わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第ニ十二章
マヤコはカバヤク遊園地内にある、金星最大の動物園に移動した。
「金星の地上は、早く荒廃してしまって、金星人たちは「火星の女王様」の誘導で空中都市に移りました。動物たちも一緒にです。金星人は自然の進化だけで成り立ったわけではないとされています。人間以外の生き物たちもです。その点、火星人と地球人は、ながく自然に育まれました。女王様は、多少は手を加えたようですが、あまり介入しなかったそうです。」
会場からは、またブーイングや微妙な声が上がった。
「それは、わかります。多くの金星人だって、そんなこと受け入れたくはなかったのですから。金星の気象状態は、女王様の『ママ』によってコントロールされていました。『ママ』がなんなのかは、最後まで良くは解りませんでした。いま、『ママ』は人間になって地球にいるとされていますが・・・」
また、ざわめきが起こった。
「それが誰なのかは、誰も知りません。おそらく女王様以外は。」
マヤコのビデオには、さまざまな動物たちが写されていた。
動物園と言っても、檻があるわけではない。
地上に低いブロックの様な印があって、そこが境界になっているらしい。
「人間たちは、ここから内側には入れません。入ろうとしても、見えない壁があって侵入不可能です。動物さんたちも同じです。ただし、食べ物を上げたり、触れ合ったりできる場所もあります。」
『ここも、何回も行ったわね。まあ、基本的には地球と同じ。広くて見た目開放的な感じがいいけど、閉じ込めてる事に違いはない。マヤコさんは、解放動物園には行かなかったのかな?』
地球では存在しない、たくさんの生き物たちが次々に映った。
「わたしは、動物の専門家とかじゃあないので、解説は出来ないのですが、まあ地球の生き物だって親戚程度のものです。でも、この動物園も、宇宙から消えてしまいました。一体どこに消えたのか?わかっておりません。金星文明は、限界に達して、ついに『ママ』が徐々に異常になり、最終期に至りました。ビューナス様と言うミュータントの指導者が最後の時期を支えました。一方火星人は、恐ろしい人喰い宇宙怪物と、怪物に操られた火星の女王様に、長年支配されていました。人間が人間を食料とする異常な世界でした。しかし、微妙なバランスの上で、表面上の平和は保たれていました。やがて、怪物はようやく退治されましたが、金星と火星は『ママ』の暴走にもあおられて、核戦争を起こし、火星は滅亡し、宇宙にのがれた金星人の「空中都市」は、なぞの空間にのみ込まれて、消えました。ちなみに恐ろしい怪物を退治したのが、いま地球を征服に来ている、リリカさんとダレルさんなのです。火星の英雄さんです。彼らは人工的に「不死」なのです。わたしもです、いまは、それは罪だと思います。」
大きなどよめきが起こった。
「わたしがお伝えしたいのは、そんな火星人が、今地球の皆さんを支配しようとしていることです。英雄さんが、怪物さんになろうとしています。この映像は、私が撮ったモノでは無くて、火星人側が撮影していたものを、昔、入手したものです。」
ミサイルらしきものが、火星に降り注いでいる。
核兵器の一種に間違いはないだろう。
一方で、金星の空中都市にも、激しい攻撃が行われている映像が続いた。
そうして、宇宙空間に、不可思議な穴が開いた・・・・・
金星の空中都市が、次々に飲み込まれているらしい。
「まあ、最近のSF映画なら、こんな映像いくらでも作れるでしょう。でも、これも実写です。」
『映画ならもっと上手に写すわね。マヤコさん、これをずっと持ってたわけか。』
「地球人の行く末は、地球人が決めるものです。わたしは、火星人や金星人が、強制的な介入をするなんて間違っていると思います。ただし、お互いに協力するのは、良い事だと思いますけれど。ぜひ、見直しが必要です。言いたいのはそれだけなんですよ。わたしには力がありません。おそらくここには、力がある方のつながりの方がいらっしゃるでしょう? 支配じゃなくて、協力にしましょう。強制的な意識の統制などするのは、やはり間違ってます。おしまい。」
マヤコは、お辞儀をして、去っていった。
『ふうん。やっぱり、マヤコさん欲しいなあ。』
ヘレナはつぶやいた。
そこで、彼女は、乗り移っていた女性の意識をうまい具合に折り合わせて残像だけ残して、自分は楽屋に飛んだ。
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「ぶぁっかやろう!!」
マ・オ・ゾクは部下を叱り飛ばした。
まあ、部下の方は当然予測して構えていたので、さほどの効果はなかったが。
「まったく、信じられないドジだなあ。それじゃあ、「マ・オ・ドク」に申し訳が立たねえなあ。」
もう遥かな昔、「マ・オ・ドク」は、「海賊片目のジニー」から「えびす号」に装備されていた特殊なエンジンの技術をいただいて、「ぶっちぎり号」を改造し、宇宙のかなたに飛び立ったまま消えてしまった。しかし、二億三千万年後の頃、一度だけこの太陽系に戻ったときに、王国で子孫を残していった。デラベラリ先生も同様であった。
マ・オ・ゾクはその子孫の系統だった。
自分としては、「偉大な宇宙海賊マ・オ・ドクとデラベラリ先生の子孫」の海賊として、宇宙では幅を利かせていた。その、つもりだった。とはいえ、火星と金星が覇を競っていた時代とはもう違う。宇宙でのもうけは、あまり(さっぱり)期待ができない。そこで、王国と日本のスーパーマーケットやコンビニの経営をヘレナから任されていたわけだ。それでも、太陽系内にもいくつか支店を出している。火星や、その植民星と王国の間を行きかう宇宙船からの売り上げがある。海賊として宇宙空間に乗り出すのは、基本的には休日の趣味みたいな感じになっていた。かっこつけて、旗を立てて飛ぶだけだ。
