わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第二十八章
双子の姉妹は、自室に戻った。
「ああ、いい湯でしたあ。」
「はい。お姉さま。いえ、お母様。」
「はあ、まあどっちでもいいけど、あなたやはり本当にお嬢さまねぇ。」
「あら、同じでしょう?」
「まあ。そうですけど。そうそう、ちょっと見ていただきたいお洋服がありますの。」
「え!? どれですか?」
道子の目がキラキラと輝いた。
「待って、しまっといたの。ほら、これ。」
弘子は、自分の洋服棚から、一着の、濃いカーキ色の服を取り出した。
ただし、かなりの高級感が漂っている。
「これって、軍服・・・ですか?」
「そう、あなたの為にデザインしたの。これが、明日からあなたの制服よ。」
「これは・・・まるで『やましん』の『超絶総合金軌道遊撃爆裂戦隊』の『アナルマ戦闘指令』のようではありませぬか。」
「まあ、多少参考にいたしましたが。あくまでオリジナルデザインですの。それに、素材が違います。この繊維は、かつてわたくしが、火星で開発いたしましたもので、軽くてしなやかですが、どのような弾丸も、まず貫通いたしません。また、ビーム兵器にも対応しております。またこの帽子も特別製で、あなたの頭部から足もとまでを、完全防御致します。なので、まあ、大概の攻撃は、大体防げるだろうと思います。もし、足りないところがあったらば、あなたの実力で補ってください。リリカさんにも供与いたしておりました。素材が地球では手に入らないので、なかなか作れないものです。この際、5着、替え服を作りましたの。」
「いつも、これを着ろと?」
「はい。」
「いつまでも?」
「はい、総督である限りは。今後は、靴も履いていただきます。」
ヘレナの分身は、道子の中で少し身を引いていた。
「それは、いくらなんでも嫌じゃ。靴など履いたこともないのに。それでは、わたくしの、いえ、わしの王国の女性としての立場も、成り立ちませぬし、宗教上も、掟を破ることになるのではありませぬか?」
「ここだけのお話ですが、その掟を作ったのは、わたくしです。わたくしが認めるのですから、問題ございませんわ。それに、まあ、夜、おひとりになりましたら、ご自分だけで、どのような他のお洋服でも、お楽しみください。また、まもなく、婚約なさることも、ご考慮ください。今度は、武様がごいっしょにいらっしゃるのです。やがては、お子もできますでしょう?まあ、公務外で、お二人でお好きにしてくださるのは構いませんが、公務時間中は、常に制服着用でございますわ。また、銃も常に携行ですわ。それは皇帝陛下を、お守りするためです。ただし、前にも申し上げましたが、時たまの、晩さん会などでは、逆に派手になさってくださって結構ですから。」
「でも、お姉さまは、いつもご自由なのでしょう?」
道子は少し不満そうに言った。
「まあ、ここ当分は。でも、わたくしもあなたと同じ日に婚約するのです。来春からは王国に戻り、王女様に専念しなければなりませぬ。毎日あのような格好で。おわかりでしょう?ただし、あなたの、巫女としてのお仕事は、当分免除いたします。」
「それは、巫女のお仕事の方が好きでございます。だって・・・、悲しすぎです。お姉さまは、何億年も経験なさったでしょうけれど、わたくしは、こんなこと初めてですわ、このようなことは・・・」
ヘレナの分身では無くて、中身の道子そのものが、泣き始めてしまったのだ。
逆に言えば、弘子が・・・へレナが、それをあえて認めているということなのだけれど。
「泣いてくださいね。道子さん。これがもう、最後ですよ。あすからは、泣くことさえ許されませんから。それがいつまで続くのかは、わたくしも分かりませぬ。これが、このお家に生まれてしまった、あなたのお務めなのですから。」
弘子は、道子の体をしっかりと受け止めていた。
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「しっかし、調べれば調べるほど、この化け物、つまりぼくの雇い主は、とんでもない妖怪変化だとわかるだけだな。」
シモンズは、まだ起きていた。
彼は長くて4時間くらいしか睡眠しない。
「弘子さんが気の毒になるばかりだ。その妹たちもだけど。それにしても、これに比べたら、ブリューリなんか、まだ可愛いいものだ。それがなんで、2億年とかも、逆に支配されるんだ? ちょっと考えにくいなあ。日本が、我が『南北統合アメリカ共和国』を征服してしまうようなものだ。あり得ないだろう?どうも、違和感が強い。しかし、それは一旦置いといて、この弘子さんの機械だ。いったい、どうやって使うのかな?」
シモンズは、その小さな装置をくるくるとひっくり返しながら考えてみた。
