わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第四十章
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「と、いうわけなのよ、シモンズ様。」
ヘレナ=弘子は、シモンズのマンションに押しかけてきていた。
「よくまあ、そんな勝手なことができるな。君がこの国の政治に口出しするべきじゃあない。自分でもそう言ってたろう。」
「まあね。でもね、杖出さんは失脚させたくないの。とても有益な方だから。」
「それは、君にとって有益なんだろう?」
「まあね。でも、彼は間接的にではあるけれど、一応は民主的に選出された人だし、ある意味、これまでの時代と新しい時代とを連続させるジョイントとして重要なの。お父様と共にね。」
「やっぱり、自分の都合じゃないか。それにだな、なんで『いいなずけ』みたいな結婚をさせるわけ?」
「まあ、正晴様も武様も、それぞれ、わたくしやルイーザを愛してくださっていますわ。」
「本当かな? 強制だろうに。まあ、多くのケースと違うのは、男女の立場かもしれないが、どっちにしても非近代的だ。」
「まあ、失礼な。ものすごく科学的なのですわ。正晴様は、わたくしと、武様は、妹と、ペアになることによって、弘子と道子をはるかに超える才能を持った、超天才が誕生する確率が90%以上に達するのです。そのように作られたのですもの。」
「作られたって、君が作ったという事?」
「まあ、そうですわ。」
「なんという、非人道的で、悪趣味で悪魔的な。ますます嫌悪したくなる。」
「ありがとう。そんなに褒められちゃ、またまた困るなあ。」
「むむむ。まあ、契約は契約だが。よくもそんなこと言いに来られるなあ。まったく。信じがたい。」
「あなたを、信用しているからですの。」
「悪い魔女に信用されてどうするの? で、どうしたいわけ?」
「あなたの『人工衛星』で、この怪物を探して欲しいんだなあ。アンジみたいにね。」
「アニーさんにやらせたら?」
「それが、上手く行かないんだなあ。一旦候補者は絞ったんだけど、皆はずれ。ダレルちゃんが何かやってるんだろうなあ。と思う訳なの。ほっとくと、とってもまずいだろうと思うな。」
「しかし、薬も作って万全なんだろう?」
「それが、だからダレルちゃんが介入してきているなら、解毒剤とか、作ったんだと思う訳よ。なので、お薬は作り直すけど、少し時間がかかるの。ね、お願い。シモンズ様。人類の為に。」
「くそ。わかったよ。けれど、ヒントくらいないかな。」
「そう、温泉にいると思う。あそこなら人と触れやすい。あいつも、ビューナス様ほどでは無いにしても、わりと温泉大好きだったし。」
「この国は、温泉だらけだ。」
「そう、教頭先生が、また無類の温泉大好き人間で、独り者だし、毎週のように車で温泉回りをしているの。勝手に回ってるから足取り追うのに手こずったけど、はい、ペーパー、これだけここ二か月で回っている。アニーも調べてるけど、このところ不調だし、お願いね。まずは江府山温泉。現在すでに、もめごとが起こってる。ただし、あなた自身が感染しないでね。一応予防注射します。これなら強力なので、まず大丈夫。まあ、副作用で今夜熱が出たり、悪夢にうなされたりするかもしれないけどね。効果自体はすぐ現れます。」
「悪夢なんか嫌だよ。」
「よろしくね。臨時給与入れといたから。じゃね。」
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臨時の閣議は、最初から非公開で行われた。
「と、いうわけです。もしこれが実際、その『宇宙怪物』ならば・・・ええ、そう言うのもあほらしいが、これは異常事態です。」
「首相、新しい情報です。」
秘書がメモを持って、情報を伝えてきた。
「なんと、割賦温泉で同じような事件が起こった。被害者6名。」
「九州ですか・・・一気に飛んだな。」
絵江府大臣がつぶやいた。
「犯人は、男2名。取り押さえる時に激しく抵抗し、警官3名が負傷しているという。しかし、その後、襲われた2人が、同じように興奮状態になり、病院内で暴れたと。」
「なんですか、それは、やはり伝染性の新型兵器では?」
手宇部安全大臣が、腹痛のようにうなった。
「しかし、きょうび、そんなことする輩がいますか?」
毛葉井大蔵大臣が、口をひん曲げて、疑わしそうに言った。
「まず、報道は控えさせた方が良いのでは?」
四日大臣が主張した。
「それは、無理ですよ、いまどき、とっくにネット上に流れてます。」
野府通信大臣がそっけなく反論した。
「しかし、あまり加熱しないようにはしたい。」
絵江府大臣が、ぶっつりと答えた。
「そうですね。まずは情報の収集と、国民の安全を第一に考えて行動してください。噂に惑わされないように、内閣が発表する情報によって行動するように、国民に十分注意を促してください。」
首相が指示した。
「ときに、首相、例の第一王女様ですが、何を話されましたか。何か約束を?」
絵江府大臣が、いんぎんに尋ねた。
「いわゆる火星人との、平和を求められましたよ。」
「おお、それは良い。まさにその通りですからなあ。首相。あなたも態度をはっきりさせなければ。核廃絶は?」
「承認いたします。」
「おおお、すばらしい。さすがは第一・・・いや、首相ですな。タルレジャ国王は?」
「さてそこですが、早急に国王と秘密会談をします。段取りは第一王女様がしてくださるのでしょう。ただし、これは一切非公開ですよ。」
「よくわかります。いや、素晴らしい。それでこそ、我が首相だ。」
絵江府大臣は、大満足の様だった。
他の閣僚も、一様に安心した表情だった。
野府大臣だけは、うつむいて考え事をしている感じだったが、何も言わなかった。
『いったいこの人は、どうやって第一王女と会談したんだろう。確かに王女は、日本に来ていたと聞いている。学校で核ミサイルを頭から突き付けられた写真も公開された。でも、なんで足掛け二日もいなかったの?おかしいな。頭の手術とか改造とかでもされてたのかしら。まさか、でも・・・ううん、まずは下手には動けないしな。』
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ブリューリは、ひと騒ぎ起こした後で、さっさと割賦温泉からは引き上げてしまった。
そうして、船で『九州州』から、『四国州』に渡った。
そこから、気道車に乗って、のんびりと旅をつづけた。
目的地は、かの、松之山温泉である。
ここは、日本でも有数の格式のある温泉地だ。
松之山駅で汽動車を降りたブリューリは、オレンジ色の市内電車で、乗り換え地点に向かった。
それから、わりと大きな駅前で、他の車両に乗り換えをして温泉に向かった。
特別仕立ての、古い蒸気機関車を模して作られた小さな気動車に、客車が引かれている。
なんとも、古風でいい感じだ。
羽織、袴の学生たちが、いっぱい乗って来そうな雰囲気がある。
ブリューリは、こうしたものが、実は結構、大好きである。
火星には、このような鉄道というものが少なかったので、地球では思い切り楽しんでいたわけだ。
まあ、恐怖の人喰い怪物が、鉄道と温泉に熱中していたわけなのである。
恐怖の・・・と言っても、生まれながらにそうだったわけでも無いのだから。
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