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わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第四十八章


 ************   ************


「で、その対策というのは、どんなことかな?」

 唇に、ケーキをくっつけたまま、中村教授は尋ねた。

「せんせい、ついてますわ。」

 弘子は、自分の明るくてやわらかい唇を、指で、ちょっと、かすめながら注意した。

「ああ、・・・失礼。おほん。」

「先生は、相変わらずですね、偉い方なのに、子どもみたいで、」

「子どもから、子どもみたいとは、まだ言われたくない。」

「子どもじゃないですわ、もうすぐ『婚約』いたしますのに。」

「え? そうだったかな・・・」

「先生にもご招待状はお出ししたはずですよ。ねえ、道子さま。」

「はい。とっくに、届いているはずですが・・・」

「『招待状?』だって、婚約だろう?しかし、そんなもの見たかなあ。ちょっと、ロンドンにも行っていたしなあ。」

「存じておりますわ。学会でしたね。」

「そうそう。いや、おほん、で? まあそれは、いいや、あの王国の事は良く分からないからな。・・・で、方策とは、何?」

 まず、弘子が言った。

「対策ですね。先生。まずその1。実際に、その通りに実行する。」

「やだね。」

「あ、そうですか。」

 ついで、道子が提案した。

「では、その2です。わたくしの権限で、機械の効果は無効にして体験していただきます。誰にも感づかれることはありません。ただし、事後、多少のお芝居は必要になります。」

「やだね。ぼくは役者じゃない。」

 再び、弘子が言った。

「では、三つ目ですね。先生そっくりな身代わりを立てます。理想的な対応をしてくれます。その後は、すぐ入れ替わっても、しばらく様子を見ても、かまいません。」

「それは・・・待て待て、いやあ、それはダメだよ。いくらなんでも、許せないよ。」

「奥様の事?かな」

 弘子が、意地悪そうに言った。

「いやあ・・・子どもに言う話じゃあない。」

「だから、もう結婚するんだって、言ったでしょう先生。王国の『婚約』は、事実上の『結婚』なんですから。」

「・・・いや、まあ、それにしてもだ、ダメ。すぐ入れ替わるんだって、二つ目のと同じだろう。あと、芝居を強要される。」

「先生、身代わりというのは、人間ではございません。コピー人間ですわ。」

「それでも、ダメなのモノはダメだ。コピー人間だって? なんだそれは?」

「文字通り、人間のコピーですわ。その時のその人のコピーなのです。だから、クローンではありません。それに、一瞬で消去できます。また、すべての記憶も、携帯の様に、いえ、もっと、瞬時に移行できますの。」

「そいつは、自意識があるのか?」

「当然ですわ。まったくの本人ですもの。」

「そりゃあ、殺人だろう!」

「それはもう、哲学の問題ですが、問題ありません。両親から生まれたのではなく、コピーですから。」

「いやいや、それは違うだろう。コピーされた時点で、ぼくとは別人だろう。」

「永遠には、生きられない設定なのです。ほっといても、3か月で、体が崩壊します。必要なら、コピーし直しします。」

「君たち、顔に似合わず、恐ろしい存在だったんだなあ。聞いたところでは、お母さんのお腹の中で、ドイツ語で「魔王」とか「こもりうた」とか歌っていたとかいう噂を聞いたことがあったが。まさか。。。」

「まあ、それは事実ですよ。先生、ちゃんと、覚えてますもの、ね、道子さま。」

「はい。お姉さま。その通りですわ。」

「いやあ、僕は帰る。この話は、もうお終いだ。」

「先生、じゃあ四つ目。消える。」

「は?」

「文字通り、消える。です。といいましても、本当に消すのではなくて、それは、五つ目ですわ。つまり、行方不明になる、という選択肢です。まあ、しばらくはね。先生の身のご安全は保障いたしましょう。奥様には、生存していらっしゃる事だけは伝えます。よろしければ、ですが。」

