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わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第五十一章 


 ************   ************


 広い本堂の板間に座布団を敷いてもらって、中村教授は座った。


「まあ、まずは、良くおいでくださいましたな。」

「どうも、急にお邪魔いたしましまして、恐縮です。」

「ははは、まあ、そう堅くならないでいただきたい。あなたのご不信は、ようく分かりますよ。拙僧があの王女様と怪しい関係にあると、警戒なさっている。なぜ、これまで話さなかったのか?拙僧がスパイであったのか?と・・・」

「まあ、そうですが・・・」

「ここは、広く言えば仏教の寺です。あの王女様は異国の宗教の親玉ですからな、まあ、不思議と言えば不思議なえにしではあるが、しかし、あの子のご実家は、実のところ当院とは、長い関係があったのです。」


「あの家庭は、かなり昔からタルレジャ教徒だったと、聞きますが。」

「そうそう。しかし、『明智幕府時代』から、タルレジャ教は我が国の宗教とは親密な協調関係にありました。当院は、仏教寺院でありますが、あの御実家の事業の、このあたりにおける連絡事務所のようなことも致しておりまして、おかげざまで、経済的な利益も得ていたのですな。」

「それは、認識していませんでした。」

「まあ、あなたは知らなくて当然です。しかも現在は、そうした必要性は無くなったが、まあ交流関係は継続しておりました。あの子の父上は、ときどき、何かにお疲れになると、ここに尋ねて来て、よくそこに座っていたものです。あるいは、このあたりをぶらぶら散策しておられた。この、ずっと奥にまた森があるのですが、そこに古い洋館があるのはご存知かな?」

「いや、知りません。しかし、それは・・・意外と言えば意外。」

「まあ、心を落ち着かせるための場所は、それがどこの宗教の寺や教会であるかということは、必ずしも関係はないですからな。まあ、爆破されちゃあ困りますがね。ははは。いや、失礼。その洋館は、現在は、ちょっとした幽霊屋敷として有名なんですが、実のところ、あの一家の所有なんですな。かつては、特定の会員の方にのみ、クラシック音楽専門のレコード店として機能しておりました。しかし、ご主人が他界なさリ、ここ数年は、閉店しておりますがな。」

「はあ?・・・そこは、つまり、レコード店だったのですか? 今は? 出るのですか?」

「うむ。いや、実は、出ます。・・・出るのです。」

「・・・・・・・・・まさか?」

「・・・・・・・・うむ・・・。」

「御冗談でしょうに。」

「・・・・・あははははは。まあ、そうですなあ。ただ、王女様は、そこをあなたに見て欲しいと、おっしゃるのです。よろしければ、差し上げましょうとも。」

「はあ?うそでしょう。幽霊屋敷は要りませんし、まあ、幽霊程度ならまだ良いですがね、それじゃあ、余計に目立つでしょう。」

「いや。その程度のものではない。」

「はあ?なんですかそれは?」

「うぬ。あなたは、あの子と、いったいどういう約束になったのですかな? 詳しい事は、じかに聞けと言われてしまいましてな。」

「そうなんですか・・・いやあ、それがね、僕としては、浅はかと言うか、逃げを打ったわけですよ。自分でも恥ずかしく思うのですが・・・・しかし、我が子の為になるとなれば・・・」

「いや、それは無理もない。実際に、もしこのままご自宅におれば、奥様と非常に険悪なご関係に陥るであろうと、推察いたします。行政とも、またそうでありましょう。それはあなたの立場上、耐え難かろう。また、あなたの事であるから、学生たちへの影響も考えたでしょう。とは言え、あなたは、『帝国』の言いなりには成りたくない。しかし、一人で闘える相手ではない。いやいや、大丈夫。拙僧も、いわゆる『不感応』ですからな。まあ、ある種の避難に踏み切っても、なんらおかしくはないでしょう。第一王女は、やはり立場上認められぬことはある。しかし、あなたのことは、非常に、大切に思っているのです。そこで、そのあなたの一時避難に答えたわけでしょうな。」

「まあ、そうでしょうかねえ。実は、彼女との約束はこうなのです。」


 中村教授は、そのときの話し合いの続きを語った。


 ************   ************


「まあ、結局どれも、おいやなんですのね。」

 第一王女がとても魅力的に、長い髪を手で梳きながらつぶやいた。

 中村教授は、女学生との付き合いも多い。

 気を付けなければ、罠にはめられてしまう恐れもあるので、そのあたりの対応にはいつも気を付けて来ていたのである。

 しかし、この子はまだ17歳だ。

 とはいえ、平均的なこの国の17歳とは、ちょっと格が違うのである。

 しかも、自分が「化け物」であることをあっさりと認めてしまうような強者魔女である。

「そう難しく考えないでほしい。ぼくは、これまでの生活を継続できれば良いのであって、特別な事は望んでもいないんだよ。」

「まあ、先生、これまでの生活は変わるのですわ。世界が変わるのですもの。でも、それは良い方向に変わるのです。間もなくこの世界の核兵器は全廃されます。民族紛争などは停止され、飢餓に対する強力な回復措置が行われます。各国間の富の偏在は緩和されますが、慎重に双方のバランスを考慮しますから、少し時間をかけます。そこに私が持ちます最先端医療技術を投入し、また、新しいエネルギー技術も導入します。食料に関しても、革新的な技術を与えます。考えてみてください。多くの、治療不可能だった病気の快復が可能になりますのよ。極端な事を言えば、先ほどお勧めいたしましたように、永遠の命を確保することも可能になります。ただしこれは当然非公開であり、『火星の女王さま』だけがその実施の判断を行います。」

