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わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第三十八章

 

**********   **********


 アリム=ジャヌアンは、ひどく孤独だった。

 まあ、工作員なんて孤独なモノだろうけれど、実はそれなりの事情はあった。

 というのも、相変わらず未来とはまったく連絡がつかないということだ。

 いろいろ細かいところの変更はやっているつもりだが、未来の事態は何も変わっていないという事だ。

 まあ、そうだろうと思う。

 失敗ばかりなのだから。

 しかし、この大掛かりな工作は成功させなければならない。

 これに失敗したら、また大幅な後戻りをしてしまうだろう。

 やはり、一度未来を見に行きたい、そういう衝動を抑えるのは難しそうだった。


 調査官長は、あいかわらず、のらりくらりである。

 悪い人間じゃあないが、大物の風格には欠けている。

「国王が、第一王女に会いたいと言っている。」

 思い出したように、彼はそう言った。

「そんなの、だめに決まっています。」

「話し合わせて、情報を探ってはどうか?」 

「危険すぎですよ。官長。私は反対です。権限を持っているのは、あなたですが。」

「まあ、国王自体は大人しくしているがね。」

 国王の監房を見ながら、調査官長はつぶやいた。


「ふうん。うん・・・・・官長、ちょっと見に行った方が良いですね、なんかおかしい。」

「はあ?どこが?」

「雰囲気ですよ。雰囲気。なんか実在感がないというか・・・なんか変だ。」

「なんだよ、それは?」

 国王は、椅子に座って書物を読んでいる。

「いいから。見に行ってください、あなたが。」

「ああ、わかったが、相変わらず不思議な人だ。」

 調査官長は、キーを腰に装着しながら言い、監房に向かった。



「おかしい。なんか変な気がする。どこかが変だ。」

 アリムはどこがおかしいのか、確かめようと画面に見入った。



 **********   **********


「おまえは、私の意図を汲み取って行動していると、信じていたが。」

 国王が言った。

「お父様とお話ができるなんて、夢のようです。」

 これは、女王ヘレナの言葉というよりは、第一王女ヘレナの本心から溢れ出てきた言葉だった。

 あまりに強い意志だったので、さすがの女王も容認したのだ。

「お父様のご意志は解っております。」

「ならば、良い。」

「最終兵器は、杖出首相にお預けいたしました。しかし、使う事は出来ないでしょう。キーはわたくしが持っております。」

「まあ、人々がどう出るかは分からないが。」

「はい。お父様、杖出首相と、会談なさってください。」

「それは、よいが、出来るのかな?ここで?」

「まあ、ジャヌアンさんは、お父様をよそに移そうとするでしょう。」

「しかし、どこに?」

「ルイーザ次第ですわ。」

「そうか。」

「しかし、どこに行っても同じことですわ。」

「お前は、おそろしい娘だからな。」

「恐れ入ります。」

「まあ、いい。ただ、このような行動に出たのは、弘子がこの先、過去の慣習に縛られないようにするためでもあるのだからね。」

「ああ・・・それは、そうなのですね!」

「まあ、それが一番の意図だったと言ってもいいのさ。」

「あ、看守さんが来ました。消えます。またご連絡いたします。では・・・」



 **********   **********



「そうか、これだ。この、鏡の中のテーブルの上。この小さな何かが、無くなってるんだ。くそ。どこから侵入したんだろう。」

 ジャヌアン=アリムはうなった。



 官長は、国王の独房に入った。

 誰もいないし、鍵が開けられた形跡もない。

「国王殿、何か怪しい事をなさっていないかな?」

「ほう。何を?」

 官長は、部屋の中を嗅ぎ回った。

 壁、ユニットバスの中、床、天井、通気口、監視カメラ・・・

 変わった事は、何もない。

 人の気配もしない。

 彼の持っている敏感なセンサーは、誰かが、もしもついさっきまでいたのなら、十分感じ取るだろう。

 しかし、変わった事は何もない。

「ふうん。まあ、大人しくしていてくださいよ。当分はね。」

 官長は、そう言い残して出ていった。


 国王は、手のひらの中にあった、小さな丸い機械を見つめた。

 周囲の人には何も見えないが、彼の眼の中には、子供たち全員の元気な姿が見えていたのだ。

 これも、弘子=ヘレナの発明品だったが。


 **********   ********** 


 『池の女神様』たちは、ちょうど『アヤ湖』で『女神様集会』を開催している最中だった。

 女神様たちの中心に存在し、会長さんを務めているのは『アヤ姫様』である。

 日本からは『不思議が池の幸子さん』が参加していた。

 また、かつて地獄の診療所長だった『ジュウリ様』も、いまでは女神様になっていた。

 彼女たちは、死後すぐに火星の女王様によって、『精神的非存在的物質』としてこの世に蘇ってきた人たちであった。

 早く言えば、実体を伴う『幽霊』というようなものなのだ。

 一度死んでいるので、基本的には不死の存在なのだが、女王様が認めれば、めでたくこの世からは消えて、『真の都』に入ることができる。

 女神様たちの仕事は、罪人や、地獄にとって相応しいと思われる人間たちを、『地獄』に誘うことである。

