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わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第五十九章


 ************   ************


「ここが、儀式の間である。」

「おわー。広いなあ。」

 弟子は驚愕した。

 大奉贄典は、『当然』という顔をした。

「実際、ここに入ることは、決してたやすい事ではない。今は、扉を開けておいたのだが、普段は固くしまっておる。自ら開けることができるのは、第一王女様と、わしだけだ。」

「国王でも開かないのですね。」

「そもそも、国王は、ここまでたどり着くすべさえ、知らぬのである。」

「まぎれて、忍び込むことは?」

「それは、まあ、別に異世界ではないから、理論上は不可能ではない。しかし、正面玄関が開かぬであろうがな。」

「はあ、確かに。」

「万が一、正面玄関が開いても、ここは開かない。」

「なるほど。第三王女様であってもですか。」

「うむ。いやな事を聞くものではない。わしは、化け物ではない。しかも、あの王女様はただ者ではないゆえ、絶対にないとは言い切れないところが確かにある。なにしろ地球上で最高の権力を手中にしたのである。ただし・・・」

「ただし?」

「それは、見せかけであるがな。」

「そうなのですか?」

「そう。さて・・・ここに・・・」

 大奉贄典は、モザイク模様の壁を撫でた。

「ここに、窓が開く。」

「マド?」

「そう。ほれ。」

 彼が壁を撫でると、そこが透明になった。

 そうして、その奥の空間につながっているらしく見えた。

「いまは、こちらからは開かぬ。向こう側から『聖なる料理』を入れぬ限りはな。」

「なるほど。」

「この巨大なテーブルに、通常は第一王女様以外が座ることはない。しかし、儀式の晩には、ここに、二組の夫婦が座る様に用意をする。こちらに二つ、つまり新郎が二人。反対側に新婦が二人である。」

「椅子はどこに?」

「こうすれば、現れる。」

 彼は腕を振った。


 すると、フロアーから、椅子が浮き上がってきたのだった。

「十分な、魔法です。」

「まあな。しかし、魔法というのではないらしい。物質を制御しているだけということである。わしは、そのカギを預かっておるだけ。間もなくそなたに渡るが、まだ今は与えられぬ。」

「はい。」


 椅子は再び消えて行った。

「当日の式順データは、後で渡そう。つぎに調理室である。」

「はい。」

 二人は、いったん部屋から外に出て、長い廊下を歩き、やがて次の部屋に入って行った。

「ここも、神聖な部屋である。まず、はじめに、みそぎの為の小部屋がある。」

「はい。」

 思いのほか、ごく控えめなドアが開いた。

「入りなさい。」

「はい。」

 人が二人、やっと入ることが可能なくらいに、狭い場所だった。

 なにかが、突然びゅわっと通り抜けた。

「あらゆる、調理の邪魔となる余計なものを取り除いたのである。実際には、ここに入る前には、着替えの儀式をするのであるが、それは本日は省略。さあ、中にどうぞ。」

「はい。」


 弟子は、先に調理室に入った。

「おわーーー!」

 まっ白な、恐ろしく広い空間に、縦の薄赤いストライプが交互に入った壁。

 大きな長方形の調理台が二つ並んでいる。

 どちらかと言うと、手術台と形容した方が正しいようにも見えた。

 実際、上からは、影ができない手術用の照明器具と、よく似たようなものがぶら下がっている。


 奥の壁側には、大きなかまどの様な窪みがある。

「あれが、自動調理装置である。非常に古いものと聞いておる。火星のリリカ様が設計し、製作したと聞くがな・・・」

「あの、最近有名な、リリカですか?」

「さよう。あのお方も不死であると聞く。まあ、直に会ったことなどないがな。こちらが操作卓。実を言えば、ほぼどのような調理も、これで実行できる。カベのカマドに聖なる生贄を入れて、操作をすれば、それでよい。しかし・・・」

「しかし、ですか。」

「そう。『婚約の儀』や『婚礼の儀』では、特別な手料理を提供せねばならぬ。それは、この調理台に生贄を並べて、手作業で調理を行わねばならぬ。きわめて神聖な事柄である。」

「はい。」

「その、材料となる『聖なる生贄』は、特に新鮮なモノであることが必要なので、当日選ばれることになるが、普段のものは、ここで完全凍結保存されておる。いささか、最初は気に障るであろうが・・・」

 師匠は、今度は操作卓を撫でた。


 すると、かまどとは、ちょうど直角になる、長い壁が、一部透明になった。

 そうして、10段くらいの凍結保存された『聖なる生贄』が姿を現した。


 一体ごとに、きちんと寝かされていて、カヴァーが覆っているが・・・

「見た通りの、『聖なる人間』たちである。」

「うあ・・・・」

 弟子は絶句した。


「北島で育った、純粋種である。非常に神聖なものたちばかりだ。この状態で1000年以上、新鮮なままで保たれる。まあ、実際はその前には、まず、あるべき使命を果たすがな。」

