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わたしの永遠の故郷をさがして 第四部  第ニ十七章


 杖出首相は、『パレス』の広い客室の中で、用意されていた様々な資料を眺めていた。

「まあ、出来の最悪な、やましんのファンタジー小説よりは、よく出来ている。」

 などと、悪態をつきながらではあったが。

 しかし、液晶画面もないのに、何もない空間自体に、くっきりと画像が浮かび上がるのには少し面食らった。

「この技術は、まだ見ていないな。ここはいったいどこなんだろうか?」


 2億5千万年前の地球上の写真だと?

 実写映像もある。

 化石は見つかっているが、正真正銘の生きているディメトロドンの映像だと?

 そいつを格納した大きな展示ケースの前にいるのは、リリカとかダレルとかいう、あのニセ火星人だと?

 火星上の都市の映像?

 核攻撃の映像?

 火星の廃墟?

 金星空中都市の『景観』と内部の様子?

 その当時の、宇宙から見た地球の姿?

 ばかばかしい。

 このような映像なら、いくらでも作れるさ。

 あまりにリアル感があるのは、実のところ気にはなるけれど。

 オリンポス山の映像か。

 火星の海?

「くそ。僕の頭を掻き回したいんだろうが、そうはいかない。」


 その時、インターホンが鳴った。

「首相様、お食事などいかがですか。よろしければ食堂ホールにおいでください。お部屋を出て右に真っすぐです。」

 感じのよい女性の声だった。

「まあ、こういう時は招待に応じるべきものだ。よいしょっと。」

 まだ60過ぎの首相は、肉体的には元気いっぱいだった。

 

 さっきまで鍵がかかって出られなかった部屋のドアは、今回はすっと開いた。

 薄赤い高級感の漂う部厚い敷物が、廊下にずっと敷かれているが、これはかつてはなかったものだ。

 食堂ホールは、すぐにわかった。

 ジャングル食堂だった部屋は、すっきりとしてしまって、昔を知っている人からすれば、やや寂しくなった感じがするに違いない。

 大きなガラス張りのような窓が、外向きにずらっと並んでいるところは、まったく変わりがなかった。

 その外には、ちょっといまどきは見ない感じのジャングルが広がっていた。

 日本は夜だったが、ここは昼間の様だ。

「いらっしゃいませ。こちらがメニューでございます。」

「ほう? ふうん・・・・お勧めは、どれかな?」

「はい。それはもう、こちらです。」


  『杖出首相歓迎特別コース』


「なんだいこれは。」

「首相様がお越しになるという事で、特に期間限定で用意しましたものでございます。」

「はあ、そりゃあもう、これにしろって、言ってるような感じだな。」

「恐れ入ります。」

「まあ、じゃあこれで。で、聞くけれど、ここはいったい、どこなのですか?」

「まあ、第一王女様ったら、それもお話しになっていないのですか?」

「みたいだな。」

「じゃあ、私がしゃべったら、だめでしょう。」

「いいんじゃないかなあ。」

「そうですねえ。でも、外交問題になりそうだから、やめておきます。お食事の後、お庭に出ていただいても構いませんが、ここは、ある種の大きなドームに囲まれております。その外には出られませんので、ご注意ください。この森は、基本的には2億5千万年前の地球の森そのものでございます。危険な生き物などはいませんのでご安心ください。ただし、大気は丁度良く調整されております。ちょっと、ムっとするかもしれませんが。お飲み物は?」

「ほっとコーヒーでいいよ。」

「かしこまりました。予定では、約20時間後に第一王女様がお越しになります。それまでは、この「パレス」は貸し切りになっております。ただ、どうか突飛な行動はお控えください。この周囲には、バスも電車もありません。万が一にもドームの外に出たら、お命の保証はございません。あしからず。」

