表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/230

わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第四十三章


 アンジの父親は、それなりの会社の社長であるとともに、町内会長という立場にもあった。

 非常に一直線な性格であり、たとえ一般的には社会的に多少無理があることであっても、自分で決めた道は、誰に言われても決して譲らなかった。

 

 彼にとっては、自分の決めた道を、ひたすら早く、けっして止まることなく追及するのが、信条だった。

 おかげさまで、自動車が信号機で止まることも、踏切で止まることも大嫌いで、多少遠回りになっても、止まらないで行ける道があるのなら、わざわざ、わき道に入って行くように命令した。

「わが社に停止という文字はない!」

 が口癖であった。


 役所や郵便局で待つのも大嫌いだし、気に入らないと職員をすぐに怒鳴り飛ばし、さらに必ず上級官庁や本局に電話をして、該当職員を処分するように求めた。

 ただし、結果がどうなったのか確かめることは、(どうやら意図的にだったらしいが)しなかったのだが。

 さすがに融資してもらっている銀行でだけは、比較的大人しいらしいとも言われていたが。


 その、人の言うことを決して聞かない『ワンマン独裁行動人』の唯一の例外が、マツムラの前社長、つまり現社長の父親、すなわち、現タルレジャ王国国王だったのである。

 そこで、どうにもこうにもならない事態に陥った時は、企業の幹部も町内会の幹部も、マツムラの社長に解決を依頼したものであった。

 それを基本的には断らないのが松村の社長であり、何かしらの道をつけて差し上げるのが常であった。

 町内の有力企業と、世界最大の企業とでは、あまりにその差が大きいとはいえ、この二人は、小学生時代から大変な仲良しだったわけなのである。

 

 そこで、アンジさんには、自分がやらなければならないと信ずる仕事が、また増えてしまった。

 それこそが、『不感応者狩り』と『背徳者狩り』なのであった。

 

 『狩り』といっても、銃を持って逮捕に乗り出すわけではない。

 ここは、首都東京のど真ん中である。

 まして、彼にはそうした権限はない。

 

 当局に対して、この範疇に該当すると考えられる人物の、『情報』を提供するのである。

 歴史的に言えば、このような行為は、しばしば見られたことである。

 中世以降のいわゆる『魔女狩り』などは、そのもっとも悲惨な事例だろう。

 だれかに一言「あのひと、魔女みたい。」

 と、言われたら、まず人生が、それでお終いである。

 市長さんクラスの、高い地位があるような人でさえ、この、魔の罠からは逃れられなかったようだ。

 逮捕されてしまうと、あとはよほどの強者でも、拷問と尋問に堪えるのは困難だったと言われる。

 自分は魔女だと白状し、仲間の名前を上げなければ、火あぶりになる。

 素直に白状したら、罪を減じられて絞首刑で済んだとも聞く。

 財産は、当然すべてが没収される。


 もちろん地域や状況に違いはあっただろうし、研究者により犠牲者の数などにも違いがあるだろうけれど、本でその資料を見るだけでも、ぞっとすることは間違いない。

 こうしたことは、遠い外国で大昔に行われていた夢物語だけではけっしてない事は、皆よく知っていることだろう。

 これが、今に至って、『不感応者狩り』『背徳者狩り』という姿となって、この世界に蘇ってきたわけなのだ。


 しかし、今回は当局の強力な指導が、まず先にあったという訳ではなかった。

 むしろ、そうした行政指導は後手に回っていたし、本来、特に犯罪者を扱うような形ではなかったのだ。

 『不感応者』は、犯罪者ではなく、一種の軽い『病気』であり、比較的簡単に治療も出来ると当局は言っていた。何よりも、本人が気を付けていれば、その『治療』でさえも必要はないと、されていたのだ。(皇帝陛下などへの行き過ぎた批判や、そうした行動をしなければ済むことである。)

 また、本人が気になるようであれば、まずは『病院』ではなくて、地域の『教習所』に通えばよいものだとされていたのである。

 しかし、その『教習施設』の設置は、大都市部を除けば、比較的のんびりと行われていた。

 要するに当局も、まだそれほど『不感応者』については、ピリピリしてはいなかったのである。


 『背徳者』は、実際に『帝国』に対する反対行動をとった人の中でも、『特に危険性あり』と判断された人のことである。いわゆる『危険人物』である。反体制的な言動をする人全てが『背徳者』なわけではないのだった。

