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わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第四十五章

           **********  


 皇帝ヘネシーは、第一タルレジャタワーのてっぺんに、さっそく総督を呼び出していた。


「ご苦労であった。総督。」

 妹の前にひざまずいて、最高の礼を行いながら、ルイーザは答えた。

「いいえ、お待たせいたしました。」

「いや、よい。どうじゃ、ブレスレットが外された気分は?」

「おそれいります。あれは、二度と嫌でございます。」

「はっきり申すな、そなたでなければ許されまいに。」

「お姉さまならば、いかがですか?」

「いやみを申すな。まあ、あれは、半分冗談であったのじゃやからな。」

「ああ、そうですか。冗談でございますか。」

 大きな口をあけて、ルイーザはあきれたように答えた。

 皇帝は、それにはまったく反応なしに、こう、言った。

「そうじゃ。さて、それはともかくも、そなたに、また頼みがあるのじゃが。」

「何でございましょうか?陛下。」


 ヘネシーは、玉座から降りて、姉の前に膝を折って座った。

「実はな、間もなく東京のシブヤに、最新の『研修所』ができるであろうが?」

「はい、仰せの通りでございます。」

「そなたは、そのオープンには行かんのかな?」

「その予定は、ございませんが。」

「ふむ。ならば、姉上に行ってもらおうではないか。」

「は? ヘレナ様は、民間人ですが。一応、あそこでは、ですが。」

「そこじゃ。あの施設は、あくまで市民のための施設じゃ。違うかな?」

「いえ、合っていますよ。」

「ならば、王国の王女であると共に、かの国の市民でもある姉上が、そのオープンに立ち会うのは、実にふさわしい事とは思わぬか?」

「まあ、そう言う事も、あるかもしれませぬが・・・」

「そうなのじゃ。じゃから、そのように取り計らうのじゃ。よいかな?」

「ご命令ならば、是非もありませんが。」

「うむ。よい。で、ついでに、あの男・・・ほら・・姉上お二人のピアノの、先生がおったであろうが・・・」

「中村先生ですか?」

「そうじゃ。そやつじゃ。これも、ともに参加させよ。」

「はあ?」

「何じゃ、その気のない返事は?」

「いえ、あの、それは、どのような意図なのかが、わかりませんが。」

「ああ、そこか。いや、その教師は、不感応であろうが?」

「まあ、良くそのような細かい事をご存知ですこと。」

「ふふふ。いろいろと情報は来ておるんじゃ。そこで、そやつに、そこで最初の研修を受けさせよ。そうして、その感想を世間に公表するがよいぞ。」

「まあ・・・それはまた、ご名案ですこと。」


 『これは、ちょっと困ったことになったぞ。』

 ルイーザは内心、そう考えていた。

 しかしながら皇帝の指示であれば、意見は言えても、最終的には断わる権限はない。

 ヘネシーは、当然そこはわかっているので、少し、少女らしく、いたずらっぽくほほ笑みながら、追加して言った。


「非常に良い、宣伝効果があるであろうが?」

「まあ、そうですが、しかし問題もあります。」

「ほう? どのような?」

「先生のご機嫌を損ねる可能性がございます。それは、わたくしども二人にとってもですが、帝国にとっても、やや問題になるかもしれません。先生を敵に回す可能性が出てまいります。つまり、先生はあれで、かなりな力をお持ちです。」

「音楽家、がか?」

「陛下は、音楽家を少し見下しておられるようですが・・・先生は有名人です。社会的な影響力は小さくありません。何かあれば、ですが。つまり、見えない反対勢力に、利用される可能性があります。」

「ふうん・・・・」

 ヘネシー皇帝は、少しだけ考えていた。

「いやいや、それはそなたたちがきちんと管理すればよい。研修所の効果を示したいのじゃ。わかるかな?」


 『あったりまえですよ。まったく、この子は、偉そうに。』

 とは思うものの、決められたらそこまでになる。

「いまは、非常に注意が必要な時期じゃと、姉上も申されています。あまり無理はない方が、良いのではと、思いますが。」

「ふうん・・・そなたは、反対かな?」

「はい。」

「そうか・・・わかった。しかし、ここは、ひとつやってみようではないか。日本語でも『モノハタ、メシ』とも、申すであろうが。」


 『試されるのは、わたくしたちですわね。』

 それは、明白だった。

 しかし、まあ、そう言われれば、これ以上反対は出来まい。

「『ものはためし』、ですね。わかりました。陛下、そのように段取りいたしましょう。」

「さすが総督じゃ。頼むぞ。」

 皇帝は立ち上がった。



 **********



 そこで、総督ルイーザは、第二タルレジャタワーの最上階の自室から、電話で姉に連絡をとった。

  

『いやですわ。わたくし、無役ですもの。』

 自宅の部屋の中でひっくり返りながら、ヘレナは、当然あっさりと断った。


「いいえ、ダメですわ。お姉さまはアブラシオの中で、わたくしどもに忠誠を誓われましたでしょう?」

『おおお・・・そうきたか。ふうん。そこを言われると、キュウとも言えないわね。』

「でしょう?」

『まあ、どうせこれも、ダレルちゃんの入れ知恵でしょうねえ。実は松之山温泉で捕まえかけたんだけれどね、ブリューリと一緒にね。』

「え?それは、すごいですわ?で、どうなりましたか?」

『それがねえ、あ、ちょっと待って・・・。アニーさんこれ盗聴とか、されてない? わかった・・・ねえ、あなた、ちょっと、こっち来なさい。』


 広い広い総督室の壁に、ふいにドアが開いた。

「まあ、お姉さまったら・・・」


 ドアの向こうで、おいでおいでと、電話機を握った弘子が、手を振っていた。

 


 


 ************   ************



















 































 

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