「これは、映画とかでなら、ありそうでありますな。」

 弟子は、やっと、取り繕って答えた。

「うむ。ただし、みな信仰深い聖人たちである。そのエネルギーは、常人の比ではないのだ。」

「はい・・・あの、どのように、選ばれるのですか?」

「よい質問である。第一王女様は、いつでも彼らのリストを見る事がお出来になる。さまざまなデータもな。そうして、次回はどの体にするかを、じっくりとお決めになる。」


「はあ・・・あの、あそこから、かまどまでは、どう移動させるのですか?」

「すべて、自動である。ほら。」

 一体の『聖なる体』を入れた『箱』が棚からせり出してきた。

 そうして、床から移動台が現れて、その上に静かに乗った。

 『台』は、かまどにまで、それを、音もなく移送した。

 かまどが開く。


「まあ、本日はこの先にはゆかぬがな。」

 『箱』は元に戻って行く。

「あの、ご師匠様。」

「うむ。」

「彼らは、生きているのですか?」

「ふむ。そのような事があると思うのかな?」

「まさか。」

「ははは。そうであろう。しかし、彼らは実際、再生可能なのだ。生き返らせることができる。」

「まま・・・まさか・・」

「実のところ、そうなのである。」

「意識は?」

「まあ、これは、わしにはわからぬが、『ない』、と答えるのが正しいのであろう。ただし、第一王女様は、最後に彼らと、楽しく話をされるとも、聞く。」

「ううう・・・」

「これは、非常に神秘なことであり、神との会話が可能な、第一の巫女様のみの世界であろう。」

「はい。ああ! 確かに!」

「彼らは、ここから『真の都』に入るのである。このことに偽りはない。」

「お師匠様も?」

「まあ、よほどの事が起こらねば、そうなるであろうし、そう願っておる。そなたも、また、そうであるぞ。」

「はい。」

「あの・・」

「うむ?」

「新郎のお二人と、第二王女様は、ここのことはすでにご存じなのですか?」

「さて、どうかのう。新郎は、まだ知らぬであろう。過去、すべて、そうであったから。第二王女様は、儀式に参加する心構えは、すでに出来ておると、第一王女様から聞いておるがな。」

「ここで、何が捧げられるのかは、分かるのですか?」

「もちろん。」

「そうですか。」

「しかし、まずは、そなたの、心構えが必要である。わかるかな? 当日は調理の介添えを行ってもらう。予行演習はするから、そう心配はいらぬ。またその時になれば、極めて神聖な気分になる。自然にな。」

「ああ、はい。」

「よいかな、まずは、この後与える『秘書』を読みなさい。さすれば、様々なことが解って来ようぞ。」

「はい。」


 ************   ************


 くっこは、必要な化粧を自分で行った。

 紫色の口紅が、かなりまがまがしい。


 それから、紅バラの衣装を身にまとった。

 長い髪の毛を、ぼさぼさに纏めた。


「ふむ。良い出来じゃな。」

 リーダーが言った。

 くっこは、鏡を見ながら不気味にほくそ笑んだ。

「さあ、おめぇは、何じゃ?」

「わいは、紅バラじゃ!紅バラ組行動隊第5班、副リーダー、くっこ、またの名は、紅バラ組、殺し屋、レッドスネイクじゃ。」



 ************   ************


「弘子、大変大変、くっこが、くっこが、不良になってる!」

 ミアが叫びながら、弘子のところに走り寄ってきた。

「はあ?なんだそれ?」

 第一王女は・・弘子は、くっこに起こった夕べの出来事は、まだ聞いていなかった。


 ミアに引っ張られながら、弘子は教室に入った。


 髪の毛が、真の怒りに燃えあっがているような、真っ赤になって逆立っている。

 一見、毘沙門天様のようでもある。

 ちょっとぼやっとしていたその目が、厳しく吊り上がっている。


「あらまあ、くっこ。どうしたの?」

 弘子が声を掛けた。

「おう、弘子、来たんかい。わいは生まれ変わったんじゃ。まあ、よろしゅうな。おめぇとは、親友じゃからのう。」

『ははあ・・・・やられたか。』

 弘子は当然ながら、何があったか理解した。

『まあ、リーダーに任せたからなあ。こういうこともあり得るか。さあて、しかし、これはどうするかなあ。あの薬を使うと、ちょっとやっかいかも。リーダーの手前もあるしな。』


「ど、どうしよう・・・」

 ミアが弘子の陰で、少し震えている。

「おどりゃあ、てぇめぇ、ミア、こっちにきやがれ、今夜、わいらの仲間に入れたるけぇ! てめぇも、わいと同じになるんじゃ。」

「あ、あ、あ、あ、いいです。いえ、ご遠慮いたします。はい。」

「てめぇ、わいに逆らうんかあ!」


「ままま、くっこ、わたくしに免じて、ミアは当分は、ほっといて、くださいな。」

「ああ? おう、まあ、弘子がそう言うんなら、当分はそのままにしちゃるけどもな。」

「あ、あ、あ、ありがとうございます。」


 生徒たちは、遠巻きにして、この様子を見ている状況である。


「じゃあけど、てぇめえは、もう、わいの子分じゃ。そう決まっとる。」

「あ、はい、はい。でも、あの、弘子は?」

「けぇつは、すでに、並の玉じゃあねえわ。」

「わたくし、『タマ』ではございませんことよ。」

「わかっとるわぁ。弘子、てめぇの正体はのう! 『闇の女王』さま、じゃからのう。」


『ままま、リーダーは、いったい何を、教えたのかしらね。今夜、聞いてみなくちゃね。しかし、くっこのご家族が、ちょとだけは心配ね。こりゃあ、タイミング見て再洗脳した方が、やっぱし良いかな。』


 実際のところ、都内の各学校で、こうした風に、急激な不良化を見せる生徒が多発していた。

 ただし、アンジとは違うケースのように見える。

 しかし、学校も、自治体も、警察も、今のところは、最終的には手を打つ気はなかったのである。


 彼女たちは、体制側の、闇の用心棒の様な存在だったから。


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