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わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第五十二章

  **********   **********


「しかし、お姉さま、これで、めでたしめでたし、という訳には参りませんわ。皇帝陛下になんとご説明するのですか。」

「まあ、女王さまのご意向です、と。」

「そりゃあ、可哀そうですわ。いくらなんでも。あれでも一生懸命なんですから。」

「そうかな・・・そうよね。じゃあこうしましょう、もっと良い人がいる、と。」

「どなたですか?それは。」

「杖出首相さん。」

「は?!」

「いいでしょう。ぴったりよ。本人の為にもなる。あの方なら、お芝居だって厭わないでしょう。権力の維持のためですもの。十分お釣りがくるわ。」

「ふうん。いつ伝えるのですか?もう明日ですわ。」

「そりゃあ、今から。ほら。」


 二人の目の前に、杖出首相が現れたのである。

「これじゃあ、『奥様は宇宙魔女』ですわね。」

「まあね。いらっしゃいませ、首相様。ちょっとご相談がありましてね。」


 **********   **********


「じゃあ、見に行きましょうか。」

 和尚さんが、立ち上がりながら言った。

「行くって、これからですか? もう暗くなりましたよ。」


 二人は外に出て、ゆったりと歩き始めていた。

「そこがよいのです。あの店は、開いていたときも開店は午後7時でしたから。」

「はあ、何時まで?」

「深夜2時半でしたな。丁度良い時間でありました。」

「はあ・・・しかし、なぜ幽霊は夜出るのですかな?」

「そりゃあ、あなた、もうひとえに人間の都合ですよ。」

「はあ?」

「夜は人間にとっては、危険な時間です。人は暗闇ではよく視力が効かない。太古の時代から、そこが動物たちに襲われる時間帯です。怖いものは夜出るのです。だから、怖いもを見たいなら、夜なのですな。」