それでも、その住居はいまだに宇宙空間だったけれども。
また、シモンズは、デラベラリ先生の子孫な訳だ。
「せっかく助けてやろう、と思ったのになあ。俺と組んで仕事したら、いいもうけができる。あいつの政治家生命は終わりなんだ。古巣に戻るべきだ。といっても、本人は知らないけどなあ。まあとりあえず、太陽支店の副店長あたりで、修業をやってもらおうかなあ、と思っていたが。まさか、「お嬢」が介入して来るとは思わなかったぜ。」
マ・オ・ゾクの手には写真があった。
男五人で写っている。
そのうちの一人は、杖出首相によく似ていた。
「まあ、世間なんて言うものは、広いようで狭いもんだ。」
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マヤコは、マントを被った怪人のような格好で、さっさとビルから外に出て駐車場の車に乗ろうとしていた。
「マヤコさあん!」
予想もしていなかった声がかかったので、マヤコはドキッとした。
「どなた?」
「マヤコさん、ビュリアですよー。お久しぶり。お話し聞きましたよお。」
ヘレナは、もう別の体に、文字通り乗り移っていたのだ。
「あ、あ、あ、どうも、じゃあさようなら。」
「こらこらこら、逃げないで下さい。襲ったりしませんから。お茶なんか、いかが?」
「いえ、あの、いま結構ですので、また。」
マヤコは自動車に乗ったが、エンジンがかかるはずもなかった。
「ふう・・・・・。」
「あきらめた?」
「はあ・・・・ちょっとだけなら。」
「もちろんです。わたくしも次の予定があるの。近くにいいお店があるのよ。一杯飲みたい気分だけどね。」
「お茶だけなら。」
「はいはい。喫茶店です。」
マヤコは車から降りた。しかし、顔自体は笑顔だったのだ。
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第二王女は、ちょっと苛立っていた。
「もう、お姉さま、いったいどこをうろついていらっしゃるのかなあ。連絡すると叱られるかもしれないし。そうだ、アニーさんに聞いて見ようっと。アニーさん。もしもし。」
『ええ、はいはい、ルイーザさん、なんですか?』
「お姉さまは、どこにいらっしゃるのかしら?」
『シブヤです。』
「シブヤ?」
『はい、「火星人撃滅総決起集会」に行っています。』
「はあ?なんでしょうか、それ。偵察なのですか?」
『まあ、そういうものでしょう。アンジさんも来てます。』
「アンジさんが・・・」
『ええ、反体制派のミュータントあたりとつながってるようですよ。しかし、昔のお知り合いがいたので、いま両にらみになってます。』
「そうなのですか・・・。お姉さまに取り次いでいただけませんこと?」
『ご自分でやったらいかがですか?』
「あの、ちょっと、コワイのです・・・ご迷惑もお掛けしましたしね・・」
『でも、あなたの方が偉いのですから、「こら第一王女、そこで何をしておるのじゃ!」と言えばよいのです。ヘネシーさんなら、そうするでしょう。」
「あの子は、まあ、特別ですから。」
『ふうん。わかりました、では、アニーがやります。』
「え。あの、差しさわりのないところで、お願いいたします。」
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ヘレナの意識の中に、大きな声が響いた。
『こら、第一王女どの、そこで何をしておるのじゃ!きちんと報告なさいませ。・・・・ええ、と、総督閣下がお怒りですが・・・・アニーでした。』
『まあ、アニーったら。仕方ないわねぇ。もう・・・おーい、ルイーザさん怒ったのかなあ?』
喫茶店に、マヤコと入りながらヘレナは意識を送った。
「あの、お姉さま、アニーさんが何か言いましたか?』
『総督閣下からの伝言です。そこでなにをしておるのじゃ!報告せい!と、お怒りとか。総督閣下様、お許しくださいませ。いま、なんと王国創設時の閣僚の方と偶然出会いましたの。ちょっと、お茶飲んで帰ります。どうか、お許し下さい、閣下。情報はきちんと後ほど、閣下の意識にお送りいたしますゆえ。』
『はあ・・・・・では、そうしてください。あのですね。杖出首相がお待ちですよ。』
『ああ、なるほど!了解でございます。閣下。』
「いらっしゃいませ! まあ、王女様!お久しぶりですね。また、お忍びですか?」
なじみの、ママが言った。
他の客はいない。
見た目が違うのに、相手が王女だとすぐに認識する。
このママは、ただ者ではない。
「まあ、そうです。今日はでも、お茶だけでね・・・」
「はいはい。お部屋にどうぞ。」
二人は、喫茶店にしては、やけに豪華な個室に入った。
「すごいお部屋。ここ、普通の喫茶店ですか?」
「まあ、わたくしがけっこう、投資してますのよ。」
「はあ、ビュリアさん、その体は?」
「ああ、行きずりの方、ちょっと借りてますの。」
「あいかわらず、魔法ですか・・・いいのですか?」
「まあね。」
「はあ・・・・」
マヤコは、ビュリア=ヘレナが乗り移った女性を見つめた。
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アンジが出席している集会の方は、いよいよ佳境に差し掛かってきていた。




