わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第二百ニ十四回
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ヘレナは、このような状況を、まったく予測していなかったわけではない。
もし、シモンズと、今は、ヘレナ自身になった弘志と、アニーさんと、アブラシオ、さらに、もしかしたら火星のリリカ、敵対的な地球人ミュータント、そうして、昔の自分達(たとえば、アヤ姫と、その周囲の女神さまとか・・・)が、なんらかの協力をしているならば(その内の何人かが、謀略をしていることは間違いないが。)、あすの地球帝国創立式典が、すんなり行えないかもしれない。
もっとも、ルイーザは、自分がコントロールしているし、ヘネシーはいずれにしても、敵にはなれない。
形の上では、皇帝ヘネシーはダレルの支配下にあり、ダレルは火星復活の為には、当面地球の支配を止める理由がない。
王国第1王女である自分は、地球帝国のいかなる地位にも就かないし、ヘネシーとルイーザに忠誠を誓っている。
とはいえ、ダレルの様な、強力な不感応者が何人かいると、上手くやられたら、その謀略の内容のすべてを、ヘレナが知ることは、たぶん、できないだろうし、そこに、もしかしたら、憎むべきブリューリが食い込んでいるかもしれない。第一、ブリューリの現状が掴めていない。あの怪物が、タルレジャ・タワーに匿われていることは、ヘレナは知らないままだ。
大きな特権を与えてきた、『原初の母』=教母さま。
教母様の行動は、いざとなったときは、未知数な部分がある。
それに、どういう訳だか、なぜそのような存在がいたのかさえ、まるで理解できないでいる、雪子と優子。
あれほど、慎重に構成した家族だったのにだ。
ビュリアが洋子に入れ替わっていることは、最初から予想はしていたし、ある意味、お互いに容認していた。
しかし、ヘレナが構成したものではないこうした要素の多くは、誰が計画したのだろうか。
それはもう、まずは、ビュリアが怪しい。
けれども、ビュリアは、概して敵対的ではないはずだ。
そもそも、ビュリアは、もともと、ヘレナの身体だった。
一度、ヘレナを受け入れたものは、直接の支配から離れても、裏切り行為は行えない。
それに、姿も影も現わさないが、非常に心配している存在がある。
ウナだ。
光人間の統領になっているとの情報は得ているが、太陽系での活動は見られない。
ウナは、もはや、人類ではない。
不老不死であり、経歴的にはヘレナには遥かに及ばないとしても、その力は未知数だ。
雪子か、優子か、どちらかが、ウナとつながっている可能性がある。
ただし、・・・・そう、確かに、自分は、神ではない。
宇宙を創始した事はなく、また、すべてを知ることはできないが、アニーさんや、アブラシオの力を借りて、大方の事実は把握できるはずだ。
道子や、弘志も、その存在は、その補完のための意味も大いにあった。
昔から、そうした存在を、その時々用意したのだ。
パルくんもそうだった。
パルくんは、『真の都』に入っているから、まず、不安はない。
彼らは、怪物であっても、この宇宙の産物であることに違いはない。
タルレジャ教が認識した神は、言うまでもない、ヘレナ自身のことだ。
いや、その体内に宿っている、この宇宙の生き物ではないのに、生きているように振舞う、謎の、『何か』だ。
自分が何者かが分からないヘレナの本体は、それでも、自分以上の力を発揮する生物を、自分が関わったすべての宇宙で見たことがない。
自分以外の何者かが、ここ地球で、ヘレナの上前をはねるように、悪戯をしているなんてことが、あり得るのだろうか。
シモンズは、それを、見つけたのだろうか。
いま、それを、語ろうとしているのだろうか。
シモンズの意識の中は、見ないと約束をした。
そんな約束は、無いも等しいものだが、それでも、ヘレナは守ってきている。
ヘレナは、かつてないような、あたかも、彼の身体を引き裂くような厳しい視線を、シモンズに向けていた。
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ヘレナ=弘子の身体は、タレルジャ教本部の奥深くに安置されていた。
もちろん、教母さまが見守っている。
そこに、現世とは事実上の縁を切っている、ヘレナの実の母、つまり、国王夫人が訪れていた。
まったくの前代未聞の行動であり、秘密の行為だが、教母様が特例として許可した。
「この子は、不滅です。不死化の処置を、直前に行ったと聞きました。それは、予定外でした。20歳を少し超えたところで、行うはずだったからです。」
教母様が、静かに言った。
「あなたは、その意味は知っていますね。」
「はい。聞いております。弘子は、かしこい子です。婚約の儀にあたって、何かを確信したのでしょう。そういえば、あなたも、不死ですね。」
「そのとおり。教母とは、名ばかりの、悪人ですが。」
「いいえ、そのようなことは、ございません。あなた様は、長い時間を贖罪にあてがわれました。」
「ありがとう。しかし、火星を壊滅させたのは、自分です。その事実は変わらない。」
国王夫人は、答えなかった。
「この子は、ちょっと、弾丸を浴びすぎました。それらは、すでに排出されました。体の修復に少し時間がかかっています。でも、間もなく復活するでしょう。いまは、身代わりが立っています。」
「弘志も、あたくしの子です。大切な。非常に心を痛めています。」
「それは、理解します。しかし、人類の知恵が及ばない部分なのです。」
弘子の美しい身体から、銃創はほとんど消えつつあった。
止まっていた心臓は、鼓動を再開していたし、呼吸も始まっていた。
弘子=ヘレナは、生き返っていたのだ。
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