「やさしいんだか、怖いんだか、わからないな。」

「恐れいります。では、お料理をお持ちいたします。少しお待ちくださいね。」


 **********   **********


 双子の姉妹は、食事後、集中的な楽器の練習をした。

 このお家には、個人練習室が五つもある。

 しっかり防音されているので、となりの部屋の音が侵入してくることはない。

 カラオケも、食料持ち込みもOKというところは、まあ個人のお家だから当然だろう。

 ただし、利用後は、ちゃんとお掃除することが、家庭内規約で義務付けられていたが。

 忘れると、食事が一回自費になる。


 ***     ***     ***


 もう、真夜中である。

「おーい。お風呂入ろう。」

 弘子が妹に声を掛けた。

「はーい。」


 なにしろ、結構大家族なので、お風呂も大変だ。

 ただし、ここで雇用されていて、夜泊りの方などには、専用のお風呂が用意されているし、お客様用も、これは別棟にある。

 また、洋子は自室に専用風呂があり、大風呂に出てくることはない。

 基本的には男女は分けられていて、大風呂は二つある。

 しかし、松村家は、圧倒的に女性優位である。

 特にやむおえない事情がない限り、女性が済まないと、男はお風呂にも入れない。

 念のため、パソコンで使用状況パネルを見てみれば、現在「空き」状態である。

 弘子は、さっそくこの後最初の予約を入れておいた。

 

 家が広いと、お風呂までたどり着くのも、大ホテル並みに大変である。

 いったん自室にふたりは戻り、お風呂セットを持って、大風呂に向かった。

 途中で、弘志に出合った。

 ひざまずくのは、どうやらやめたようだったが、それでも深々と頭を下げながら言った。

「これはこれは、総督閣下、それに姉上殿。お風呂ですか?」

「まあね。あんた入ったの?」

「まさかまさか、おふたりの、空き待ちでございます。」

「あら、男湯、空いてたよ。」

「それがですね。明子姉さんが押さえてしまって。ダメでした。髪洗うから、相当かかるとか。」

「はあ、長いのよねえ、お姉さまは。そういう時は、階段風呂(松村家の各階にある、一般家庭にあるような、小さな個人風呂のことを指す家庭内用語。)にしてくれって、言いなさいよ。」

「そんな、恐ろしい事。やっぱりぼくが、そっちにします。ちょっと気が滅入るけどね。」

「ご苦労様。」

「とんでもない、陛下、姉上、おやすみなさい。」

「はい、おやすみなさい。」


 二人は、やっと、大きなお風呂に到着した。

 完全冷暖房完備の脱衣場がある。

 さまざまな、体のメンテもここで行える。

 この双子は、『輝くような薄い褐色の肌を持つ、インド系の美少女で、その中にどこか日本的な雰囲気も漂わせる』のである。

 豪華なロココ調の時計も壁に掛かっていて、もうすぐ明日になることを知らせていた。

 わざわざ、スイスに特注した大時計である。


 風呂場自体は、それはもう、最高に良い雰囲気である。

 こんなものが、自宅にあるなどというご家庭は、まあここぐらいだ。

 ふたりは、裸になって(あたりまえだが)お風呂に入って行った。


「やれやれ、なんか混乱の一日でしたわ。」

「はい。ご迷惑をおかけ致しました。お姉さま。」

 湯船につかりながら、道子が申し訳なさそうに答えた。

「まあ、そうですが。おたがい、変になってたからね。仕方がないわよ。あなた、このお風呂入るの久しぶりでしょう。それに、またいつ入れるかわからないわよ。明日は、またさらに、ごたごたする。あなたきっと王国に呼び戻されるわよ。ただし、これからは、タルレジャタワーよね。ヘネシーが第一タワーを占拠してしまったようだから、あなたは第二タワーね。」

