わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第三十一章
絵江府防衛大臣は、第一防衛局長を呼びつけていた。
「いったい、どうして戦闘機が学校を攻撃するんだ。しかも、相手がマツムラの学校らしいなんて、最悪じゃないか。」
「いや、詳細は、いまだ分かりません。攻撃機のパイロットは確保していますが、本人は何も覚えていないと主張しているようです。通常の訓練だったと。」
「訓練で学校を攻撃するのかね?」
「いえ、そういうことはあり得ない。本人も分からないと言っていますが、しかし、それが普通だと思ったとか、わけのわからない事も言っているようです。」
「君が直に聞きたまえ。」
「はい、そうします。」
「当り前だろう。大蔵大臣に先を越されかねないんだから。まったく、君の出馬にも影響するぞ。」
「はい、すみません。」
「杖出首相の行方は?」
「ええ、わが省としても探していますが、まったく分かりません。」
「国外に連れ出されたとか、皇帝か火星人の怒りに触れて誘拐されたとか、ないのかね。」
「一応帝国にも確認しますか?」
「それは、やはりまずいな。でもまあ、ありがたく、このまま出て来て来ないでほしいものだな。」
「ええ、そうです。ただ、あすには、マツムラの副社長が政府に抗議に行くと、『文芸省』に通告してきたそうです。そっちが嫌でも行くと。」
「あのじゃじゃ馬娘だろう?」
「はい。手ごわいですよ。社長は大人しいですがね。」
「あそこの武器の中には、秘密のものが多い。」
「そうです。国際協定とかに触れるものはありませんけれど。何しろ他に類がないものですからね。」
「なんとか、事なきことにしたいものだ。」
「ええ、しかし、大蔵相兼副総理は、やはり、ちょっと、ちょっかいを出して来るでしょうか?」
「まあ、こっちの首相就任に、閣僚の中で唯一まだ賛成してないやつだからな。党内で選挙にしたいらしい。」
「行方不明にならないですかな?」
「ははは。まあ、それは無かろう。じゃあとにかく、上手く切り抜けろ。君の実力次第だ。」
「わかりました。」
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「防衛大臣は、何やってるの?」
毛葉井大蔵大臣兼副総理は、秘書に尋ねた。
「事実確認は行ってるとのことです。パイロットは、どうやら誰かに操られていた可能性があります。」
「誰に?」
「さあ。まだ不明ですが、不可解ですよね。大方、反政府勢力でしょうけれど、ミュータントの可能性が高いと、ぼくは思いますですね。」
「ふん。警察は?」
「ええ、『裏ブラックリスト』から当たってるようです。」
「まだこっちも、体制が整わないからなあ。帝国のご機嫌も損ねかねないから、慎重には慎重を期さなければ。国民の反応は?」
「まだよくわかりません。マスコミも戸惑っています。しかし、我が政府が批判の矢面に立たされる可能性もあります。まずは、第一王女次第でしょうね。」
「お見舞いに行かなきゃ、ダメなんじゃないのか?杖出さんの事もあるしな、接触が図れないかな?副総理という立場はこの際便利だ。」
「やってみます。」
「ああ、絵江府さんには、決まってから通告でいいだろうよ。管轄はこっちだからね。」
「ええ、そうですね。」
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「ミサイルがこっちに向かって発射されたんだって!」
ミアが弘子に報告していた。
生徒たちは、大概スマホとか小型のパソコンとかを持ってきているから、情報は早い。
「弘子さんを狙ったのかもしれないってさ。」
くっこも心配そうに、弘子の横に立っている。
「あんたたち、お弁当は?」
弘子が尋ねた。
「まあ、済んだけど、昨日の事もあるし、ショックタイゲン(ショックで食欲大幅減退)よ。弘子、食べたの?」
「そう言う気分にはなりません。お腹空いたけどね。」
「さすがにそうよねえ。あのね、教室の周りには、弘子の監視役らしき人が取り巻いてるよ。あ、放送だ。」
『ピンポーン、ポロリ~ン~』とスピーカーが鳴ったのである。
『生徒の皆さん。一時半から、校長先生主催の、緊急全校集会を行います。すぐに『大ホール』にお集まりください。理事長先生も参加します。全員においしいパンと飲み物を配ります。本日の午後の授業は、中止されることになります。すぐ下校できる準備をして集合してください。繰り返します・・・。」
「はあ、また中止か。学校潰れるんじゃない。あ、ごめん。弘子さんのおうちの学校だもんね。」
「まあ、法人ですから、普通の個人の所有物じゃないわ。でも、困ったものよねえ。」
「今の放送、山鹿先生でしょう。おいしい・・・なんて。」
「うんうん、そうそう。きゃははは。」
『この子たち、結構神経太いわね。』
弘子が内心で感心した。
