わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第二百十三回
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「お待ちなさい。」
大奉贄典の腕を止めさせたのは、ほかならぬ、地球帝国皇帝ヘネシー。
『タルレジャ王国第3王女』、だった。
大奉贄典は、驚きのあまり、少しだけだが、叫びぎみになった。
「なぜ、なぜ、あなた様が、ここにいらっしゃるのでしょうか?」
弟子は、訳が分からずに、立ち尽くしていた。
「いや、止めることはできません。いかに、あなたであろうが、ここを止められるものは、第1の巫女さまだけである。」
彼は、再度スイッチを押そうとした。
「いいですよ。押しても。動かないようにしたから。」
それは、もうひとりのリリカだったのだ。
そこには、シモンズや、ビュリアが後方に控えていた。
「あなたたちは、なぜ、ここに? 誰が、許可を?」
こんどは、ヘネシーが怪訝な顔になった。
王女として、いかなる場合も、表情を崩さない訓練をしてきたヘネシーのことだから、うろたえているようなことはないように見えるが、しかし、驚きは隠せない。
もっとも、ヘネシーも、ここに立ち入る権限はないはずだ。
ただ、皇帝陛下となれば、もはや、話が違ってくるのかもしれないが。
そこは、だれにも、すぐには、決められない。
けれど、つまり、皇帝陛下と、シモンズたちは、別行動だったということだけは、誰の目にも明らかだと思われた。
「・・・動かないですと?」
「師匠、確かに。電源が落ちてます。動かないですよ、いくらなんでも。」
弟子が、別の操作パネルを確認しながら言った。
「コンピューターは、ダウンです。」
「あり得ない。なぜだ? それに、あなたは?なんですか?」
「そうですね。あなた様は、いつも、ひたすら、ここにいらっしゃったようだから。あたくしは、リリカ。火星のリリカです。ただし、コピーですが。」
「コピー?」
「コピーとは言いましても、それはもう、2億5千万年以上前のコピーさんですよ。本物と変わることはない。」
「あなたは?」
こんどは、弟子が先に尋ねてしまった。
「え~、わたくしは、ビュリア。」
「ビュリア! 畏れ多くも、伝説の、開祖様のお名前であるぞ。」
「そのビュリアなんですから。」
「は! 大奉贄典は、地下の存在である。確かに、地上のことには疎かろう。それにしても、あまりに、バカにされたものだ。」
「まあ、お怒りは、ごもっともでしょう。ただ、この調理器は、リリカが開発・設計したのです。だから、リリカは、すべてを知っている。もっとも、コピーが行われたのが先ですから、あとから、本人から教えてもらったわけですけれど。でも、記憶の伝達は、電子的に行われました。あたくしは、ときどき、本体から、そのようにして、情報を受け取っていたのです。いつでも、代わりができるように。月に居ながら、ですよ。」
「それはまあ、ご丁寧な事だ。」
そこには、突然、ダレルが現れたのである。
「まあまあ。大変なことになりましたね。」
ビュリアが、あきれたように、ささやいた。
この異変は、すぐに、食堂の『第1王女』と『第2王女』に伝わっていた。
「そうきたか。とうとう、正体を現してきたわけね。いや、やっと、かな。長い時間を楽しんだわけかしら。」
死んだはずの、ヘレナが、皆を見回しながら、そう言った。
「お姉さま、あたくしには、どうも、分からないのです。これは、どうなっているのですか?あたくしが、お姉さまのしていることが理解できないなどということは、あり得ないはずなのに。お姉さまが、見えないのです。こんなことは、かつてなかったこと。」
「そうよね。ヘレナとルイーザは、事実上、同一人だったから、当然なのです。」
「弘子、その、だった、というのは、なんだい? ぼくらも、すでに、訳が分からない。しかし、食欲だけは、猛烈にある。なんでも、食べそうだ。怖い位だ。異様に、はらへった、というわけだ。」
いまは、うつむきかげんの正晴ではなく、ここは、武が質問してきたのである。
「まあ、あちこちで、事態は進行しつつあるわけよね。さて、誰が、説明するのかな。やはり、あたくしがするの? 気が進まないわ。あたくしは、首謀者ではないからね。そうね、まず、調理室にいるみなさんをお招きいたしましょう。事ここに至ったについては、このさい、皆さんに聞いてほしい。そう考えているわけだ。ね、アニーさん。」
「え。アニーさん?」
正晴が顔を上げた。
『わかりました。では、まず、関係者の方を集めましょう。それが、地球的やり方です。もっとも、ホームズさんは、必ずしもそうではなかった。ポワロ氏の場合は、・・・』
「いいわよ、アニーさん、解説なんかしてくれなくたって。」
「ども、では、可能な限りの方を、集めます。」
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リリカ本体は、気が進まなかったのである。
コピーからの情報だけで、十分だと思った。
自分たちが、二人揃うと言うのは、ほとんどやったことがない。
しかし、アニーさんは、それでは、容赦しなかった。
「あなたが、強制してきたら、対抗はできないことは、わかってますよ。でも、なんで、いまさら、このゲームに再登場する必要がある?」
『それは、あなたが、主犯の一人だからですよ。逃げちゃダメですよ。』
「そうきたか。いいだろう。行ってあげましょう。まあ、長年、鬱積した、ものも、ないことはない。ウナや、パル君は?」
『みな、呼びます。アヤ姫さまも。ヘレナリアさんもですよ。いま、あの宇宙は、この宇宙に吸収されようとしているのです。』
「ふうん。まったく、魔法だな。でも、ビューナスさんは、無理なのね?」
「いえ。そんなことはないです。へレナさえ、戸口を開くのならば、天国からも地獄からも、参加できますよ。」
「ふうん。まあ、いいでしょう。まかせた。」
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『みなさん、食堂にお集まりください。』
アニーさんが、呼ばわった。
『あなたがたお二人もですから。』
「我々が? けっして、表には出てはならない、我々なのだ。」
大奉贄典が、なお、抵抗した。
『すべては、終わります。だから。最終回は、皆が見るべきなのです。地球では。』
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*************** ふろく ***************
『あらまあ、やましんさん。最終回って、いつ?次回?』
幸子さんである。
『いや、次回と言うことには、たぶん、ならないですよ。はやく、最終回にしろお~~~、という方もおありでしょうが。でも、まあ、とにっかく、いったん終わらせとかないと、まずいことになるかも。と、思いましてね。まだ、霧の中ですが。』
『ふうん。なんか、よそでも、やたら、はなしが通じなくても、むりやりにでも、最終回にもってゆこうとしてるなあ、とは、思ってるけど。でも、新しいの始めたりもしてるしな。手に余ったかしら?』
『そうそう。まあ、人間というものは、ときに、無理でも、終わらせないとだめなことがあるものです。』
『お仕事、辞めたみたいにですかあ。』
『そうそう。あれほど、期待されたら、辞職しないわけにもゆかなかったんですよ。』
『ふうん・・・・たかが、やましんさんごときでぇ?』
幸子さんが、例の、サエエリ先生みたいな、しょぼしょぼな目をしたのです。
『まあ、でも、次回に混乱が起こるかもしれないですよ。そうなったら、永遠に、宇宙空間をさまようことになるかもな。』
『まあ、どっちにしても、お饅頭が沢山必要ですね。よし! はいぱー、お饅頭嵐しい~~~~~~!!』
天井から、それはもう、どうしようもない量のお饅頭が降り積もったのです。
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