「それだけ?」

「はい。それだけ。」

「なんだ。」

「もっと期待しましたか?」

「中国の古典とかが、出てくるかと。」

「ははは、拙僧は経済学部なのでね、」

「また変わった方ですな。マルクスですか?」

「いやあ、拙僧は主に、ケインズさんでした。マルクスさんも多少はやりましたが。」

「ぼくには、さっぱりわかりませんよ。」

「ははは、それでよいのです。僧侶にとっては、どっちでも構わない。居場所さえ与えてくれるならばね。」

「ふん。天国や地獄は同じですかな?」

「そうだと思いますけれどなあ。」

「火星人も、同じですかな。」

「そうですなあ、太陽系内なら、皆同じでしょう。入るドアは違うかもしれないが。」

「ほう・・・新説ですか。ぼくは意見が異なる。」

「ははは、それはそれで、結構な事。ただ、人は皆、同じ夢を見ているだけですよ。別の角度から。」

「フロイトとかフロムとかもやったのですか?」

「いやあ、本は読みましたが、よくわからなかったですなあ。」

「同感です。」


 寺を出て左に曲がり、坂道の上りを超えると、突然遥かな向こうまで見渡せるような場所に出る。

 しかし、この暗闇では、あまりはっきりとはしないが、今日は月がわりと明るい。

 大きな鉄塔が右から左へと並び、道がずっと向こうに延びているが、その奥にまた、こんもりと森らしきものが浮かび上がっている。

「あそこの中ですな。すぐです。」

「はあ、けっこうありそうな・・・・」

「いやいや、いまどきはオオカミも出ませんから。」

 和尚はそう言うと、どんどんと歩いて行った。


 ************   ************


「なんですか。また、急に。」

「ふふふ。失礼しました。時に、あすなのですが、首相様はご存知でしょう?」

「なにを、ですか?」

「シブヤに『研修所』ができますの。」

「ああ、もちろん。担当大臣が開所式に出席するはずですが。」

「すばらしいですわ。あなたも行きましょう。」

「はあ?ぼくは予定が満杯です。」

「大丈夫、時間を空けました。」

「はあ?なんですかそれは。」

「総督閣下からの指令を出しました。ね?道子さま。」

「はい。あなたは、あす10時に『研修所』に行きます。帝国総督としての指令です。」

「そんな、むちゃな。」

「大したことではありません。あなたの仕事は、他の方がちゃんとやります。帝国の指令となれば、反抗は不可能です。そこがよいところなのです。」

「冗談じゃない。」

「それは、あなただけが言えるセリフです。今後も、そうありたいでしょう?」

 第一王女が、肝要な事を指摘した。

「そりゃあ、まあ。」

「このような些細な事で、その力を失いたくはないでしょう? だれのおかげで首相を続けていられるのかなあ・・・」

「つまり、どうしろと?」

「簡単です、あす、あなたがまず研修を受けてください。」

「はあ?」

「そうして、ごく簡単に、あそこの学習機にハマってください。ただし、実際の作動はさせません。後は少しお芝居を打ってください。そのやり方は、機械にハマったらわかります。」

「やだよ。改造する気だな。」

「あの機械は、確かに、不感応者の脳の改造が可能です。しかし、そこには度合というものがあります。あそこに設置させている機械は、簡略型で、あまり強力なものではございません。帝国の意向に沿う行動をすると、幸せに感じるようになるだけです。しかも、直接の効果は、せいぜい一か月くらいしか続きません。あとは、本人の学習に期待しているのです。それでも、大きな効果です。もっとよく効く機械は、中央研修所の病院に設置します。うむを言わせず脳を完全に改造できます。ただし、その結果、行動が多少ぎこちなくなることがあります。つまり、ロボット化してしまうのですが、それは、よほどの場合ですわ。ミュータントの中でも、どうしようもない方のみですの。普段はそんなことはいたしませんわ。で、あす首相様には一種の『デモ』をしていただきます。実際の効果はありません。しかし、国民へのアピールができます。いいですか、首相様、使いようによっては、あなたにとっても、けして悪くはないのです。敵をあざむくにはまず味方から。ですわ。」

「信用できない。」

「まあ、今になって、なんという事を!あなたと、わたくしたちの仲ですわ。」

「『たち』と言われても困る。」

「あらら、そうでしたっけ。こちら、『地球帝国の総督閣下』でいらっしゃいます。」

「どうも、首相様。仲良くいたしましょうね。わたくし、この国の国籍も持っておりますのよ。」

「そりゃあ、どうも。杖出です。しかし、やはり、これはよくないですよ。結局は独裁だ。」

「地球人の皆さんが、あまりにまとまらないので、仕方なしですわ。これで平和が訪れます。核兵器や生物化学兵器をはじめとする危険な兵器は廃絶され、資源は上手く配分され、医療の不均衡も無くなります。貧困もやがて撲滅されるでしょう。」

「どこか、おかしい。火星人の都合だろう。」

「都合じゃなくて、経験です。核兵器で故郷を破壊しつくしたという。また、おかしいと思ったら、そこを手直しするのがあなたのお仕事ですの。けっして硬直的なやり方に固執は致しません。ただし、核の再開発とかはダメですよ。ね、ルイーザ様。」

「はい。そのつもりです。タブーは除いて、あとは自由な思考ができる首脳の方が必要ですの。」

「それが、ぼくだと?」

「はい。そうです。」

「ふうん・・・ぼくは、そうとう危ない人間かもしれないよ。」

「わかっております。けれど、力の差は歴然です。問題になりません。あなたはもうすでに、組み込まれておりますのよ。」

「ふうん・・・・」

 杖出首相は、ぼつぼつと、反逆計画を練っていたのだが。


「それから、お父様との会見ですが、来週の金曜日、いかがですか?」

「来週?」

「はい。」

「それは、なんとかします。」

「わあ、うれしい!!」

「それは、わたくしのセリフですわ。お姉さまは、無役ですゆえ。」

「すみません・・・・・」

 弘子が舌を出して謝った。


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