わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第四十六章
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「お姉さま、これでは苦労して王国まで飛行機や自動車を連ねて帰った意味がございませんわ。」
ルイーザ総督が文句を言った。
そこはもう、自宅の中の、なつかしい彼女の自室である。
移動時間は、事実上ゼロに等しい。
「まあ、文句言われる筋合いのものではございませんわ。」
「それはまあ、そうですけれど。」
ごろ寝をしていた姉が半分起き上がりながら言った。
「これこそ、魔法の神髄ですもの。でもね、この方法ですと、民衆にアピールできる暇もありません。それは弱点なのですよ。」
「はあ、まあ、そう言えばまたそうですけれど、これは魔法というより、違法なのではないですか?」
「おじさんギャグ飛ばさないでよ。これはまあ、超法規的方法ですから、問題ございませんわ。あなたも寝っ転がりなさい。誰か来たら、すぐ帰ればよろしいですわ。」
「はい。では・・・」
ルイーザも、気持ちよい自室の床に、姉と並んで転がった。
よく掃除もされていて、ぴかぴかふかふかである。
「夕方のお勤めも済みましたし、練習の前に、丁度いいかなと思ったのです。では、松之山温泉で起こった出来事の映像を流します。アニーさん、よろしくね。」
「はいはい。では、『映写』いたします。」
アニーは古風な表現を使用して、そう答えた。
すると、例によって部屋の中の空間に、大きな映像が現れたのである。
ほとんど、そこにいるような感じになる。
そこは、四国州、松之山温泉の、大きなからくり時計塔の前。
洗面器とタオルを持った怪しい男たちが、ぐるりと輪になって二人の男を取り囲んでいる。
「これは・・・もしかして。」
「そうそう。こっちのおひげの方がダレルちゃん。で、このビジネスマン風の、なんとなく周囲と折り合わない感じなのが、かのブリューリさんに間違いないわ。」
「全員、なんだか浮いてますけどね。このさらに怪しい一団は・・・」
「あらら。この方たちはわたくしが派遣した、エージェントの皆さんです。」
「まあ、人間ですか? 」
「いえいえ、このかたたちは特殊なアンドロイド。ブリューリさんの戦術も効かないわ。」
「なるほど。無敵ですか。」
「まあ、壊れない限りはね。」
「そうしたら・・・あ、闘いが始まったわ。」
ひげもじゃのダレルと思しき人物が強行突破を図ろうとした。
「ダレルちゃんの空間転移装置には弱点があるのよ。あまり近くに人間がいると安全装置が働いて動作しない。」
「それって、おかしな理屈ですわね。」
「そこがダレルちゃんなんだなあ。根本的に悪党じゃないからね。巻き添えの人は作りたくないわけ。それに人に見られたくもない。」
「おお、なるほど。あ、洗面器がぶつかりあってる。これは見たことがない闘いですわ。」
「タオルが長いでしょう?相手の首を巻いて失神せてしまう威力もあるわ。ちょんぎっちゃうこともね。ただし、ブリューリには効かないけれど。」
「あの、つまり、どうしたいのですか。」
「ダレルちゃんは生け捕り。ブリューリさんは。ほら・・・」
エージェントとダレル、ブリューリらしき男は、洗面器と洗面器、タオルとタオルで激しいバトルを繰り広げていた。
ダレルもブリューリも負けてはいない。
ちょうちょうはっしの闘いがしばらく続いた・・・
ついに、一人のエージェントが放ったタオルが、ブリューリと思しき男の首を飛ばした。
群衆は大騒ぎになった。
しかし、飛んだはずの首が、まるでプリンかゼリーのような不思議な動きをしながら、また元の体にくっついた。
これには群衆は度肝を抜かれたようになった。
すかさず、エージェントの一人が、小さな銃のようなものを取り出した。
それに気が付いたブリューリが、こんどは突然、変態し始めた。
人間の体が、ぐちゃぐちゃと崩れて、液体らしき怪物に変わって行く。
取り巻いて見物していた群衆は、おお騒ぎになって逃げだし始めた。
「よし、ダレルちゃんを召し取れ!」」
ヘレナが叫んだ。
エージェントたちが、一斉にダレルに、まるで生きているようにのたうつタオルを巻きつけた。
さすがのダレルが、地面にドカンと倒れた。
一方ブリューリは、銃の攻撃を受けたが、効果が見られない。
「そら、細胞を取れ!」
またヘレナが叫び、エージェントの一人がまるで刃物のようになったタオルをブリューリに向かって放った。
ゲル状になったブリューリは、そこにあった排水溝に逃げ込んでゆく。
しかし、間一髪、タオルの刃がほんの少しだが、細胞を削り取っていたのだ。
そのタオルは、エージェントの手元の洗面器にすっぽりと収まり、密閉された。
「並の洗面器ではありませんよ。液体も気体も個体も、何ものもけっして脱出できない構造になっておりますの。ほほほほほほ!おんどりゃあ、だれるちゃん、見たか!」
「まあ、お姉さま。品のない!」
「ああ、御免あそばせ。」
ついにダレルは、エージェントにしょっ引かれ、その場から消えてしまった。
この国の警察官が駆け付けて来てはいたが、まったく手が出せなかった。
「・・・と、いうわけよ。」
ヘレナは鼻を鳴らした。
「でも、肝心の怪物に、しっかり逃げられておりますわ。」
「細胞を取った、なぜ抗ブリューリ剤が効かなくなっていたのかが、これで解るってものよ。それから新しい薬剤か何かを作って、この世界中にばら撒く。もしそれで、退治は出来なくても、危なくって出て来られなくなるわ。まあ、当分ね。それか、降参するか。」
「はあ・・・お見事です。お姉さま。」
「ふんふん。」
「で、ダレル様は、いずこに?」
「まあ、ある場所に監禁しておきました。ぜったいに逃げられないし、助けにも入れない場所。あとで教えてあげる。一緒に行ってみましょうよ。あなた、まだまともに会ってもいないでしょう?」
「そういえば。」
「その前に、中村先生に会わなくてはね。」
「どうなさいますの?」
「拉致する。」
「は?」
「この状態で、呼んで、素直においでくださる方とも思えないもの。杖出首相様と同じ要領で、『パレス』でお話しいたしましょう。あなたもいらっしゃいませ。この後すぐに。」
「お風呂に入りたいですわ。せっかくですし。」
「それはまた、今度ね。」
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