「ちょっと確認するけど、君が女王様なの?」

「わたくしは、まあ、女王さまの代理ですわ。」

「なんだいそれは。」

「まあまあ、そこはいまは追及しないでくださいな。でも、そうなるのです。紛争の解決手段としての戦争は、女王様が認めません。まして人類は、戦争しようとしても実行は不可能になります。まあ、包丁で喧嘩することくらいは、できますけれどね。それもおそらく、けが人が出る前に、途中で実行不可能になるでしょう。」

「なんで? どうして?」

「まあ、この世界のすべては、女王さまの『目』によって保護されておりますからです、どこまで許容するかは女王様のご判断次第ですわ。例えば、万引き行為は人類に任せるとか、職場内の喧嘩には不介入とか、

それを担うのは、女王さまの『目』であり『手』であり『力』である、アニーさんです。ね、アニーさん。」

『いやあ、そこまでかっこよく言われると、ちょっとは照れちゃいますよねえ・・・』

 空中から、アニーが答えた。

「なんだ、今の声は?」

「天の声ですわ。と、先生に言っても仕方がないいかも。わたくしの秘書であり、ボディ-ガードであり、知恵袋である、宇宙生態コンピューターの「アニー」さんですの。」

「なんだそれは?どこにいるの?」

「アニーさんはどこにでもいます。地球そのものであり、火星そのものであり、太陽系を構成するすべての物質そのものです。」

「いみふめいだよ。」

「直感的に考えてくださってよいのです。先生がどこに隠れても、アニーからは隠れることはできません。ただし・・・」

「ただし?」

「そこをごまかすことができるのが、ミュータントたちです。まあ他にも少しいますけどもね。彼らは、全てが敵じゃあありません。当然、わたくし達の仲間もいます。そこは『哲学』と、『選択』の問題です。まあ、一部憎しみに駆られている人たちもいますけれどもね。」

「ううん・・・・わからない。」

「さあ、そこで、先生、別の提案が必要ですわ。ね、道子さま。」

「そうですわねえ。お姉さま、新しい提案が必要ですわ。」

「うん。わかった。じゃあ先生、まず新提案その1ですわ。」

「気乗りはしないな。」

「まあ、お聞きください。先生に、タルレジャ王国の王室音楽顧問への就任を要請いたします。音楽院の教授も兼任です。」

「は?」

「オウシツオンガクコモン、です。カイヌ先生がなさっておられましたが・・・」

「いやそりゃあ、恩師だけど・・・」

「はい。ここで退任なさいます。その後任に、あなたに就いていただきたい。」

「カイヌ先生はどうなるの?」

「王国の、芸術顧問になっていただきます。」

「ほお・・・」

「あなたの報酬は、現在の教授職の3倍になります。また、住宅はこちらでご用意いたします。奥様も、ご一緒にどうぞ。奥様には、タルレジャ音楽院の教授ポストを差し上げます。演奏会についても、可能な限りご援助をさせていただきます。また、先生の演奏会も、です。」

「ぼくの体の事は知ってるだろう、無理だよ。」

「いいえ、回復が可能になりました。」

「はい?」

「新しい王立病院のシステムで、先生の難病は治療が可能になります。1か月、通ってください。きっと、再びステージ・デビューが可能になりますわ。」

「まさか・・・」

「信じてください。先生。」

「うううん・・・・それで、ぼくをうまく乗せられると・・・」

「まあ、そうですわ。皇帝陛下は、あなたを新しい社会に適応するよう再訓練せよとおっしゃるのです。しかし、このやり方の方が、よほど生産的ですわ。王国にとっても、帝国にとっても、あなたにとっても、奥様にとっても、また娘さんにとっても。彼女も、いまよりさらに良いポストが見つかったら、喜ばれることでしょう。先生が同意してくだされば、そうしたことも起こるでしょう。」

「ううん・・・自分の事はともかくとして・・・・。」

 教授は考え込んだのである。


 **********   **********





















  **********   **********


「やましんさま、31日は皆既月食ですよおー。お池も一応お祭りです。寒いから誰も来ないかも。」

「お饅頭は?」

「そりゃあもう、大量に準備してます。」

「女王様も来るのかな?」

「そのご予定ですけど。やましんさんもどうぞ。」

「冷えるから良いです。」

「強制しましょうか。」

「不思議が池は特に寒いので、ここで見ます。」

「ふうーーーーーーん?」

「何か嫌な言い方ですねエ。」

「まあまあ、楽しみですねエー!」

「はあ・・・・先に寝ます。」

 とはいえ、今回は見逃せません!

 でっかいお月様が皆既食なんて、これが見納めかも。


 ??????????   

 

「うわあ、やましんさん、ほらほら、お月様が消えますよお! すごいですよお!」

「こらこら。ぼくは何でここに居るの? さむー。」

 『不思議が池』の水の上で、池の女神様たちが、輪になって踊りを踊っています。

 よく見ると、その真ん中に座って、望遠鏡をながめているのは、女王さまではありませんか。

「女王様の『最高級天体望遠鏡』は、たとえ雲があっても関係なく、お星さまが見えるのです。しかも、倍率の制限がありません。どこまでも見えるのです。」

「そりゃあ、教科書に叱られますよ。」

「女王様は、特別ですから。」

「はあ・・・」

「あ、消えた。お月様がなくなりました。」

「いや、無くなった訳じゃあなくて・・・」

 幸子さんも、踊りに行ってしまいました。

 やれやれ、どこにいても一人ぼっちか。

 しかたない。

 いいお月様だなあ。


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