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わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第六十四章 


 ************   ************


 弘志は、シブヤに急いだ。


 急ぐ理由があったかどうかはわからないのだけれど、理由があるような気がしたからだ。


 まさか、次の日、恐竜が大挙出現するなどとは、予想もしていなかったのだから。


 人の数に比べて、けっしてあまり広くはない、なんとなく危なっかしいホームを降りて、有名な『忠犬八チーノ』の前を横切り、中心街からは、少し奥まった場所に入り込んだ。


 来たことがない場所ではないが、彼の様な大人しい高校生が、この夜中にぶらぶらするのには、あまり適切とは言えない場所の様な気がした。

 

 ましてや、正体不明の『超高級喫茶』なんて、想像もつかない場所である。


 そうは言っても、そこは大家の御曹司である。

 お金はあまり持ってはいないが、それなりの用意はある。


 いざとなれば、助けを呼ばなくてはならない。

 彼は、雪子の指示に従い、吉田さんにだけは無断外出を告げていた。


「まあ、気を付けてくださいよ。」

 吉田さんは、それだけしか言わなかった。

 ポケットの緊急ボタンを押すと、どうなるのか?

 やったことはないけれど、漫画のように、救出エージェントが大挙して出てくるのだろうか?


 まあ、それはなさそうだったけれども。

 派手なネオンやら、新しい巨大な液晶広告パネルやらが、昔ながらにひしめく街を、弘志はかき分けて進んだ。


 **********   **********


 もと『温泉地球』の女将さんは、やや暇そうだった。


 まあ、並のお店ではない。

 コーヒー一杯だって、最低でも数千円はするような高級品ばかりである。

 財布の中身の、細かいおこずかいが、いつでも10万円位は入っている人でないと、なかなか対応しがたいお店である。

 

 ただし、品物は確かで、間違いはない。詐欺ではない。


 食器だって、並のものではない。


 歴代各国の王室が集めていたような超高級品ばかりである。

 もちろん、第一王女様の力があってのことではあるのだが。


 お客様は、固定客が多く、それなりのお金持ちが大半である。

 調理人も一級の人で、食材も並のお値段ではない。

 したがって、ここでのお食事代もバカにはならない。


 それでも、女将さんは人気者である。

 話題がものすごいのである。

 いったいどこまでが真実で、どこからが『ほら』なのか、いささか怪しい部分もあったが、そこがまた良いのである。


 タルレジャ王国の第一王女様が、時に出入りするということも、大きな宣伝材料になっていた。


 今夜も数組のお客様がいるが、多くは個室に入っているので、人数はよくはわからない。


 カウンターに1人、オープンの客席に2人、なじみのお客がいた。


 そこに、突然、絶世の美少年が現れたのである。


 女将さんは、彼の顔を見ただけで、それが誰かはピンときた。


 他のお客様だって、おや? と思ったに違いない。


 肌の色が違うが、でも、壁に掛かった大きな写真の、美しい褐色の美少女に、そっくりだからである。


「いらっしゃいませ。」


 女将さんは威勢よく言った。


「よく、おいでになりました。」


 弘志は、自分がどういう風に見られているのか、についての自覚は、あまりない少年である。


 こんな美少年が現れても、関心を持たない人がいたら、びっくりなくらいだ。


 ここまでたどり着く間だって、そうだった。


 何人かの怪しい人からも、声がかかった。


「いま新人のスカウトしてます、君!・・・おおい!」


 という感じである。


 実際、何度か雑誌のモデルもした。


 ただし、弘子の・・・第一王女の許可がないと、それは実現しない。


 一流のスカウトなら、良く知っているはずだ。


「まあ、大変。連絡なんかなかったわよね。」


 料理長も肯いた。


「どうぞ、こちらに、マツムラのおぼっちゃま。」



  ************   ************



 シモンズは、弘子と共に、こちらは弘志と違って、瞬間移動をした。


 シモンズが気が付いたとき、二人はシブヤのお店の前にいた。


 中のお客さんと、なにより女将さんがびっくり仰天したのは、当然のことである。


 それは、弘志を個室に案内した直後の事だったのだから。


 明らかに、ふたりは少し時間移動もしていた。


「こうした効果は、一応、計算の範囲でしたわね。」

 弘子がつぶやいた。


「そうなのか?」

 シモンズは、いささか疑問に思った。


   *****

 

