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わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第六十六章

 ************   ************


「せっかくですけど、それはあたくしには無理です。」

 女将さんが申し訳なさそうに答えた。


「ここをやって行けるのは、ヘレナ様のおかげです。しかも、あたくしは不死ですから、ここをたたんだ後も、ヘレナ様のご援助は欠かせないのです。だから、できないご相談です。」


 弘志とシモンズは顔を見合わせた。

 当然の言い分である。

 女将さんの立場で、もしヘレナから見放されたらどうなるか、それは頭からはっきりしていることで、頼もうとする方がどうかしていたのである。


 しかし、第一王女はそこで引かなかった。

「女将さんがおっしゃることは分かります。しかし、女将さんは勘違いしています。」

「何を?どう?」

 第一王女は、膝を前に詰めながら言った。


「あのヘレナ様は、本物の女王さまではありません。もしここで女将さんが、あのヘレナ様の肩をもったら、真の女王様が現れた時に、困るかもしれないのですよ。まあ、はっきりとは言えません。しかし、来るべき時には、真の女王様が現れるのです。」


「いつ?あした、来年?」


「そこは、言い切れません。わたくしの人生が終わるまで、そう思ってはおりますが。いつ終わるのかはまだ決められてはおりません。」

「確かではない?」

「はい。」


「ふうん・・・・。あなた様は、ヘレナ様に対抗できますか?」

「わかりません。やってみなければ。でも、遠からず、ヘレナ様を滅亡させる行動を、やります。それがわたくしの役目です。わたくしは、真の女王様のご意向を受けて作られていると認識しております。事実かどうか確かめるすべは、与えられておりません。本能のようなものです。わたくしの脳には、ほんの一部ですが、ヘレナ様が支配できない領域があります。ただ、そこにどのような力があるのかは、まだはっきりとはしないのです。」


「いささか、あやふや、ですか? 確実ではない?」

「まあ、そうです。」

「ふうん。あなた様が第一王女様であることは疑いようがありませんが、あたくしが長年助けてきていただいたのは、現実のへレナさまです。ビュリアであった方です。2億5千万年以上ですよ。まあ、やはり、無理ですわねえ。確証がなければ・・・、あまりに冒険ですから。」


「弘子さん、そりゃあ、むりだよ、やはり。ここは、引き上げようよ。」

 シモンズがゆっくりと、言い聞かせるように言った。


「ぼくも、仕方ないとは思う。」

 弘志が姉を見ながら言った。


「そう・・・ね。もう時間がない。ヘレナ様が帰って来るわ。そんな感じがするから。」

 三人は、立ち上がりかけた。


 助っ人が現れたのは、その時だった。


『みなさん、こんにちは、アニーです。』

 空中から声がしたのだ。


「あらら、アニーさん。みつかっちゃったかな。」

 弘子があきらめたように言った。


『まあ、そうですけれど。でも、聞いてください。アニーは、あなたがたの味方をします。』


「はあ?」

 全員が、声を上げた。


 ************   ************


 一行は『仮の地上』に降りていた。


 駅前広場のような感じの場所なのだが、駅はなく、なにより人がいない。


 しかし、目の前には大きな建物がたくさん並んでいる以上、人間と同じ機構を持った知的生物がいるとしか思えない。


「えらく、静かですな。」

 同じことを考えていたと見えて、住職がまず、そう言った。


「そうですね。誰もいませんから。」


「でも、これだけの建物があるんだから、人がいるのでしょう?」


 ヘレナリアはほほ笑んだ。

「人がいなくても、建物があるという事は不思議ですか?」


「そりゃあそうでしょう。だって、誰が建てるのでしょうか? これを?」

 住職が、やや詰問調になって言った。


「そうですわね。でも、建物は女王様が意識をすれば、すぐに現れるのです。そのまま固定も出来るのです。ここの物質は、女王様によって構築されています。すぐに消滅もします。しかし・・・」

