わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第三十九章
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第一王女は、アブラシオに移動した。
「どう、アブラシオさん、パイロットさんは。」
『はい。やはり、記憶はありますが、「なぜだかそうすべきだと思った。」と言っております。アブラシオが見る限りは、通常の感応者であり、ミュータントでもありません。』
「よしよし、わたくしが見て差し上げましょう。」
第一王女の中身、つまり、女王ヘレナの意思がパイロットの意思に入り込んでいった。
『ふうん。確かに操られた形跡はありますね。しかし、これはわたくしの知るミュータントではないようだな。ずっと隠れて来ていた新規参入者かな。しかし、やり方が巧妙だから、素人じゃない。つまりこの度の副作用で現れたのではないですね。結構、大物と見た。誰だろうな?まあ、アブラシオさん、情報はもらった。この方、もう帰して差し上げないさい。飛行機もね。それと、データをアニーとリリカさんに提供してください。あ、なんだろうこれは!』
『了解。ああ!』
『なんか起こった?』
なにがしかの、軽い振動が伝わってきた。
艦内のどこかで爆発があったに違いない。
アブラシオが揺れるということは、並の爆発ではない。
『どうしたの? 何が爆発したのかな?』
『確認しました。戦闘機が爆破しました。いえ、戦闘機に搭載されていた核ミサイルが爆発した。』
『まあ、核なんか積んで、首都上を飛んでいたわけ?』
『そのようです。熱核爆弾です。東京全体を破壊できる規模ですね。エネルギーは吸収しました。ごちそうさまです・・・が、ちょっと周囲の物質化した部分が破損しました。放射性物質が一部に拡散。処理中です。問題はありません、しかし抜かっておりました。申し訳ありません。』
『いま、他に、お客様はいないのね?』
『はい。その方だけです。』
『良かったねええ。それよりも、どうやって爆破させたのかが問題だ。アブラシオさんの内部にまで影響を与えられたとなると、大問題だもんね。』
『どうやったのですか?』
『この人を中継に使ったわね。抜かったのは、わたくしの方ですね。せっかく内部に入っていたのに、封鎖していなかったわ。でも、おかげさまで、出所が掴めてきたでしょう。これ、わかるかな?』
『ええ、これはウィーン・タウンです。アニーさんと、捜索します。』
『ええ。よろしくね。』
『帰していいのですか?その人。』
『まあ、本人はさっぱりわかってないから、いいわ。監視はして。』
『了解。あの、せっかくですから、お茶くらい飲んでゆきませんか?』
『はあ、ありがとう。いただくわ。』
『ババヌッキ茶でいいですか。それともお酒ですか?』
『ああ、いえ、お抹茶が良いわね。』
『まあ、珍しいですね。了解しました。禁酒ですか?』
『ああ、実はルイーザに叱られて。お酒臭いって。正晴様に申し訳が立たないと。それを言われると弱いんだなあ。』
『もうすぐ、「婚約の儀」ですね。』
『そうなのよ。ただし、ダレルちゃんが、いったい何企んでるのかが、まだ分からないのよね。』
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正晴は、母から居間に呼び出された。
部屋数は三つ。
六畳、六畳、四畳半。
それに小さな台所と、バス・トイレ。
豪華ではないが、この首都の中で家を持っているということだけでも、それなりに大したものだ。
姉は、無理に無理を押して、アメリカ国に留学している。
まあ、王国の援助を受けられたおかげである。
両親は、非常に真面目なタルレジャ教徒であり、かつて北島に住んでいたのだが、姉が出来た時に、教会から東京に移住を勧められたと、正晴は聞いている。
この家も、どうやらタルレジャ教会から与えられたらしいが、詳しい事は知らなかった。
先日、あの巨大宇宙船に連れ込まれたことから、彼は自分に与えられた、見えない使命のようなものを、感じるようにはなっていた。
全体、彼は、小さな子供の頃から、『あなたは、わたくしのお婿さんになるんだからね。』と、弘子から言い渡されていた。
それが、いったい何を意味するのか、などという事は、それまで真面目に考えてもいなかったけれど。
『婚約の儀』が近づいて来るに従って、不思議な緊張感が高まってきていたことも事実なのだ。
母は正座して言った。
「いい、正晴。出発の日の前に、もう一回詳しい事は話します。ただ、ここで儀礼に従って、あなたに告げることがあります。」
「なんだよ、急にかしこまってさ。」
「あなたは、第一王女様、つまり『第一の巫女様』の夫になるお方です。それは、全タルレジャ教徒の規範となる人の夫となるということであり、あなた自身が規範でなければならず、それはもう、恐ろしいほどに重要なお立場になられます。しかも、第一王女様は、このままならば、現国王様の跡を継いで、女王様になられるはずです。あなたは、女王の夫となるわけです。そこで、本日今から、私は、あなたをそのように扱います。」
「そのように扱う、って、なんだよ。」
「あなた様を、『尊士様』として扱うのです。あなたは、母を宗教上、信者の一人として、公式に扱うことが求められます。それなりの態度、言葉使いが求められるのです。ここに、その『尊士儀礼書』を差し上げますから、よく読んで、これに沿った行動をしてください。母は、あなたの指導役となるので、足りないところは厳しく指摘いたします。」
「そんな、訳の分からないことを・・・」
「お黙りなさい。ご自分の立場を、よくわきまえてください。いいですね。まずは、あさっての晩までに、全てを読み理解し、規範に沿って行動しなさい。以上です、『尊士様』」
「あの・・・・はい。ただ・・・」
宇宙船で見聞きした事は、痛いほどに分かっていた。
父が亡くなって以来、母がそれなりに苦労してきたことは間違いが無い。
学歴も経験もないのに、マツムラ・コーポレーションで仕事ができるのは、第一王女のおかげ以外の何物でもないけれども。
「あの、なぜ、僕が王女様の夫なの・・・ですか?」
それは、当然の疑問だった。
しかし、母はこう答えた。
「そう、決められたからです。」
「誰に?」
「教母様にです。」
「それだけ?」
「それで、不足ですか?」
「だって、そんなこと、今の社会ではあり得ないよ。」
「王国では、北島では、当然あり得るのです。」
「でも・・・」
「デモは禁止。終わります。」
「はあ・・・・」
母の態度は、夕食までとは大違いだった。
『そんなの、ありか? あとで二人に電話しよう。』
正晴は、そう考えた。
同じころ、武も、同じことを両親から言い渡されていたが、こちらは当然予想されたこととして、口答えは一切しなかった。
「分かりました。」
同じ書物を渡されて、このささやかな儀式は、すぐに終わったのである。
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「首相、江府山で、異常事態が起こっています。」
本物の方の秘書が飛び込んできて、そう言ったのである。
「怪物でも、出たか?」
「え?ご存じだったとか・・・・」
「ふうっむ。第一王女から、警告はされていたんだ。」
「おお、なるほど。いや、住民が怪物に襲われたという報告が、いまのところ五件あります。」
首相は、机の上で手を組んだ。
「ふん。すぐに、マツムラ総合病院のアムル医師という方に、報告して下さい。まあ、そう言われたんだがね。それと、緊急閣議を開きます。大至急、閣僚をかき集めて。まだ、みんな近くにいるさ。」
「はい。了解、わかりました。」
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