 ただし、原則として『女神様側』から誘惑することは禁止されている。

 あくまで、本人が自主的に『池』にやって来ることが大前提となっているのだ。

 その、女神様の中で『アヤ姫様』は特別な存在だった。

 それは、かつて彼女は、タルレジャ王国の王女だったからである。

 現在の『三王女』たちも、彼女の直接の子孫である。

 本気になると、女王様譲りの恐るべき能力があると言われているが、とても大人しい性格で、誰もその、ものすごい力は見たことがなかった。


 また、彼女たちの中で、もっとも変わり者として知られているのは、他ならぬ『不思議が池の幸子さん』と『ジュウリ様』だった。

 この二人は、どちらかというと、池にやって来る『お客様』を、いつの間にか結果的に助けてしまうことが多く、地獄送りの成績が振るわないのだった。

 特に幸子さんは、イソップ物語からヒントを得た特異な方法を取っていて、『お饅頭』や『お酒ぱっく』と引き換えに、助けてあげてしまうことが多い。

 ただし、この方法は、ぶきっちょな幸子さんの性格を読んだ女王様が指示した方法であり、独自に開発したというものではないし、お饅頭などの件は、女王様が相当大目に見て許していたことだった。『幸子さん』は、女王様から、とても愛されていたのだ。


 一方『ジュウリ様』は、元お医者様にしては、なんとなく非科学的な『占い玉』を活用する特異な女神様だった。が、この『占い玉』は、大変な機能を持った超ハイテクグッズだったのだけれど。


 だが、『池の女神様』たちの本当の存在目的は、まだ誰にも知らされていないかった。

 ただ、『アヤ姫様』だけが、知っていたのだ。


 ************   ************

  

「ふうん。とりあえず、国王は別の場所に移送しましょうよ。」

 ジャヌアンが提案した。

 それはつまり、ジャヌアンを操っているつもりの調査官長に、逆に指示を出したということなのだ。

「ああ、そのほうが良いと、僕も思う。」

「いい場所があるのですか?」

「ある。南島のある場所だ。『王宮』や『教会』は、北島には強いが、南島のことはあまり気にしていないからね。任せてほしい。」

「それはもう、あなたの権限ですから。どうぞ。」


『問題は、誰が絡んできてるのかだわ。第一王女ならば、限界がある。しかし、火星の女王ならば話は違って来る。どこに隠したって無駄だ。』

 アリム(=ジャヌアン)は考えていた。

「皇帝陛下や総督閣下には?」

「ああ、ぼくは第二王女直属だからね。しかし、国王の逮捕は皇帝陛下からのご指示だ。こういう場合は直接お伝えすることも、多分可能だろう。」

「首をちょん切られないように、気を付けてくださいよ。第三王女は普通の状態じゃないですよ。神がかりしているわ。」

「むむむ。なんにしたって、まあこのような事は、僕の地位では永遠にあり得ない事だったのだから、実際大したものなんだ。」


 **********   **********


 調査官長、は、この話を皇帝の側近に伝えられたら、まあ、いい方だと実は思っていた。

 自分にとっての本番は、あくまで『セレモニー』からの話だから。

 ここで、変にごたごたは御免だが、報告しない訳にもゆかない。

 しかし、驚いたことに、なんと皇帝陛下が直々に会いたいと言ってきたのである。

「おわ。あり得ない。なぜだろう?」

「首をちょん切るんじゃないですか?」

 美女ジャヌアンが、少し笑いながら、からかった。

「何も悪い事は、していない。」

「いえいえ、国王の警備を任されているのに、誰かに侵入された形跡がある。大失態でしょう?」

「脅かすな。」

「まあ、皇帝に呼ばれたのなら、拒否は出来ないでしょう。頑張ってきてくださいね。あなたは、私のマスターなのだから。」

「ふん。」

 調査官長は、鼻息を噴出させた。



 それから、彼は『第一タワー』に向かった。

 正直言って、彼は王宮の敷地の中でさえ、観光コース以外は、一度も入ったことがないのだ。

 三本の『タルレジャ・タワー』は、『王宮』の、深い奥に存在した高台に建てられている。

 非常に見晴らしの良い場所であり、実のところを言えば、女王は大分前からここに高層ビルを作ろうと考えていたのだ。

 『帝国』の首都に充てる考えは、正直、最近まで持ってはいなかったのだ。

 女王は、高校卒業後には、ここを王国の新しい起点として使いたかった。

 それでも、ここが良いだろうと進言したのは、やはりダレルだったのである。

 なんだかんだと言っても、女王はダレルが可愛かったのだ。

 だから、結局、彼の申し出を受け入れた。


 実際この巨大な三本の建物は、見るものを圧倒した。

 それは、南島の中心街からでさえ、良く見る事が出来るものだった。


 調査官長は、かなり緊張しながら、しかし何となく誇らしく思いながら王宮の『入場許可カード』を機械に当てた。監視官が、胡散臭そうに眺めているが、特に文句は言われなかった。

 それから、しばらくモノレールに乗った挙句に、『帝国首都』の入場ゲートに到達した。

 再び、そのカードを検問機に当てた。

 顔認証も行われた。

「王国調査官長殿、確認。皇帝陛下謁見許可。どうぞ。」

 その機械がしゃべった。


 人間の姿は、まったく見えなかった。


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