「しかし?」

 教授が繰り返した。


「しかし、ここには貴重な文化遺産が山盛りですわ。それらは、みな本物です。でも、物質であることに変わりはありません。すべては女王様のご意向に従います。いまは、皆さまのために、こうして出現しているのです。」


「どうも、わからないのですなあ。ここは『真の都』とか?」

「はい、その通りです。」


「ここには、死者たちの魂が存在するのですか?」

「まあ、そうです。魂というよりは、もっと具体的な存在ですが。でも通常、目には見えません。この方のようになっていれば、別です。」


「あなたも?」


「そうですね。わたくしは、元来人間ではないので、少し違うのですが、でも、まあ同じことです。」


「じゃあ、いまここにも、その具体的な霊たちがいると?」

「はい。そうです。でも、あなた方には見えていないし、接触してもなにも感じません。お互いに影響し合わないのです。」


「店主様のようになるにはどうしたらいいのですか?」

「女王様のご意向があれば、できます。」


「女王様は今、どこにいるのでしょうか? あのお城?」

 住職は、彼方の丘の上に見えている、巨大なお城のようなものを指さした。


「さあ、女王様の存在する場所は特定不可能ですから。」


「はあ・・・禅問答みたいですなあ。呼べないのですか?」


「それはまあ、お呼びすることは可能ですが、来てくださるかどうかは別問題です。でも、呼び掛けてはみましょう。」


「ぜひ、そうしてください。ぼくの『弟子』でもあるはずだから。師匠に呼ばれたら、来るべきものですよ。」


「なるほど。わかりました。では、街をご案内いたしましょう。まずは、『歴史文化博物館』に参りましょう。」


 ヘレナリアが一歩を踏み出すと、また動く歩道に乗ったようになった。

「どうぞ、続いて来てくださいな。」


 人間二人と、幽霊二人は、こんどはゆっくりと建物の間を移動してゆくのだった。

 

 美しい街だ。

 ゴミ一つ落ちてはいない。

 大気は無味無臭で、特に何かを感じさせたりもしない。

 でも、呼吸ができているのだから、あるには違いない。


 大きなビルを三つくらい抜けた先に、恐ろしく長い三階建てくらいの巨大な建物が見えてきた。

「あれがそうです。」


「これはすごい、こんな建物見たことないですね。向こう側が見えてないじゃないですか。いったいどのくらいの長さがあるのですか?」

 教授が感嘆しながら尋ねた。


「さあ・・・端っこまで行った方は、女王様以外にはいらっしゃらないかと。」

「はあ?」


「実際、限りがない、とも聞きますし、収蔵物が増えれば、またどんどん伸びるとも聞いております。」


「なむなむなむ・・・・・恐ろしや!」


「和尚さん、お経読んでる場合じゃないですよ。これは。奇跡でしょう。しかも目に見えてる。」


「ほほほ。さあ、中に入って見ましょう。ただし、迷子にならないでくださいね、探すのが大変ですから。」


「はい・・。」



 ************   ************


「アニーさんが、どうしてわたくしたちの助けに入るのですか?」

 弘子が素直に尋ねた。

 シモンズが、うんうんと肯いている。


「それは、ヘレナの指令だからですよ」

「は?」


「ヘレナは、今に始まった事じゃあなくて、一人ではないのです。弘子さんも言う様にね。2億5千万年前もそうだったんですから。その時、アニーに接触していたヘレナさんは、擬人的に言えば二人でした。現在もそのお二人はご健在ですが、ここでもう一人出てきたのです。ヘレナには階層があります。こんどのヘレナが階層的には一番上のようです。そこからの指示ですから。でも、そこが最高位かどうかは、アニーには判断不可能です。」


「もっと、いっぱい女王様が出るとか、かい、アニーさん。」

 シモンズが、いささか、あきれたように確認した。


「まあ、そうですね。多少は。いっぱいは、出ないでしょうけども。」


「そりゃあ、もうこの国の、長い模様入りの『飴』みたいで、きりがない。ぼくの雇い主は、何番目のヘレナなの?」


「さあ・・・・」


 アニーは、いつになく、はっきりしなかったのである。



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