わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第五十四章
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『どうやら、弘子さんのこの機械は、単に空間移動をするだけの機械じゃあないらしい。試してみたいけど、どこに行くのか、行っても帰って来れないかもしれないし、さて、どうしたものかなあ。』
シモンズは小さなキューブ型の機械を眺めながら考えていた。
『本人と話が出来ればいいけど、普段はヘレナが占領してるからどうにもならない。時々自由にされるらしいが、その時に連絡してくれるだろうか。可能性は極めて低いな。となると、自主的にやってみるしかないか。』
そこには、市販の機械のように親切な表示などは何もない。
恐ろしく小さなキーボードが張り付いているだけ。
さらにこれまた特小の表示画面がある。
キーを指で押すのはちょっと難しい。
しかし、この国には「ようじ」という便利な道具がある。
『そうか、アニーさんに聞いて見ようか。』
シモンズは、アニーに呼び掛けようとしかけたが、思いとどまった。
『まてまて、アニーさんは、あれでヘレナの秘書だからな。いつも味方だと思ったら大間違いだな。どうせこの様子だって、観察してるだろう。まあ、たぶん、見えないんだろうけど。』
シモンズは、ヘレナに要求して、『アニーからは見えない』作業台を提供してもらっている。
ホントかどうかはわからない。
『あにーさんの、ばか!』
とか、
『ぼくの彼女を復活させたからね!!』
など、紙に書いたりして、時々挑発してみているが、今のところアニーは反応しない。
実際、シモンズの『彼女』の復活は、試してみている。
『彼女』にとどまらず、地球上のコンピューターは、みなアニーに抑えられてしまっているが、新たな独立したシステムを構築できないかどうか試みている。
シモンズ自慢のシステムをうまく拡大させたら、地球上だけでなら、アニーに対抗できると見ているのだ。
そこで重要なのが、弘子さんの弟君だ。
今のところ、新しい、良い連絡方法が見つからない。
片っ端から、アニーに読まれてしまったから。
そんな中で、おかしなメールが一通、届いたのだった。
『なんだこりゃあ?』
【間抜けなアニー君には読めないよ。】
『ふうん。差出人不明。罠かな? 乗ってみるか? どうしようか?』
シモンズは、ちょっとだけ考えていた。
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「いた、あそこじゃ。7番8番左じゃ。挟み撃ちにせえ!」
隊長が通信する。
何かが、ビルの狭い間を駆け抜けぬけてゆく。
早い。
人間が走る速度じゃないようだ。
けれども、その姿かたちはどうやら人間らしい。
体は、まだ小さい。
けれど、このバイクも素早い。
キキキっとタイヤが悲鳴を上げるが、エンジンの音そのものは、相変わらず静かなものだ。
「右にそれた。くそ。わいが先に入るでぇ!」
副隊長が宣言した。
小型バイクは大概のところに侵入してしまえる。
しかも、異常に運転が上手い。
とてもアマチュアとは思えない。
二台のバイクが追いかけて行く。
人影は裏口のドアを開けようとしたが上手くゆかない。
予定外だ。
かなりあせっている。
追い詰められた。
また走る。
左に曲がる。
「しまった。行き止まりか。」
「よっしゃ追い詰めたでぇ! 集合じゃあ。」
隊長が指示する。
影は行き場を失った。
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「まずいなあ、おいつめられちゃったべ。失敗、失敗。」
接続者がのんびりと言った。
「こらこら、なんとかしなさい。」
キャニアが接続者の背中をどんとつついた。
「まだ、無理だと言ったのに。」
「でも、情報は取ったべなあ。」
「ここで捕まったら、意味ない。助けてよ。」
「あいよ。じゃあ、開けるべ。よいしょっと。」
壁が突然無くなった。
一瞬だけれど。
アンジは消えた。
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「あらら、消えた!!」
副隊長があきれて言った。
「くっそう!おどりゃあ!あと一歩じゃったのに。」
隊長がうなった。
「えーつが、ここんところの『影』じゃろか?」
「わからん。しかし、わいらの周囲を探っとる事は確かじゃ。アサクサ部屋の通信機が止まっとるようじゃ。アンディちゃんに通信コードを変更させた。データ取られたかもしれん。」
「じゃあ、メンバーがばれるじゃろうが。」
「いや、あれはおとりじゃケーな。こがんこともあろうかと。」
「さすが、隊長じゃ。」
「いやあ、えーつら、甘く見ちゃあおえん。一応組長には知らせにゃな。」
「こえー。鉄拳が飛ぶ。」
「まあな、ここは引き上げじゃ。」
「あい!」
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「ごくろさん。アンジさん。ひやひやしたっぺ?」
アンジは事務所に帰ってきていた。
「べつに・・・」
アンジはケロッとしている。
「まあ、よかった。捕まらなくて。」
「これ、データカード。でも、おそらくイミテーションだろうな。」
「どうして?」
「取ってください見たいに、乗ってたから。まあ、言われたようにはしたけど。」
「上等です。アンジさん。休んでいいよ。」
「どうも。」
アンジは部屋から出て行った。
「どう、思う?」
接続者が尋ねた。
「さあ・・・第一王女が不良さんのグループのボスだなんて、あり得ないと思ってたけどなあ。」
「まあ、分析してみようじゃん。ぼくが思うに、意外と何か出てくるような気がするんだなあ。」
「どうして?」
「裏の裏だべよ。あの王女はへそ曲がりだべな。」
「ふうん。ねえ、アンジさん、どうするのですか? 警察も、気が付くかも。」
「だべな。というか、王女がぼちぼち嗅ぎつけそうに思うなあ。移動すべっか。」
「やっぱ、誘拐でしょう。それは。」
「まね。でも、彼女は必要だべ。研修所が動き始める。今日はシブヤ。明日はサッポロ中央にセンダイだろう。来週にはフクヨカにもできるし・・・来月には全国全州主要都市に整備完了。よその国も似たような状況で、どんどん施設整備されてるべ。そんで、不感応者がどんどん洗脳されるべな。ゆったりしてたけど、そうもゆかなくなったべなあ。情報では、『過激派』があさってにも大規模テロやりそうだし。」
「どこで?」
「それが、どうやら北ロドロンらしい。」
「南じゃなくて?」
「はいー。たぶん。」
「警告は?」
「そっらあ、おいらたちのお役目ではないっぺ。協力はしないだども。邪魔もしないのがおいらたちの流儀だっぺな。」
「まあ、ね。」
キャニアは、少し不満そうだったが、それ以上の情報は、残念ながら聞き出せなかった。
「そこで、予定通り、研修所の稼働を遅らせっぺ。今日は、シブヤは大混乱だべなあ。行かない方がいいだべな。」
「やりますか。」
「はいー。だども、あくまで、平和的に。」
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