わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第四章
第一王女は、月の裏側に来ていた。
ここには、二億五千万年前から、リリカ(複写)の研究施設があった。
その後、改修したり、地下の部分を大拡張したりして、今では地球上でもめったに見ないほどの、大研究施設になってしまった。
それは、まあいいとして、久しぶりに、リリカが二人そろっていた。
「いらっしゃませ。」
二人が声をそろえて出迎えた。
「あなたがた、長い年月、別々に過ごして居たにしては、あいかわらずそっくりね。」
ヘレナが感嘆したように言った。
「今回は、助けていただいてしまったわ。ありがとうございます。」
「いいえ、女王様。私たちは同一人物で、年を取りませんからね、同じであたりまえなのです。」
「はあ、なるほど。」
「どうぞ、こちらにおいでください。」
二人は、研究マスター室にヘレナを案内していった。
「まあ、ここが研究所の中心です。すべて、ここで管理操作できます。」
「すごいわね。これなら、マツムラ・コーポレーションの中央研究室にも劣らないわねえ。」
「まあ、沢山予算を割いていただいておりますので、ありがたいことでございます。」
「まあね。で、成果の方はいかが?」
リリカ(複写)が答えた。
「女王様からご依頼がある沢山の研究は、自分で言うのもなんですが、十分上手くいっているかと思います。まあ、兵器関係は、あまり気が進まないものの、仕方がないですから・・・」
「まあ、ご挨拶ね。でも、ここが妹二人に見つかると、やっかいなんだよなあ。ダレルが話してるんじゃないかと思ったりもする。」
「そうですね。でも、彼は打算的で、自己中心的ですから、あまり女王様に打撃を加えることは避けるとは思いますが。」
「いえいえ、どうも、そうでもなさそうよね。あの、最近の妹二人の画像が出るかしら。」
「はい、昨日のものならば、すぐに。」
「ええ、それでいい。そう・・・そうね。この友子の目、明らかに正常じゃないもの。こんな目じゃなかったわ。もっと澄んだ美しい目だったのに。わたくしが、こんなのにしてしまいましたのね。血走ってるわよね。まるで、血に飢えた獣みたい。自分の意思があまり感じられない。」
「まあ、何ともお答えしにくいですが。ダレルに指示したのですか?」
「こういう風にしなさいとは言ってないわ。でも、支配者にふさわしい風格には、してほしいとは、言いました。確かに。」
「ダレルさんは、女王様に仕返しをしようとしています。」
リリカ(複写)が指摘した。
「いまさら?」
「はい。もちろん想像ですよ。でも、恐らくそうした意図が、見え隠れします。ブリューリを解放させたのも、おそらくダレルさんでしょう。ただ、方法がわからない。どうしても、そこはまだ解明できません。申し訳ないのですが。」
「ええ、まあ、それは気にはなる。・・・・そうそう、これ、これよ。ほら、道子の・・・ルイーザの右腕の・・・これ」
「ああ、ブレスレットと言うか、もう「腕輪」そのものと言うか。」
リリカ(本体)が言った。
「そう、古代火星人が身に着けていたような、派手なものよね。材質は良いものらしい。宝石も本物のようだわ。とても高価なモノよね。でもね、これルイーザの趣味じゃないわ。あの子、こう言う派手なのは嫌いだから。だいたい服装が派手よね。露出が多すぎ。これって、ダレルの趣味なのかな?」
「まあ、妻なしでずっと来ましたからねえ。相当、願望が溜まってるんじゃないですか?」
「ううん。危ないなあ。でも、このブレスレット、いろんな波長とかで見て御覧なさい。おかしくない?」
「そうですね。ううん・・・確かに特に内側に向かって、何かの力が働いていますね。あああ、これ、内側で、体に溶け込んでると言うか。まるで肉体と一体化してますね。血液も内部に入り込んでいます。これは、普通では外れませんね。もう体の一部ですもの。無理に外そうとしたら、相当な苦痛が来るでしょう。」
「可哀そうに。いずれ普通の物体ではないわけね。」
「そうです。生きている腕輪ですね。誰かがコントロールしてるんでしょう。意識とか、考えとかも支配しているかもしれません。」
「アニーさんは、それを知ってて、伝えてこなかったのか? アニーさん。聞いてる?」
「・・・・・・・・・・」
「返事がないですね。」
「ここでは、いいのよ。アニーさん。答えなさい。」
「・・・・・・・・・・・」
「まあ、無視してるわ。こら、アニーさん、答えないと機能、切るわよ。いい?」
「現在、休止中。」
「だれが、休止しろなんて言った?」
「回答不能・・・・・・・・・・」
「くそ、てメぇ、わいをなめとんか!」
「あ、あ、あ、あ、・・・・女王様、切れないでください。」
リリカ(本体)が慌てて言った。
「まったく。この犯人は、ルイーザではないと見たわ。」
「では、どなたが?」
「ふうん・・・・・。わからないことだらけか。ダレルは今、どこにいるの?」
「それが、先ほどまでは、火星の地下に居ましたが、今しがた、どこかに出かけたようです。」
複写が答えた。
「ふうん、逃げたか。」
「じゃあ、これも、ダレルさんが?」
「まあ、そう見るのが合理的でしょうね。」