「ううん。この子は、もしかしたら、認めたくはないけれど、ぼくを超える存在かもしれない。もったいないことだ。あの、化け物に支配させるなんてね。なんとかして、解放してやらなくっちゃな。」
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「うんうん、似合うじゃない。」
弘子は、軍服を試着した道子を見ながら言った。
「完璧な高級軍人さんになるわ。ほら、ここにはサングラスもあるし。」
「あの、お姉さま、わたくしは、なんでもお姉さまのおっしゃるようにいたしますが、今後はもう、弘志の「お着換えさん」遊びはおやめください。もう、高校生ですし。」
「まあ、あの子は、あれで結構気に入ってるのですわ。体自体もすっかり女の子にしてしまうから、全然おかしくないし。気持ちも、良くしてあげるし。」
「それは、あの子がお姉さまを尊敬しているからです。だから、文句も言わないのですわ。」
「まあ、考慮いたしましょう。ところであなた、これから空いてる?」
「え、もう真夜中ですわ。」
「そんなもん慣れてるでしょう?ちょっと付き合いなさいな。」
「どこに行かれるのですか?」
「『紅ばら組』の本部。あなたに紹介しておこうと思うの。この先、役に立ってもらうからね。」
「お姉さまが、『組長』をなさってるという、ちょっと良くない娘たちのグループですね?」
「まあ、言い方次第ね。彼女たちは、確かに世間ではそのように言われるけれど、実は優秀な情報員でもあるわけよ。」
「それは、認識しておりません。」
「まあね。なので、あなたにしっかり認識していただくの。あなたは、もともとすでに『副組長』として認識されてるわ。そこんとこ、よろしくね。」
「え? はあ・・・それはつまり、お姉さまが時々わたくしも、なさっていた、とか・・・」
「そうそう。今日は道子ですよおー、ってね。まあ、ちょっと変装はするけれども。」
「ひどいです。」
「まあまあ、そう言わずに。彼女たちは優秀よ。口も堅い。わたくしたちが、日本のある地方出身の大金持ちのご令嬢であるとは認識してますが、マツムラの娘だとはなぜか思っていないわ。」
「操ってるのですね?」
「多少よ、多少だけ。わたくしの名前は、ハシモトヒトミ。あなたは、ジュンコ。いいわね。きょうは、だいたい黙っていたらいいわ。話すべきところや、内容は頭の中に指示してあげるから大丈夫よ。」
「わたくしは、お姉さまの分身じゃから、ご指示には従いますが、道子さんは、まだ、はでに抵抗しております。」
「まあ、仕方がない。弘子さんも、このところなんだか行動が怪しい。今のところ泳がせてるけれども。まあ、誰の影響かは、いくらか想像がつくけどなあ。」
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弘志は、妹の部屋に来ていた。
雪子は、弘志と二卵性の双子だけれども、大きな障害を持ってこの世界に生まれてきた。
ずっとベッドの上から離れられないでいるし、会話もできない。
普段は、専属の看護師さんが24時間体制で世話を行っているが、弘志はしばしば彼女の部屋をのぞいては、ベッドの横に腰かけて、今日の出来事や、自分の考えなどを妹に話していた。
残念ながら、返事はない。
そう、耳に聞こえる声では。
けれども、なぜか弘志の頭の中には、いつも雪子の声が聞こえてきていたのだ。
「それは、大変!」
雪子が答えた。
「ぼくはねえ、弘子姉さまが大好きだよ。尊敬しているし、なんでも従いたい。そうすれば、ぼくは姉さまに少しだけでも、近づくことができるんだから。でも、今回の状況は、なんだか不思議なんだ。頭の中がゆで卵に起きる現象のように、偏ってしまったような感じがする。弘子姉さまの事はますます好きになるし、道子姉さまには完璧に服従したい。皇帝陛下・・・妹ではあるけれど、友子さまにも。けれど、なんだか違和感がある。」
「それは、お気の毒です。今は少し我慢しましょうね、お兄様。でも、その違和感は改善して差し上げますから。ほら。」
弘志の意識の中の声は、周囲の空気が、スーッと澄み渡るような感覚を、彼に呼び覚ました。
「いかがですか?」
「ああ、いいなあ。うん。いい気持ちだなあ。」
「よかった。お姉さまたちには内緒ですよ。絶対に。」
「ああ、もちろん。言えないよ。でも、心を読まれてるんじゃないのかなあ?」
「大丈夫。この意識は、お姉さまたちには、けっして届かない部分で感じていますから。」
「そんなこと、あるの?」
「はい。ふふふふ。秘密の花園。お兄様と私だけのね。」
「うん。」
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