゃ。」
「大昔の事ですこと。」
「みな、真の都で、懐かしく語り合っておろう。今回が第三の危機という訳じゃ。じゃが、やがては昔話に花が咲くこととなるであろう。」
第一の巫女「ヘレナ」は、王国に対して、「第一の巫女」による、『「聖なる神のお告げ」の儀式』を正式な作法に乗っ取り行う準備をするように指示した。
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「なんと、『「聖なる神のお告げ」の儀式』じゃと?!」
教母様は立ち上がった。
「それは、抵抗できぬ・・・な。しかし、そのまま許してよい事柄とは思えませぬぞ。」
「はい、教母様。何が起こっているのか、まったく分かりません。」
副教母様は困惑していた。
「東京の副教母様は、何か言ってきておるのか?」
「今のところまだ、何も。」
「お目付け役が、役に立たぬのか?」
「さあ、・・・なんとも・・・」
「国王は、大人しゅうしているのか?」
「はい。まったくその通りでございます。終始、神と語らっておられますようで。」
「ふん。第一の巫女の「神」とは格が違うでな。」
「あの、それは・・・・」
「まあ、よい。大方、王国を完全に支配する気なのじゃ。北も南も。」
「南も! でございますか。前例がありません。王国創立以来、南を巫女様が支配した事は、一度もございませぬ・・・。」
「そうじゃ。その通りじゃ。それを、なさろうと、言うのであろう。けれど、考えても見なされ、現実的にはすでに帝国が南も支配下に置いておるのじゃ。我らは、なぜか蚊帳の外なのじゃが。」
「なんと畏れ多い事をするのでしょうか・・・・・」
「そなたはそう言うがな・・・いや、よい。東京と連絡を取りたいが。」
「ああ、わかりました、すぐに、おつなぎ申し上げましょう。」
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ルイーザは、ヘレナに負けないように、必死の練習をしていた。
彼女の挑戦相手は、C.ニルセンのコンチェルトである。
技術的な難しさにかけては、シベリウスをも凌ぐところがあり、超難関曲である。
しかも、傑作なのにもかかわらず、一般の認知度が、圧倒的に低い。
そこから、聴衆を一気にシベリウスと同じ意識レベルに引き上げなければならない。
冒頭から、激しいカデンツァの嵐が炸裂する。
その後には、優しいロマンも待っている。
非常に入り組んだ、複雑な性格の作曲家だ。
しかし、腕輪の力にコントロールされているせいか、ルイーザは練習では爆発できないでいる。
普段は大人しい、お嬢様の典型のような彼女が、ステージで大爆発するのを見て聴くのが、聴衆の最大の関心事である。
平素から、見た目も派手でやんちゃで、しかも演奏スタイルは、割と大人型で安定感が強いヘレナより、そのイメージの落差が大きい分、ルイーザの演奏は面白いのだ。
しかし、ダレルにはそこは理解ができない。
この状態でステージに上がったら、いくら意識制御されている地球人でも、音楽的には、どうもおかしいと思うだろう。
総督閣下は、人が変わったようだ、と、なるに違いない。
音楽的な魅力の低下が、いったいどんな効果を生むことになるのか、ダレルはまったく考慮していなかった。
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アリムは、「地球帝国発足式」が予定通り実施されるように自分の影響力を駆使していた。
月の裏側で設置した意識コントロールの装置は、ピンポイントでしか効果が出ない。大衆操作には向かないのだ。
女王様のような、地球全体を支配してしまうような力は、到底ない。
しかし、ダレルを通して、女王三人とも間接的に支配できるようになった。
そこで、アリムは考えていた。
「はたして、セレモニーで殺害する理由があるのか?」
彼女は、そこのところを精査していた。
もしも、セレモニーでの行動でなければ、未来を維持できないのであれば、仕方がない。
しかし、裏側で、ひっそりとあの世に送ってやって済むならば、その方が良い。
歴史ではどうか・・・というと、実は第三王女と言う存在はなかったのだ。
これは、女王が歴史の変革の一環として設置した存在だと思われる。
アリムは、その生誕にまで遡って、排除しようともした。
しかし、これは失敗してしまった。
ガードが鉄壁で、それぞれの現場に到達できなかったのだ。
まあ、通常公開の行われることではないし・・。
結局一番隙があるのは、セレモニーと言う結論になった。
が・・・、そこまでにチャンスが作れる状態にはなった。
だれに、手を下させるのか?
答えは簡単だ。第一王女に行わせる。人間一人を消去するなど、彼女にはいとも簡単であろう。食べさせてしまえばよいのだ。
しかも、第二王女が見ている前で。
第二王女が、姉を抹殺する大きな動機の一つにできる。
計算したところでは、思いのほか効果が高く、良い結果に到達することも判明した。
全員の裏をかくこともできる。
三人を集合させる。
それだけでよい。
ダレルにだけは、協力を仰がなくてはならないが。
別に、姉に妹を食べさせるなんて言う必要はない。
目的を言う必要さえない。
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