「アニーさんを、ダレルが操れるのですか?」
「まあ、通常ならば絶対にできない。」
「通常ではない、とおっしゃるのですね。」
「はい。どんな手を使っているのか、まだ分からないけれどね。大方、わたくしにも、あのブレスレットが用意されているのでしょうね。」
「あの、地球の情報ですが、第二王女様が東京に向かいましたね。」
リリカ(複写)が報告した。
「ふうん。いわんこっちゃない。でも、こっちの動きは、アニーさんから筒抜けか。この建物、しっかり出来てる?」
「え?つまり・・・」
「攻撃が来るかもよ。」
「まあ、女王様。正解です。ミサイルが来てます。」
「あの子、わたくしたちを、一気に抹殺するお積りかしらね。まあ、狙いは施設なんだろうけど。バリヤーを独自に張れるかしら?」
「できます。周囲保護完了しました。ミサイルが来ます。通常弾ですが、強力です。うわわ!」
激しい衝撃波が施設の周囲を覆いつくした。
「なんとか、無事ですが、あまり撃たれると、持たないかもしれません。もう一発来ます!」
「いいえ、認めない。爆破!」
ミサイルは、月から大分離れたところで自爆した。
「女王様が・・・」
「あまりにも、バカにしてくれるじゃない。どこから発射されたのかな? 見つけた。攻撃衛星がいるわ。破壊する。・・・・おしまい。人は乗ってないわ。ダレルはどこかな。いたいた。こんなところに、潜んでいる。小惑星帯の中ね。お仕置きよ。そら・・・少しそこで、悩みなさい。」
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ダレルの宇宙船は、両側から襲ってきた小惑星に挟まれて、動けなくなっていた。
「これは。ダメです。相当な圧力がかかってますね。徐々に力が強くなってゆきます。このままだと、2時間くらいでぺちゃんこですが。」
ソーが告げた。
「くそ、誤解も甚だしい。いい迷惑だ。」
「そう言いますか?でも、腕輪は、あなたですからね。」
「まあね。しかし、あれも、もとはと言えば、女王のご希望から生じたものだ。まあ、多少拡大解釈はしたけども。」
「そう言いましょう。これは脱出できません。殺されますよ。いくら不死でも、宇宙空間では、おそらく死にます。肉体が活動できません。」
「取引しよう、通信開いてください。」
「はい。どうぞ・・・」
「こちらダレル。女王様お聞きですか?」
『聞いてるわ。』
「お怒りですか?」
『かんかんですわ。許さない。』
「誤解です。ヘレナ、半分以上は誤解です。ぼくは、ミサイルなんか発射していないですよ。」
『うそおっしゃい。他に誰がいるの?』
「前にもあったでしょう。火星と王国の対戦中に。』
「む。ブリューリか?」
『それがたぶん正解、だと思いますが。リリカ二人を殺して、あなたの肉体を巻き添えにし・・でも最終的には、分かりませんがね。あなたを滅ぼすことは不可能だし、その気はない。あなたが欲しいんだから。』
『じゃあ聞きますが、誰がブリューリを解放なんかしたの?』
「知りませんよ。」
『む。誰が、道子に腕輪なんかつけさせたの?』
「それは、ぼくですよ。でも、それは、あなたの為にしたことです。いいですか、第三王女の意識をコントロールして、皇帝にふさわしくすることは、あなたから依頼された。ついでに、サービスとして、第二王女の心も、念のために奪ったのです。あくまでも、あなたのためですよ。今後の地球支配の布石です。あなたが、陰で操りやすいようにね。」
『うそおっしゃい。わたくし用のも用意してたんでしょう?道子に持たせて、東京に行かせた。』
「ぼくは、そんなこと指示していないです。」
『いいわ、検疫で、無理でも身体検査させるから。伝染病の疑いとかで。』
「それは・・・まあ、無駄です。」
『じゃあ、そのまま潰れなさい。ご苦労様でした・・・』
「あ、あ、あ、ちょっと待ってください。ぼくの協力は必要ですよ。いろいろとね。」
『いい。代わりのもっと優秀な人、見つけてあるから。』
・・・・・『ああああ、女王様、ダレルさんは息子さんですよ。あの・・・。』
リリカ(本体)が横から突っ込んで来ている。
『証拠も必要ですよ。殺したら、消えますよ・・・・』
少し間が開いた。
『ふうん。いいわ、そこには、ソーさんもいるのね?』
「はい、女王様。」
ソーが答えた。
『ダレルを、逮捕しなさい。女王の権限で命令します。』
「え?あの?え?」
『逮捕しなさい。縄かなんかあるでしょう。ぐるぐる巻きにして、ミノムシさんみたいにしなさい。見てるからね。やらなければ、潰す。ぐっちゃっとね。わたくしを、人間と同じだなんて、まさか思ってないわよねえ?』
「あの、いや・・・・」
ダレルが肯いている。
機体がミシミシと悲鳴を上げた。
ソーは、強力な鋼の縄を見つけてきた。
「いや、それでは、死ぬかもしれん。」
ソーは、女王にその縄を見せた。
女王は喜んだ。
『いいわ。それなら。思いっきり縛り上げなさい。で、月に連れておいで。しばらくは、小惑星も一緒じゃ。ほほほほほ!』
「お覚悟!」
「くそ!」
ダレルの宇宙船は、小惑星に挟まれたまま、月に向かって勝手に動き出した。
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