わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第六章
アリム(ジャヌアン)自身の計算では、今日、逮捕されるであろう確率は99%。後は、今日殺害されるか、追放されるか、交通事故に遭うか(宇宙船が頭の上から降って来るとかだが)・・・などなど。
そうして、彼女の考えによれば、逮捕された方が、遥かに仕事がやり易くなる。
実際の暗殺時には、彼女は拘束されている。
愚かな古代人たちには、その仕組みは、まず解明不可能であろう。
ただし、女王は除く。
それと、リリカが問題だった。
女王については、ダレルがうまく彼女を支配下に置ければよいが、まあアリムが見るところ、普通ならうまくゆかない。
ダレルは優秀だが、実はかなりの甘ちゃんであり、女王に甘えたいという深層心理内の願望がある。
そこで、手は打った。
この連中を管理できれば、もう成功したも同然だ。
他に障害となる存在は見当たらないからだ。
しかし、アリムは、絶対に忘れてはならない存在のことを、実はまだ知らなかった。
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シモンズは首都タルレジャに移る前に、東京の最高級マンションに居候していた。
ここは、「女王の思念」にも影響されない、特殊な場所なんだそうだ。
人間は、高いところに住むと、自分がやたら優越した存在であると考えやすい。
なので、社長室などは大概上の方にある。
それは、この国の人も、母国、大アメリカ国の人間も、ロロシアの人も、同じらしい。
しかし、高いところにいれば、自然の法則から言えば、やがて落っこちるのが当たり前である。
実のところは、顔の見えない誰かが、じっと支えてくれているのだという事をよく知っている人は、わりと落っこちないものだが。
「とはいえ、女王は厄介だ。支えがなくても、まず落っこちないからな。」
シモンズは、秘かに監視している女王の動きを横目で見ながら、「ネギトロ巻き」をつまんでいた。
この国の食べ物の中でも、大いに気に入った部類である。
「あれ?おかしいな。何だろうこれ?」
女王につかず離れずして、追いかけているシモンズの監視装置(と言っても、ほこりよりも小さいが)がおかしなデータを送ってきだした。
「これは、精神錯乱の症状だな。いやいや、あの化け物がかい? ううん。いやいやいや、これは意外や意外、面白い事になったかもしれない。映像、映像。ん? 何だろうこれは?」
シモンズは特製のパソコンにかじりついた。
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「あなた方、なにするの!」
弘子は思わず叫んだ。
右手には、もう腕輪が嵌められている。
「恐れ入ります女王様。アリム様が、こうするように、おっしゃるものですから。」
二人のリリカの顔が歪んで見える。
「痛い!痛いわ!やめてください。これはたまらない。ああ、・・・・・」
「肉体に寄生している女王の意志が、なぜかこれに支配されてしまうのね。不思議ね。」
リリカ(本体)が言った。
「ええ、その仕組みが知りたいです。」
「まずは、ご命令を実行しなければ。ダレルさん、上手く行きましたよ。」
地下に沈んだはずのダレルとソーが、床の上に上がってきた。
「ああ、成功だね。ちょっと気の毒だが、仕方がない。言う事を聞くようになるのに10分くらいはかかるかな。妹よりも、しぶといだろうからね。」
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ヘレナの本体は、かつて経験した事と、非常によく似た感覚を味わっていた。
ブリューリに包み込まれて、彼の虜になった時と、そっくりだった。
抵抗心が無くなって、なんでも指示に従いたい。
今のご主人さまは誰?
「それは、当面は皇帝陛下だよ。それから総督閣下。その上に、ダレルさんがいるんだ。この人たちに従いなさい。」
不思議な声・・・ダレル様のような・・・・・・
もう逆らわない・・・地球でも滅ぼすわ。命令されたら・・・。
「そうだよ、それでいいのですよ。」
弘子は目覚めた。
ダレル様がいる。
「いかがですか?女王様?御気分は?」
「はい。あなたに従います。何もかも・・・。」
「いいでしょう。しっかり働いて下さい。あなたには、地球帝国の「初代皇帝陛下」となっていただいて、地球人類の幸福を見守っていただきます。」
「はい。わかりました。」
「やり方は、だんだん指示しますから心配ありません。現皇帝は、あくまで仮の存在であり、短期間ではありましたが、セレモニー当日に引退していただきます。つまり、即位はしない。よって正規の皇帝ではない。けっして妨害しないでくださいね。なお、総督閣下はそのまま総督閣下になる。」
「はい、わかりました。」
「あなたには、帝国創立のセレモニーの後、タルレジャタワーに入っていただきます。」
「はい。」
「それでよし。いい事ですよ。みんなの利害が、大体は、うまく合致するんだから。」
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道子への指示は、最初からダミーだった。
このくらい図っても、弘子を上手く騙せるかどうかはわからなかったが、意外にも上手くいってしまったので、ダレルは少し気味が悪かった。
「いやいや、まだ、その裏が用意されているに違いない、と思った方がいいな。相手が相手だからな。」
リリカ(本体)とリリカ(複写)は、自分たちが何をしているのか、よくわかっていなかった。
アリムが、ここに設置した心理コントロール装置の効果は、抜群だった。
ただし、ダレルには効果がない。
そこは、協定と行くしかなかった。
二人の利害は、ずいぶん互い違いではあったが、それでも大枠では合意できた。
ダレルは、地球を事実上支配する。
それは、ひとえに火星再興のためだ。
女王が思っているような、のんびりしたものではダメなのだ。急速な再建が必要だ。
そのためには、地球人を最大限動員しなければならない。
ここまで待ったこと自体が、もう過ちだが、そこは女王様の(つまり母の)顔を立てたまでのことだ。
一方で、アリムは、自分たちの未来を取り戻したいだけだ。
他に目的はない。
歴史通りに、女王様に即位してもらえればそれでよい。
やがて彼女は、妹によって永遠に追放される。
あんな偶然が起こらないように、もう一仕事しなければならないが、それは簡単なことだ。池を一つ潰せばよいのだから。
いくつかのイレギュラーは、アリムの計算では、きちんと歴史に収れんされて、問題は無くなるだろう。
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「ふうん。何を企んでいるのかな?しかし、ぼくはどうすべきなのか?」
シモンズは考えていた。
「ここは、ひとつ実験をして、僕の立場を明確にしよう。その結果、もしも僕にとって問題であれば、そこはまあ、ちょっとシャクではあるものの、『あの子』を助けなくっちゃな。契約は契約だ。」
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「やましんさん。幸子が留守してる間に、大変だったみたいですね。」
「まあ、こればかりは、人知の及ぶ所ではないです。残念ですが。」
「元気が出せそうですか?」
「しばらくは、無理かな。多少時間が必要です。」
「お饅頭なら、いっぱいありますよ。」
「ありがとうございます。いただきます。」
「ネギとろ巻きもあります。」
「ありがとう、いただきます。」
「かっぱ巻きも、どうぞ。」
「ありがとう、いただきます。」
「イカ焼きも、どうぞ。」
「ありがとう、いただきます。」
「たこ焼きもどうぞ。」
「ありがとう、いただきます。」
「おかきも、いっぱいありますよ。」
「ありがとう、いただきます。」
「まあ、そのくらい食べられたら、大丈夫ですね。」
「でも、何も書けそうにないんです、意欲が真っ白です・・・・」
「じゃあ、もっと、お饅頭降らせます!!」
「うぎゃあー。」