「ほらほらあ。聞こえたでしょう。集合よ!」
そうこうしていると、山鹿先生が、わざわざそう言いに来た。
「はーい。」
「おらおら、てめえぇら、動けよな。」
「もう、男子は品が悪い。」
生徒たちは、ばたばたと大ホールに向かったが、山鹿教諭は弘子に近寄って来てささやいた。
「王女様は、貴賓室で待機していてほしいとのことでございますよ。おつきの方からの指示とか。」
「あらま、また余計な事を、拒否ですわ。」
弘子は、さっさとホールに行き始めた。
廊下に出ると、明らかに学校には似合わない、怪しい男と女が立ちふさがった。その背後にも三人はいるようだった。
「第一王女様、こちらにどうぞ。」
「あんたたち、ここは遠慮しなさい。」
「いいえ、第一王女様の、ご安全のためです。あそこなら核爆発でも安全ですから。」
「ふうん。誰の指示?」
「皇帝陛下でございます。」
「はあ?あり得ない。今のあの子がそんな些細な事にちょっかい出すはずがない。ははあ、さては「じい」かなあ。大丈夫よ。それにね、ここは行かなきゃならないの。今後の為にもね、あんたたち、ホールの周囲で見張ってなさい。」
「いいえ、ダメです。本国からの指令ですから。」
「ふうん。えらく強く出たわね。いいわ、少し立ってなさい。」
「あ、ちょっと・・・・」
怪しい男女たちは、たちまち、まったく動けなくなってしまった。
「じゃね、バイバイ。」
弘子は、可愛らしく手を振りながら、大ホールに向かった。
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札幌のアンジは、さまざまな情報をキャニアに見せてもらっていた。
いつのまに、こんなに世界各地にミュータントたちの拠点ができていたのだろうか?
「まあ、誰が始めたのかは、あたしも知らないけどね。」
「一番偉い人って、誰なんですか?」
「そこも知らない。」
キャニアが答えた。
「さっきの『接続者』さんは?」
「さて、『おら知らネー』とか言ってるけどな。たぶん『最高リーダー』の事は、ほとんど誰も知らないらしいな。ただ、日本支部の『支部リーダー』だけは、どうやら知ってるらしいわ。」
「どこにいるのその人?ここではないの?」
「そう、ここではない。普段は沖縄にいるらしいよ。でも、それが誰かは、あたしは知らない。」
「真反対じゃないですか。」
「まあね、『接続者』は知ってるらしいけど、言わないわよ。」
「ふうん。結構『ほんものの秘密組織』って感じだな。」
「だって、そうだもの。でもね、組織には相手の心を読んだりするミュータントもいるし、いちおう、用心はしてるわけよ。」
「なんか、疑心暗鬼になりそう。」
「そうそう。そこが問題なんだ。いつもあたしもそう指摘するんだけどなあ。ただね『過激派』の動きにも注意が必要なんだ。今日、昼前に、あなたの学校に、ミサイル打ち込もうとしたやつがいるのよ。」
「え!それは・・・」
「まあ、外れたようだし、全員無事だから。」
「ふう。そうですか・・・」
「でもね、何で当たらなかったのかがわからないの。何かの力がミサイルの方向を、無理やり変えたみたい。」
「ミュータントですか?それか、やっぱり弘子?」
「そう。確かに王女様の仕業かとも思ったけど、どうも、『レーダー』さんによれば、そうじゃ無いらしいんだな。『レーダー』さんは、いつも大体ここにいる。国内の超常現象の発生源を漁ってる変わり者だけど、ミュータントの仕業とは違うものだと言ってる。こうした例は昔からあったともね。つまり我々が知り得ない何かが社会に介在していて、人間を保護したり、逆に時には害を成したりするのだと。先日のシャーベリアの隕石もそうだったとか。正体はいまだ不明だけれど。」
「ふうん・・・・あたしの知らないことが、一杯ある訳かあ。」
「まあ、そう。あなたも、でもその正体不明の現象の発生源の一人なわけよ。まあ、そのミサイルを撃つように防衛隊の隊員を操ったのは、『過激派』のミュータントだろと思われるわけ。彼らは、こうした行動を実際にもう、起こしてるということなわけ。」
「組織は、どうするのですか?」
「まあ、我々はそのやり方は支持しないが、お互い敵じゃあないからね。特に何も干渉はしない。」
「はあ・・・」
「心配?」
「そりゃあ、多少はね。」
「まあ、それが普通。ところが、それが普通じゃない世の中になろうとしている。いくら平和を達成するとか言っても、人が人を平気で仲間はずれにする社会。それは、認められないわけよ。別に火星人が相手だから気に入らないという訳ではないの。もっとも修正が必要な訳だ。」
「そうですよね。やはりね。でも、話し合いの余地はあるんですか?」
「ある。あたしたちはそう思ってる。過激派は、そうは思わない。そこは違う。」
「ふうん。そうなんだ。」
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