「はい。でも、第三タワーは、お姉さまの為のものですわよ。」

「そうかしら。まあ、当分は皆様で使っていただきましょうよ。」

「あの、お姉さま。いえお母様。」

「はい、なんですか?」

「無役じゃやなくて、何かになってください、帝国の、ですわ。わたくしは、『帝母様』がよいと考えておりますが。」

「はあ、ほらあなた、もう約束破ってる。まあ、二人の時は良いけれど、少し練習しなさいな。慣れとかなきゃ。」

「え? ああ、そうでしたか。ああ、では、そなた、何かの役に付くがよいぞ。姉上。」

「そうねえ。まあ、でもね、現状は、これがわたくしの役目なの。あなたとは、表面上少し敵対関係を、いまあえて演出してるでしょう?」

「まあ、確かに。」

「ダレルちゃんは、そこを、さらに、おおいに利用しようとしたんじゃあないかなあ。彼一流の、言い訳の元でね。確かに、わたくしはダレルちゃんと図り事はしておりました。この状況は、地球人をうまく管理するために、あえて作っている状態です。荘厳で、威厳があって、聡明で、情けも深いが、恐ろしさも併せ持つ皇帝陛下。基本的に恐怖の対象であるべき、おそろしく厳格で、強い、常時軍服姿で男らしく、しかし実は、音楽家だったりとか、意外な側面を見せるあなた。」

「ああ、・・はい?」

「もっと強く言いなさい。」

「なんと、おっしゃるのじゃ!」

「はい。そうして、なぜか第一王女に留まっていて、帝国の運営には関われない、どうやら皇帝と総督からは、明らかに距離を置かれている、わたくし。ヘレナ。」

「ふむ。え?あの、いつも軍服姿?」

「そう、それが、あなたの姿、すべての地球人に与える、恐怖のイメージ。」

「それは、嫌じゃ。わしは、それは好まぬ。お姉さま、いやです。」

「まあ、そう言うでしょう。でもね、そうであってほしい。嫌なら強制するわ。簡単だもの。ほら・・」

「あああ、お待ちくだされ、姉上。いや、また洗脳されるのは、さらに好みませぬ。」

「そのほうが、楽よ。」

「いえ、結構です。はい。」

「じゃあ、もっと軍人らしく、男っぽくしなさい。」

「ええ!? わたくしは、いえ、わしは、女じゃ、ほら。お母様といっしょ。」

 ルイーザは、どわっと立ち上がった。

「わかってます、って。イメージよ、イメージ。いい、地球人の意識の中に、もうすぐ今夜中には、そうしたイメージを植え込みます。それに沿って行動しましょう。よろしくて? もし、おいやならば・・・」

「いえ、あの・・・、はい。ように、わかりました、お母上様。」

「まあ、よろしくてよ。それで。あのね、まあ、かつて、あの未来人ジャヌアンが予告した事が迫っているのよ。彼女は、わたくしが皇帝になるべきだと主張する。そうでなければ、未来が変わってしまうとね。でもそれは、彼女の勘違いです。彼女の未来は、本来の未来の研究用の分け道であって、本筋ではない。もし、わたくしが皇帝になれば、五千年後にあなたが私の体を殺し、時空の狭間に追放する。そうして、真の民主主義が誕生する、と言うわけよ。でもね、それはジャヌアンさんの幻想の未来であって、本筋の未来じゃあない。彼女は過去と未来の幻想に巻き込まれているわ。でも、今、現実にこの世に来ているの。そうして、良からぬたくらみを、しているのでしょう。そこにダレルちゃんも、何かの形でかんでるらしいし、もしかしたら、ブリューリがさらに絡んでるのかもしれない。という、わけよ。でも、ジャヌさんさんの所在が、どうした訳か、何だか見えない。トリックがあるのでしょうねえ。ダレルちゃんも、わたくしからちょっかいを出されたくないもんだから、どこかに隠れている。本当は、わたくしも、あなたも、リリカさんも操っておこうとしたけど、さすが、うまいことシモンズさんが助けてくれた。」

「はあ・・・。わしが、姉上を、殺す?まさか。」

「うん。そこんところもよくわからん。まあ、でもここで問題の『根』は抜いておかなくては、ね。」

「それは、母上、洒落なのか?」

「まさか。まあ、そう言う訳だから、あなた、もっと偉そうにしなさい。いい?」

「はい。そういたします。」

「よしよし、ね、背中流しっこしよう。」

 弘子は、道子を湯船から、手をつないで引っ張り上げた。


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