わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第六十七章
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「ううん、そうだなあ、アニーさんが助けに入るか。確かに気にはなるんだ。あたくしだって、一応人間の端くれだからね。人類の滅亡という事態にはなってほしくはない、それじゃあ、生きてる意味が無くなっちまうからねえ。」
女将さんはちょっと考えていた。
「あたくしのヘレナ様は、必ずしも人類の味方ではないの?」
『まあ、すぐに敵ではない。そうは、アニーも言えます。それ以上は計算不能です。ヘレナはアニーの誕生のはるか以前からこの宇宙にいました。その前には、異なる宇宙にいたと推定サレマス。また、将来、人類やアニーが存在不能になっても、滅びると言うことはないと考えられます。したがって、最終的に人類の味方なのかどうかの判断は、アニーには不可能です。』
「さっぱりわからないよアニーさん。でも、少なくとも、ヘレナはぼくには、人類の存在を否定する意図があるとは言わなかったけど、でも、ぼくは、味方だとは思ってもいないよ。むしろヘレナは、地球人類の征服者であって、味方じゃないよ。アニーさんは、なんで、ぼくらに味方するの?」
シモンズがアニーに尋ねた。
そこで、弘子が、話しに割って入ってきていた。
「その通りなのですが、ここは、時間の区切り方が問題なのです。どこを基準に考えるのかです。今のヘレナ様はすでに人類の敵対者です。わたくしの創造主は、それを、いま、解除したいのです。人類を解放するべきだと考えております。」
「ねえさん、それは、雪子と関係があるの?」
弘志が、ようやく聞きたかったことを尋ねた。
「そこは、わかりません。正直なところは。しかし、雪ちゃん自身は、わたくしには何も言いません。」
「はあ・・・・」
「まあ、いろいろと事情が、輻輳はしているみたいですわねぇ。」
女将さんがうなる様に言った。
『アニーには、善悪の判断はありません。先ほども言いましたように、指令をしてくるヘレナの階層が、すべての判断基準です。それは、アニーが自動的に認識します。』
「ちょっとまてよ、アニーさんを創ったのは、へレナなんだろう?」
『はい、そうです。』
「どの、ヘレナ?」
『さあ・・・・・そこは特に関係ないですからね。』
「・・・わかった。わかりました。」
女将さんが、なにか、とてもすっきりとした、という感じで言った。
「え?わかったんですか?」
シモンズがかなり驚いたように叫んだ。
日本語が上手く通じていないよう、でもある。
「はい。わかりましたわ。宇宙警部さんに、連絡は致しましょう。で、事情をお話しいたします。そうして、何らかの捜査の上、回答を頂くことととしましょう。名案ですよね。きっとね。」
残りの3人は顔を見合わせた。
アニーも、気持ちの上では、同じ感じであった。
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あれだけ、沢山出現していた恐竜たちは、すっかり片付けられてしまっていた。
『紅バラ組』の組員たちは、周辺の情報収集に、文字通り、はだしで、走り回っていたのである。
『夜の群団』というイメージが強い彼女たちではあるが、昼間はくっこのような高校生から、エリートOLまで、様々な顔を持っている。
各自その場で、ぐれまくってはいるが、なぜか懲戒的な処分は受けない。
おまけに、勉強も仕事も、これまでよりも、はるかに、やたらに、優秀になってしまっていた。
そうしたものは、あっさりと、完璧に、かたずけてしまうのだ。
知的な能力だけではなく、運動能力も人間の域をはるかに超えるような、超人クラスに達していた。
学校の先生も、社長さんたちも、もはや相手にすら、ならなかったのである。
くっこ自身も、自分がもう、これまでとはまったくの別人であると、はっきり認識できるくらいに、しっかり変わってきていたのである。
「おっどりゃあ、えーつら、どこから出てきやがったんじゃ。」
くっこの手には、それまで見たこともないような機械が握られていた。
さきほど集合した時に、チーフからもらったのである。
彼女が探していたのは、空間の隙間、のようなものだった。
恐竜たちは、この世界ではないところから運ばれてきたわけだ。
過去からか、それとも他所の世界からか?
空間の裂け目の痕跡が残っているはずである。
そうしたら、その出発地点を探せるかもしれない。
犯人の姿が、あるいはアジトのようなものが、浮かび上がる可能性がある。
『紅バラ』たちは、人海戦術で、町中を細かく探索していたのだ。
ちなみに『紅バラ組』は、もはや世界中に配置されている、巨大な闇の少女群団であった。
だから、恐竜が現れた、地球上のいたるところで、同じ捜索が行われていた。
一方、マツムラの研究所などは、地球規模の大きな検知装置で、同じことをやろうとしていた。
さらに、アニーさんも、あちらこちらで、その強力な能力で、主犯を追っていた。
しかし、犯人らしき者の陰は、なかなか浮かばなかったのである。
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リリカは、さすがに、いささか呆れたり、あほらしくなってきたりもしてきていた。
「まったく、みなさま、勝手な事ばかり。もう少し協調ということが出来ないのでしょうか?」
「まったくです。リリカ様。」
同じように、うんざりという顔でアリーシャが答えた。
「ダレルさんは、どうなってますか?」
「女王様に捕獲されて、どこかに投獄されているようですが、場所は未確認です。たぶん、他所の世界でしょうから、ちょっと見つけるのは無理ですね。」
「あらら。まあ、本人が良くないですねえ。わたくしたちにも隠れて、よからぬ計画を巡らせていたに違いないですから。まあ、大方、彼がやりたいことの想像はつきますが。」
「もうすぐに『祝典』ですが、女王様は、どうなさるのでしょうか?」
「ふうん・・・さあて。もう、そろそろ、お考えを聞いてみますか?」
「はい、」
大きな角と牙を露わにした二人は、今、その姿を地球人が見たら、まさしく悪魔か魔女そのものに違いない。
しかし、そこにアニーさんから連絡が入ったのである。
『はーい。お待たせしました。アニーです。女王様が、会議を開催しますから、ご出席ください。はい、データ送ります。じゃ!』
「おーい、アニーさん、何がどうなってるんですかあ?」
リリカが空に向かって叫んだ。
『会議で説明しますから・・・じゃ・・・』
ふたりは、再び、さらに呆れ顔になった。
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ブリューリは、まだ地下に潜っていた。
そこは、すでに地球の核に接している場所で、人間どもがやって来られるような場所ではない。
愚かなアニーが見つけることも、まずできないだろう。
とはいえ、ブリューリは、まったく思ってもいなかった禁断症状に突如として襲われていた。
身体中がおかしい。
体と言っても、彼の体には明確な区分はない。
けれども、どこという事はなく、全てが異常だった。
病気になることなどは、絶対ないはずの彼自身である。
あまりの苦しさに、ブリューリは、ぐちゃぐちゃとよじれ続けていた。
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『地球自身』は、宣言したとおりに、第三王女暗殺に乗り出していた。
人任せにする気などは、まったくない。
こういうことは、自分でやるものだ。
『地球自身』は、もうすでに、タルレジャタワーに到着していた。
この存在にとって、ここの警備などは、無いのと同じである。
地球皇帝は、最上階にいる。
エレベーターなどに乗る必要はない。
『地球自身』は、気体になっていた。
大気の中の移動も、自由自在である。
どのような堅牢な建物にも、どこかには、隙間といものはあるものだ。
でないと人間は最終的には窒息してしまうだろう。
「ばかな人間たちだ。『地球』を甘く見るものではない。」
そう、いくらか、自分に対しての奢りを感じながら、『地球自身』は入口を探った。
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