 例えば、会合などの宴席で、ちょっと口が滑って『皇帝陛下』の悪口を言ったからと言っても、それで逮捕というようなことでは、もともとはなかったのである。

 さらに、制度的には、デモや集会も届ければ可能だった。

 その内容が反政府的であっても、自国政府に対するものであれば、ほとんど制限はなかった。

 直接『帝国』に脅威でさえなければ、別に禁止する理由などは、なかったのである。


 しかし、実際のところは、帝国政府が思う道筋とは、少しずつだが、最初から、ずれて行き始めていたのだった。


 ヘレナ自身も、『最初から、そう、うまくはゆかないだろうな・・・』とは、経験上も考えていた。

 しかし、そこは妹二人が、適正に各国政府を誘導してゆけば、結果的にはきっとそれで上手くゆくだろう、と考えていたのである。

 妹たちの理想は、自分よりもむしろ高かったのだから、任せてみようとも、思っていたのだ。

 ダレルが一定の介入をしてくることも、予想の範囲の内だった。

 ただし、『ブリューリ』は、確かに不確定要素のひとつだったけれども。


 けれど、そのヘレナも、状況をみながら、もし、やり過ぎがあったら、直してゆく考えではいたのだ。


 当初、人々の意識には、『皇帝』と『総督』、そうして、いまだ姿の見えていない『火星の女王』に対する『忠誠心』と共に『自由・友愛・信頼・相互扶助、正義、平等、平和』の精神を強く印象付けたつもりである。

 

 しかし、『人間』という生き物にも、個体差はあるけれど、どうも隙間を見つけては、相対的な弱い者いじめや、ライバルの排除、をやりたがる習性があるものだ。

 ここの部分を完全に覆い尽くそうとしたら、先ほどの基本的な精神自体が停止してしまうかもしれない。

 なぜならば、『競争』は、人間が不断に行動するためには、ぜひ必要なものだから。

 

 ともかくも、この帝国誕生最初期から、アンジの父親は、せっせと『不感応者』と『背徳者』の通告を行い始めた。

 ただし、大切な娘が行方不明になってるという事実が、父親にやみくもな行動をさせている大きな要因なのは、間違いが無い事だったのだが。

 彼は、『不感応者』もしくは『背徳者』あるいは、特に『ミュータント』が間違いなくからんでいると考えていたのだから。 


 こうした動きは、お互いに関連性なしにでも、世界のあちこちで同時発生した。

 おかげで、行政側は、どこでも、まったく、すでに実情に追い付かなくなってしまっていたのだ。

 したがって、何らかの早急な対応策が必要だった。


 そこで、もともと当局は、強制的手段ではなくて、『精神カウンセラー』のような方法が、『不感応者』や初期の『背徳者』への対応には重要と考えていたものが、ここに来て『機械』の導入論が急速に浮上していったのである。


 ヘレナは、当然この方法を、一定の条件を付けて、慎重に、しかし、確実に使わせるつもりでいた。

 そのための『機械』・・・つまり洗脳装置だが・・・の作り方は、すでにルイーザに教えていたし、実家と王国の工場に於いて、量産も始めていたのである。


 その傍ら、『よい独裁者』の心得のようなものも、妹二人には伝授していたし、『機械や能力を多用する』のは、便利ではあっても、必ずしもよい『心得』ではないとも伝えてあった。

 つまり、ヘレナ自身は、火星での失敗から、いろいろと学んだことを、今回地球でしっかりと生かそうとしていたのだ。


 もちろん、ブリューリなしで。


  *****     *****


「また、大量の通報が来ていますよ、区長。」

「ふう。最初からこんなに集まるなんて、思っていなかったよ。」

「あの、余計な事ですが、区が強制的に対処する『掟』は、まだないですからね。」

 生活安全局長が念を押した。

「そうなんだが、『何もしない』と市民から言われると、困るんだよ。国に対応策を確認しているの?」

「はい、もう二回も出していますが。もうちょっと待てと。政府内も少しごっちゃごちゃしてるようですなあ。杖出首相が、一晩行方不明になったという噂もありましたが、どうやらタルレジャの第一王女と会談してたらしいです。」

「ふうん。でも、あまり待てない。わかった。ぼくがちょっと行って来るよ。アポ取っといて。」

「あの、どなたと?」

「絵江府内務大臣兼財務大臣兼副首相さま、に決まってるだろうが。」

「いや、そうなのですが・・・・、あなたは、あの方はお嫌いだとか・・・首相の方がよかないですか?」

「こらこら、まあ、そうなんだけれど、ここはまあ、仕方ないさ。いきなり首相に行ったら、僕はそのほうがやり易いが、まあ、色々各方面の気に、あまり障ったら、さすがにまずいからな。」

「わかりました。まあ、いずれにせよ、確かにここは、第一王女様のおひざ元ですからねえ。事実上、都知事を飛ばしてしまえるのは、あなた位ですし。」

 区長は、少し嬉しそうに答えた。

「まあ、そうなんだよ。でも、とにかく早く対処しなければ。たちまち、次の選挙が危なくなる。」

「次の選挙なんて、あるんですかなあ?」

「なんて?」

 区長が局長を、こんどは睨みつけた。


 ************   ************









  

 






 






 











 




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