わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第二百ニ十八回
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リリカは、もちろん、火星の最高指導者だけれども、地球の征服はダレルに任せていた。
それが、軍事関係のトップであるダレルの仕事である。
さらに、火星の実力から言えば、地球人に負けると言う事は想定しにくかった。
ただし、それは、ヘレナ王女=ヘレナ女王、が味方にいるということが前提だけれど。
とは言え、リリカとしては、あまり表には出たくない側面があったのだ。
それは、ビュリアの事だ。
松村家の長女、つまり、洋子さんがビュリアの仮の姿である、ということは、リリカは知っている。
ビュリアは、もちろん、火星人が地球に移住した時期の英雄である。
当時は、女王ヘレナそのものだったこともあった。
今の、同じ名前のヘレナ王女=弘子、と同じ立場である。
リリカは、ビュリアと親しかっただけに、あまり直接は、関わりたくはなかったのだ。
もっとも、もと、ヘレナは、他にも存在するのだが。
つまり、火星の女王ヘレナは、長らく、自らは知らなかったが、実は分身だったからである。
女王本体は、天敵ブリューリを避けて、分身に火星を任せて、秘かに避難していたからだ。
ブリューリは、火星人を、仲間を食べる側と食べられる側に分け、さらに女王を支配して、火星の人間を食べる側、に付けてしまい、そのうえで、本人は、たっぷりとご馳走をいただいていたのである。
もっとも、怪物ブリューリに、人肉食を教えたのは、女王の方であった。
その素性は、まだ解明できていない。
女王は、月に最低一人程度は、人間を食べる必要性があった。
そうしなければ、この三次元宇宙では、存在できなかったからである。
しかし、人間の味を覚えたブリューリは、果てしなく人肉食を追求し、女王をそれに引きずり込んだ。
その、ブリューリは、ダレルに救出されて、現在は地球皇帝ヘネシーの保護下に、今はタルレジャ第一タワーにいる。
だが、その存在意味は、かつてのブリューリとは違ってきていたらしいのだが。
宇宙警部は、行方不明の同僚を探して、永く宇宙を旅していた。
その故郷は、すでに滅亡している。
警部には、伸縮自在の万能宇宙交番が付いている。
交番サイズから、恒星サイズにまでもなれる。
ヘレナが持つ、超能力的なものは別として、交番には、ヘレナに匹敵するくらいの力がある。
彼は、ブリューリという存在に引っかかるものを感じて、火星と地球に関わってきた。
ブリューリが火星の深い地下に幽閉された以降、しばらくは、はるかな宇宙の果てまで旅していたが、現在は地球に戻って来ていた。
実は、ビュリアを慕っていた。
火星滅亡後、女王の本体は、火星滅亡を早めたことを深く反省し(超巨大火山の破局噴火が近づいて来ていて、火星文明があまり長くない事は分かっていたが。)、その証として、タルレジャ教を作り、地球の王国を創立して以降は、自分は教団に専念して、政治には一切、関わらなかった。
地球のタルレジャ王国が出来たのは、2億5千万年ほど前である。
初代国王には、ウナの子ども、パル君が就いた。
その補佐官になったマヤコと、『温泉地球』のママ(ビュリアの母親)は、そのまま地球に定住し、長い年月を経て、いまは、ヘレナに呼び出されている。
国王になった、パル君も、やがて不死化していたが、なぜだか、ヘレナの持つ謎の桃源郷、『永遠の都』には入らずに、どこかに消えてしまった。
パル君の母親のウナは、『不滅の光人間』に変貌したことは分かっているが、光人間は、その名前にしては、これもまた、謎の存在である。
金星の技術で作られたが、人間には自分から見ることができないし、その技術自体がとうに無くなっている。
その開発者の二人は、行方が分からない。
金星の覇者、両性具有のビューナスは、『永遠の都』に入る寸前で逃亡してしまったらしいが、そこはすでにこの宇宙ではなかったらしい。
その後の行方は、まったく、分かっていない。
火星は、老化して重度の認知症となった金星のママに攻撃されて、荒廃してしまった。
その、ママこそ、新しい肉体で若返った、現在の王国の教母さまである。
女王ヘレナの肉体を、最初に生んだ母だとされるが、過去についてはまったく語らない。
金星人は、結局のところは、火星との戦いに敗れて、一部を除いて、どこかの、未知の宇宙空間に飛ばされてしまった。
いま、その金星人たちが、異空間から、戻って来ていたわけだ。
その異空間には、ひとつの恒星と、その惑星しかなく、ヘレナリアという摩訶不思議な存在がすべてを管理していた。
この宇宙とは、なんの因果関係もない宇宙だが、ヘレナリアは、どうやら、ヘレナとは、何かの関係があるらしかったのだ。
この宇宙に、奇策を用いて帰還した彼らは、地球の所有権を主張している。
しかし、火星の法律上は、地球はいまだに、ビュリアの所有物である。
これらの多くの出来事は、2億5千万年以上は、昔の話だ。
一方で、火星に、海があったのは、35億年は前であると、現在の地球人は分析している。
それは、正しい結論だった。
しかし、そうしたことは、ヘレナと宇宙生態コンピューター・アニーさんが行った隠ぺい工作の結果である。
それは、天才少年シモンズが言うように、まさに神に背く行為であり、事柄かもしれないが。
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その、はるかな宇宙に去っていた、分身のほうの、ヘレナの行方が、わかっていない。
これは、大いに注意すべき事柄だった。
ヘレナの本体は(おそらく、本体だろうもの。)、なぜだか、本来のようには、分身を処分しなかった。
リリカは、自分の分身が月の裏側に存在している手前、これを非難することはできないが、間違いだったとは思う。
持っている力が、並大抵のものではないからだ。
実際に、リリカたちが知らないうちに、彼女はすでに地球に潜入していたのだが。
ヘレナに私淑する宇宙海賊、マオ・マ(マオ・ドク)も地球に帰っている。
他にも、不死化して、行方の分からない大物が幾人も存在しているのだが、太陽系とは、すでに縁の切れた存在もあるようだった。
宇宙クジラと言われるものが、アルファ・ケンタウリ付近には存在している。
しかし、彼らは、その気になれば、非常に近い太陽系に来るのはたやすいが、現在のところは、そうした考えはないらしい。ただし、人類が友好的に訪問して来ることは、歓迎すると言っており、すでに、火星や金星からの移住者を受け入れていた。
ほかにも、『紅バラ組』や、地球人の超能力組織、幸子さんなどの『池の女神様連合』も、絡んできていた。
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リリカは、ようやく、マムル医師から呼び出された。
「すいません。最高指導者様をお待たせしてしまいまして。」
医師は、いつものように、丁寧に言った。
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