「ううん・・・・」

「どうなさいましたか?」

 弘子が追求した。

「ああ! 先生、そのお積りだったんでしょう。」

 道子が、指摘した。

「ふうん・・・・それしかないかなあ、とは思っていたんだが・・・。」

「いったい、どちらにお隠れになるお考えだったのですか?」

「こらこら、君たちに言う訳がないだろう?」

 即座に、弘子が言った。

「まあ、大方、『大慈悲山大雁寺』あたりでしょう?」

「むむむ・・・。」

「大当たり~~~~!ね、道子さま。」

「きっと、そうですわ。お姉さま。」

「君たち、やはり、化け物か・・・」

「わあ、うれしいですわあ。先生。よくそう言われますの、わたくし。大好き。」

「お姉さまは、化け物とか魔女とか怪物、とか言われるのが、とてもお好きなのですわ。ご存じなかったのですか?先生は。」

「むむむ、レッスンで、いくらなんでも、そのような叱り方はしないだろう。第一、王女様に向かって、言えるわけがない。大事な収入源でもあるし。」

「ああ、じゃあ、むかしから、そう思っては、いらっしゃったのですか?」

 弘子が、身を乗り出しながら聞いた。

「先生は、ご正直な方ですから。」

 道子が、うんうんと肯きながら、つぶやいた。

「そりゃあ、あまりになんでも、出来すぎるし、どんなことも、すぐに習得するし、恐ろしい記憶力だし、とてつもない知識があるし、人間ならありえない事を、あっさりとやってしまうし、怪しいとは思っていたことは確かだが。まさか本物の『化け物』とは、思っていなかったが。。。」

「まあ、そう言われるのはうれしいのですが、『バケモノ』というのは、正確ではございません。わたくしたちも人間であることは、間違いないのですから。」

「じゃあ、どこが『化け物』なんだ?」

「それは、ひ・み・つ。まだね。もし先生が、改造を受けてくださって、わたくしたちの仲間になるならば、話は別ですよ。」

「くそ。『改造』ってなんだよ。翼を付けたり、しっぽ付けたりするのか?」

「いえいえ、『永遠の』命を、お与えするのですわ。この宇宙の終末まで、死ぬことは出来ません。それだけですわ。その時が来るまで、わたくしヘレナに、お付き合いいただきますの。」

「十分、化け物だ。やだね。」

「まあ、考える時間は、まだ一杯ございますわ。あのね、先生、『大雁寺』の和尚様は、わたくしのなが~いお友達ですの。だから、そのお考えは、正解だったのです。もう、ご連絡なさったのですか?」

「くそ、もう、知ってるんだろう、君? そこまで言うならば。」

「まあ、ほほほほほほ!先生、さすが鋭いです。はい。聞きました。でも、あそこも必ずしも聖域ではないですよ。そこはお覚悟なさいませ。まあ、こそこそしなくてよいようには、配慮いたしますわ。」

「なんで、火星人に、配慮してもらわなきゃあならないの?」

「先生。あなたは、まだ十分に、この状況を理解できていらっしゃらないのです。まあ、しばらく身を御隠しになることには、同意いたしますわ。わたくしと、総督閣下があなたをお守りいたしますから。秘密は守ります。奥様にも、居場所は伝えません。もちろん、この国の政府にも、帝国にも。」

「まてまて、道子は地球帝国の『総督閣下』なんだろう。じゃあ、もう伝えたってことだろうが!?」

「おほほほほほほ! 先生、道子は表向き皇帝陛下の言いなりですが、実はちょっと違います。」

「どこが?よくわからない。」

「先生、わたくし、実はお姉さまには逆らえませんの。絶対に。お姉さまに、殺せと言われたら、誰でも殺しますわ。先生でも。ヘネシー皇帝でも。」

「ぞお~~~~なんというか・・・・・ううむ・・・~~~~きょうとかぁ~~・・・」


 中村教授は、少しお国言葉を出しながら、口を開けたまま、絶句してしまった。


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