わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第二百十五回
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「われわれは、なんだったのでしょうなあ。」
中村教授とクークヤーシスト氏は、いつのまにか王宮の奥の間に移動させられていたが、そこがどこなのかは、本人たちには、まだ知らされていなかった。
そこに置いてあったテレビは、どうやら外部とはつながっていないらしく、画面が薄く光っているので、通電はしているらしいが、何も映像はこなかった。
それが、急に動き出したのである。
そうして、王国放送協会の番組らしきものが出現した。
画面の左上のすみっこに、『TBC』と表示されているから。
なんだか、お花がいっぱい取り囲んでいるスタジオの様子がまず現れた。
王国民は、これで、この番組は、王室がらみの番組だと認識する。
ただし、お祝いに使うお花類が主体なので、いわゆる慶事、らしいと判断する。
たとえば、日本合衆国の国民などは、こうした設定は主に有名人が亡くなった場合に見るものだから、そこんところの区別は、かなりの王国通でないと、なかなか付きにくい。
中村教授は、そこらあたりは、わりと詳しい。
まあ、大方は、弘子と道子から教わったものなのだが。
「おいわいごとがあった、ということですな。これは。あの子たちの、婚約の儀にかんすることでしょう。しかし、何がどうなってるんだか。」
「まあ、お祝いと言われても、ここはどこなのかさえ、わかりませんのに。」
「まったくです。ぼくは、ちょっと前に、『真の都』の中に、招待されたのですが。」
「それって、あの、タルレジャ教の聖典に出てくる、『真の都』ですか。」
「そうなんです。なんとぼくは、そこで、あの、タールベルク氏の演奏を聞いたのです。実演です。」
「ぶ。先生、夢でも、ごらんになった?」
「そう思いましたよ、実際、でも。」
「でも?」
「記念撮影もしました。ほら、これ。録音もしました。」
中村教授は、スマホの画像をまさぐったうえ、女史に示した。
「お~~~~。スゴイ! でも、こうなると、相手は誰でも成り立ちそうです。直に会ったことがある人なんか、いないでしょう。ショパンさんには、会わなかったの?」
「そうなんですよ、先生。ショパンさんは、まさに、そこに、いるらしいのですが、女王以外には合わないのだそうです。」
「女王って?」
「弘子君です。」
「はあ~~~~~。もう、現実が崩壊しそうです。池の女神様とか言うお化けは出るし。あたくしの国では、まあ、トロルはいるとはいいますが。見たことはない。」
「みんな、そうです。しかし、この録音聞いたら、あなた、ぶっ飛びますぞ。あ。アナウンサーが現れましたな。」
なんとも、清楚そのものという感じの、アナウンサーが現れた。典型的な、王国美人である。肌の色は、弘子たちと同じくらいなのだが、弘子たちとは違い、あまりインド方面的な顔立ちが感じられない。
おそらくは、生粋の王国人というところなのだろう。
実際、彼女は、王国放送協会きっての美人アナとして知られる。
『王国民の皆さま、本日は、歴史的な放送となります。これを、現実として捉えられない方もおありでしょう。特に、南島の方々には、そうだと思います。けれど、これはフェイク番組ではなく、真実であることを、ご理解ください。本日は、アヤ姫様ご本人様が、ここにおいでくださいます。アヤ姫様は、すでにお亡くなりになっているので、王女様の地位にはございません。しかし、我が王国にとって、いかに重要な方であったかは、皆さま、ご承知でしょう。間もなく、22時10分に、このスタジオにご出現になる予定です。』
教授とクークヤーシスト女史は、顔を見合わせた。
すると、そこに、また居場所を移動したかのような、軽いめまいを伴うような、不可解な現象が起こったのである。
二人は、再び、かなり広い、それなりに豪華な、しかし、閉ざされた場所に移動していた。
そこには、なんと、国王がいたのである。
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『では、皆さまお集まりですなあ。コホン。ああ、ぼくは、アニーさんです。』
アニーさんの姿は、誰も見たことがない。
この長大な、太陽系の歴史の中にあって、誰も、見たことがない。
実際、アニーさんには、姿はない。
『アニーさんは、これから、謎解きをします。いま、世間では、アヤ姫様が、テレビのインタビューに答えるところです。そちらは、また、いつでも見ることができます。しかし、アニーさんのお話を聞くことができるのは、あなたがた、ごく一部のみなさんだけです。それも、一回きりですよ。録画もしません。まあ、録音機をお持ちの方は、別に禁止はしませんです。はい。ただし、録れるかどうかは、怪しいです。なんせ、これは、音ではありませんから。おほん。』
「アニーさん、そりゃあ、君が、ぼくらの意識の中に話しかけてると考えて良いんだよね。夢のように。」
シモンズが、さっそく割って入った。
『ああ。シモンズさん。まあ、そうです。』
「なら、ぼくが、ぼくの意識を、そのまま、『録音』することも、排除しないよね。」
『そりゃあ、シモンズさん。そんな、ことが、人間さんに、出来るのならば。え、できるのですか?』
「ふふふ、アニーさん、まあ、お互い手の内は、ゆっくり、出そうね。」
『はああ。いやあ、アニーさんは、カッコよくやりたいんですよ。あなたが、一番の障害だとは思ってはいましたが。』
「いいよ、カッコよくやって。弘子さん、いや、ヘレナさんか、あるいは、ルイーザさんが、どこまでちょっかい出すのか、出さないのか、そこも、楽しみなんだが。」
『いやいやあ。アニーさんの話は、ちゃんと聞いてください。』
「もちろん。聞くよ。さ、どうぞ。」
「シモンズさん、アニーさんは、人間ではないから、心理作戦は効かないですわ。」
ヘレナ・・・へレナらしき人物・・・が、言った。
「わかってるさ。でも、この、アニーさんが何者なのか、まだ、特定されていないんだ。」
「ほう、そうきたか。いいわ。あたくし、アニーさんのお話の内容によっては、やはり、介入いたしますから。」
弘子=ヘレナ、は、いったん、そこで黙った。
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