「うわあ・・・い、いらっしゃいませ。王女・・さま。」

 さすがの女将さんが、ちょっと舌を噛んだように言ったのである。


「タイヘンだ。マスコミが付いてきてない訳がないわ。」

 しかし、その気配は、まったく感じられなかった。


 カウンターにいた、常連の画家帽子を被ったおじさんが、くわえていた『高級チョコレート棒』を床に落っことした。


 彼は、ある大手雑誌社の経営幹部である。


「えらいこった・・・」

 カバンからカメラを取り出そうとしたが、女将さんに腕を抑えられてしまった。

 女将さんが、首を左右に振った。


 ************   ************


 役者は、そろってしまったのである。


「君が、ヒロシクンなのか・・・」

 シモンズが英語と日本語のちゃんぽんで言った。

 『クン』が付いていた。


「そっくりだね。」

 弘子と弘志が並んで座ると、それこそ瓜二つだと分かる。


 女将さんがお水を持って現れた。

「ようこそ、王女様、王子様。また、お連れの方もです。」


 薩摩切子の、高級ガラスコップを置きながら女将さんは言った。

「何ごと、ですの?」

 興味津々の女将さんである。


 『王子様』と呼ばれることは、弘志は稀である。

 まあ、実はそうなのだが、学校の友人たちはほとんど意識していなかったし、自宅でそんな言葉は出てこない。


「女将さん、ここに居てくださらない?」

 弘子・・・第一王女そのもの、が依頼した。


「あらら、まさか、あたくしにご用事なのですか?」

「はい。」


 女将さんは、やや不興気に応えた。

「まあ、じゃあ、少しお待ちくださいね。しんちゃん(料理長兼店長である)に、言ってくるからさ。」

 女将さんは、そそくさと部屋から出て行った。

 

「ふうん・・・」

 シモンズがうなった。

「これは、どういう、いきさつなのかなあ?」

「偶然よ。」

 弘子があっさりと答えてしまった。

「予定じゃないですわ。」

「そう・・・ふうん。怪しい・・・」

「いいでしょう、別に弘志さんがいたって。」


「まあ、それはそうだが、ヘレナの言いつけとかじゃないの?操られてるとか。」


「それは、見た目じゃあ分からないわ。ね? 弘志さん。どうなの? あ、わたくし、いま、裸だからね。念のため。これ、分かる、かしら?」


「あ、え? 裸・・なのか、姉さん。いや、そこは実は、もう、知ってます。まあ、今は、そうじゃないと思いますけど。操られていたことは事実だろうし、自覚は持たないからね。」


「ふうん・・・まあ、分からないでもない。」

 ルイーザに操られた時の自分の意識を思い出しながら、シモンズが応じた。


「でも、最初に、自己紹介してください。それか、姉さんから紹介とか。」


「ああ、そうか、初対面だものね。こちらは、シモンズ様。アメリカ国最高の天才少年。今は、ヘレナ様ご自身の、しもべ、です。」


「しもべじゃない。契約上、部下ではあるけれども。ときに、ここはアニーさんには、見られてないのかな?」


「さて、どうでしょうか。名目上は、秘密空間です。ヘレナ様ご自身が使うためにね。でも、確信はないですわ。」


「さっさと、本題を済ました方が良いな。で、消える。」


「そうですわね。確かに、ヘレナ様がいつお帰りになるかも、問題です。時間を多少いじったので、すぐには見つからないとは思いますが。」


「ほう・・・」


「でも、まずは、ときに弘志さま、あなた、だれに聞いて、ここに、きたの?」


 弘志は、これに、果たして回答してよいのかどうか、少し迷った。


 この姉は、普段の姉ではないことは確かだ。

 もし、普段の姉ならば、こんな質問は、しないだろうから。

 聞かなくても、分かるから。


「いやあ・・・それがね・・・」



 そこに、女将さんが戻ってきたのである。


「すみませんでしたあ。さて、で、なんでしょうか?」


 弘子と弘志が同時に言いかけた。


「あなたどうぞ。お先に。」


「いえ、そこは、姉さんからどうぞ。」


「あなた、言いなさいな。姉の命令ですわ。」


「はあ・・・では。あの、女将さん、『宇宙警察』の警部さんに、連絡をとって下さい。協力依頼したいのですが。ああ、でも、ぼくは、自分が何を言っているのか、まだ、いささか解ってないんだけれども。」


 弘子とシモンズが、顔を見合わせた。



 ************   ************






































 



 



















 

 



 































 



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