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わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第二百ニ十七回


       **********



 ヘレナ=弘子の肉体の再生を行っているのは、もちろん、マムル医師である。


 かなり、ずたずたにされてしまったので、いかに借りの不死化(まだ、身体は年は取る。)をされているとは言え、通常ならば命はなかっただろう。


 しかし、そこは、火星随一の医師であったマムル医師である。


 すでに、ヘレナの命は取り留めていた。


 それでも、肉体の再生は容易ではなさそうだったが。


 さらに、不思議なことに、彼女をしても、再生不可能な領域には、寸前のところで届いていなかったのだ。


 「あきらかに、暗殺者は、意図的にやったと思われるわね。」


 マムル医師は、つぶやく。


 この状態を知っているのは、侍従長と、教母様だけだ。


 普通なら、すべてを知っていてよいはずの、ルイーザ王女にも知らされてはいなかった。


 それは、ヘレナ王女の意志だったが。


 公式には、ヘレナ王女は、亡くなったとされている。


 しかし、宗教的に言えば、ヘレナ王女は第一の巫女であり、もちろん教義上は、教母様が上だけれど、実質的な事を言うと、タルレジャ教団のナンバー・ワンであり、国王大権が発令されている今は、事実上の独裁者でもある。


 誰しも、タルレジャ教徒ならば、ヘレナ王女は不死である、と暗に考えていた節がある。


 もちろん、王国の中心は南島であり、そこは日本や欧米の都市生活や常識と大差はない。


 だから、いかに第一の巫女であっても、死なないことなどあり得ないと、みな認識はしている。


 それでも、タルレジャ教徒ならば、一種の期待がまったくないと言えば、嘘になるだろう。


 もちろん、ヘレナ王女が亡くなったとなると、それは一大事なのだ。


 そこは、停戦中とはいえ、内戦状態にある王国のことであり、事実上の戒厳令にあたる、非常事態宣言が出されている。


 ただし、内戦中といっても、戦闘があったのは、北島の一部だけだ。


 この王国の、『異常なシステム』、と海外の民主主義国からは揶揄されることもある体制が、こういう場合には、実にうまく作用している。


 つまり、南島の経済や生活には、大きな変化がないのだ。


 王国政府は、北島の王室と対立状態ではあるが、そもそも王室は政治に関与しないのが基本であり、独裁者であるはずのヘレナ王女が不在となれば、政府の通常の活動に口を挟むものは、まずいない。


 地球総督であるルイーザ王女は、ヘレナ王女の代わりになり得る唯一の存在だが、なぜだか、姿を隠しているし、地球皇帝であるヘネシー王女は(どちらも、まだ、暫定ではあるが。)、王国からは離れているだけに、逆に口を挟みにくくなっている。


 そうなってみると、王室否定論者のパブロ議員のような、内戦を指導したのではないかと思われている改革派の立場は、いささか、怪しくなってきていた。


 王国民から絶大な人気のある、ヘレナ王女が殺害されたとなると、その犯人が謎の暗殺者で、改革派の刺客ではないとしても、王国民の同情は、ヘレナ王女様に傾く。


 「頭のいい子だからなあ。」


 マムル医師は思ったが、彼女は医師であって、政治には関わるつもりはない。


 しかし、王女の再生を行いながらも、別に頼んだわけでもない中継をあえて見ようとは思わないし、音量も最低に絞っているが、どうしても、いくらかは眼に入る。


 それでも、さらに、思うところはあった。


 「思うに、このお芝居には、まだ登場してないらしき、重要人物はいるなあ。嫌な予感はする。」



 

          ************



 火星のリリカが、心配のあまり、現場を離れて、ここにやって来ていた。


 他の誰も、あそこからは出られていなかったが、リリカだけは、誰にも邪魔されなかった。


 それは、当然ながら、アニーさんの行ったことであったが。


 もちろん、この王立病院の、隔離された病棟には、限られたロボット看護師以外入れなかったし、リリカも別室に待機させられている。


 ここでも、なぜだか中継は行われていたから(それも、アニーさんの、配慮だが。)問題はなさそうだった。


 ただ、リリカは、誰かに見張られていると感じていた。


 アニーさんではない。


 アニーさんには、気配がないのは、分かっている。


 もちろん、誰の姿も見えない。


 それでも、火星人類も地球人類も、理屈には合わない感性を、いまだ持ち合わせているらしい。




            *********************







 


 













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