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わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第二百十二回


  ************   ************



 タルレジャ王国内の『教育会館』とか、『教育センター』とか呼ばれる再教育機関は、自称『池の女神様』たちによって、すべて制圧されてしまった。


 今は、政府は、北島側に、手を取られている。


 本来、人員も少ない軍の主要部分は、そちらに注力されているし、警察は、実際に、歯がたたなかった。


 ただし、北島には、教育会館もないし、アヤ姫様の祟りも、今のところ、特にない。

 

 いずれ、これは、王国政府にとっては、大変に具合の良くないことがらである。


 政教分離を基本とし、科学的な考え方を中心に社会が組み立てられてきた『南島』にとっては、特にそうだった。


 『アヤ姫様』は、王国全体の、貴重な歴史の一部であり、実在した人物である。


 しかし、その、亡霊というような存在が、うわさや都市伝説の域を超え、社会のど真ん中に、現実に現れると言うことは、もちろん政府にとっては、肯定不可能な事態だから。


 おまけに、アヤ姫様だけではなく、世界中の伝説的存在になっている、池の女神様や妖怪たちが、多数現れているなどと、公表できるわけがない。


 そこで、『テロリスト』による『攻撃と思われるが、いまだ確認作業中である』、と言わざるを得なかった。


 パブロ議員は、内戦の発生が、結果的には南島に有利に働くと、計算していた。


 北島は、当然、解体される。


 しかし、この事態は、やはり、とにかく、まずい状況である。


 マスコミは、常に自由であるべきだ、と、常日頃から主張していただけに、政府の公表とは関係なく、つぎつぎに報道される奇妙な内容には、すっかり手を焼いていた。


 中には、職員が撮影した映像というものも登場していたのだ。


 そこには、はっきりと、攻撃している正体不明の女神様たちが映っていたのである。


 ついに、タルレジャ放送協会による、『アヤ姫様のインタヴュー』が行われる、となった時は、彼は即座に放送の中止を申し入れた。


 首相は、だんまりを決め込んでいる。


 それは、だから、当然、無視された。


 元王女様(王国では、一番人気が高い。その点では、現在の3王女に勝る。)幽霊による、公式会見など、誰も聞いたことがない。


 なおさら、価値が高い。


 一方、北島側は、これも、静観したままである。



         **********



 「おかしな事態ですなあ。侍従長殿。」


 滅多に表には登場しない、まだ割合に若い副侍従長が、濃いコーヒーをすすりながら言った。


 現在、王女様がたの『婚約の儀』が進行しているが、侍従長たちには、ほぼ出番がない。


 しかし、終了までは、寝るわけにはゆかない。


 実際の出番があるのは、『教母様』(と、その一部の部下)、だけである。


 警護などは、『王女様自前の警備員』(つまりは、コピー兵士たちだが。)、によって行なわれている。


 「『第1王女』様はすでに、この世に、いらっしゃらないのに、粛々と儀式は行われているらしい。ぼくには、経験もないですし、聞いたこともない。アヤ姫様も、『婚約の儀』の際は、生きておられた。これは、死者との婚礼ですか? そうした例は、欧州にも日本にもあるようですが、むしろありそうな我が王国では、事例が見当たらないですな。これは、やはり、秘密の儀式の内ですか。私の知らない儀式は、山とあると思いますが。」


 「そうですな。」


 もう、年老いた侍従長は、けだるく答えた。


 「侍従長殿は、この事態がお判りなのですか? 聞いておきたいのです。今後の為にも。そうした、一種の秘密の約束事とか、あるのでしょうか。文献など、調べても、まったくないですし。おまけに、アヤ姫様の、テレビ出演とか。なんでしょう、それは。」


 『そりゃあ、こっちが、聞きたいよな。まったく。』


 侍従長も、そんなことは、聞いたことがない。


 しかし、相手がへレナ王女ならば、何があっても、そうおかしくはないが。


 まして、火星人はすでに、現れ済みで、こんどは、金星人が攻めて来そうだとか。


 さらに、太陽系の最果てから、多数の宇宙船が現れた。


 そうした情報は、聞いている。


 けれども、あす正式発足する、地球帝国政府も、まだ、公表は一切、おこなってはいない。


 呑気に、祭典などやっていられるのだろうか。


 もう、地球人類の理解を、遥かに超えているのだ。


 南島育ちで、欧州への留学経験もある副侍従長には、なおさら、納得しずらいことがらばかりであろう。


 しかし、彼を推薦してきたのは、他なぬ、ヘレナ王女だった。


 たしかに、極めて優秀であり、信頼できる人物ではある。


 『第3王女』、つまり、『地球帝国皇帝陛下』は、北島の改革に並々ならぬ熱意があった。


 『第1王女』も、それに、理解を示しておられたし、自ら改革を行ってきていた。


 外部育ちの、副侍従長を入れてきたのは、それなりの意図があってのことだろう。


 もう一人の、副侍従長は、王室育ちのエリートである。


 彼は、現在は、休憩時間である。


 「あいつは、なんにも、聞いても来ないがなあ。」


 侍従長は、こいつには、きちんと、答えなくてはならないと思った。



 そこに、『帝国の使者』が、来ているという知らせが入ったのである。


 使者と言っても、今は、もう、ここの、目の前に来ているわけだ。


 王宮の裏側の丘の上に、どかんと立ち上がった、みっつの巨大なビル。


 第1タワーは、皇帝陛下専用。


 第2タワーは、総督閣下と、地球帝国。


 第3タワーは、今のところ、公には、ほぼ空いたままである。


 予定としては、やがて決まるであろう『帝母』さまの拠点となるはずである。


 皇帝陛下は、姉である『第1王女様』に、入ってほしいと考えていたが、『第1王女様』は、拒否していた。


 王国の王女(王子)を、トウキョウの他の兄妹などに譲る考えはない、と、して。


 そのまま、あのような形で死去されるとは、まったくの、予想外であった。


 あすの祭典が終わったら、国王様は、第1王女様の死を公式発表し、さらに、後継ぎを指名することになるはずだが、未だに拘禁されたままである。


 皇帝陛下は、いったい、どうなさるおつもりだろうか。


 日本政府も、混乱しているらしいし、各国で似たような暴動が発生しているようだ。


 すべてが、あいまいなままで、侍従長にもわからないままで、みな、勝手に動いているようだ。


 『教母』さまとの会見も、なぜだか、ままならない。


 「いいですかな。今は、いったい、誰が王国を、また、この地球を、動かしてるのか、わからなくなっております。しかし、それが、誰であっても、すぐに対処できなければならない。そこだけは、変わらない。ちょっと、使者という方に、会ってきます。そのあと、話をしましょう。ちょっと、待っていてください。」


 「はあ。わかりました。」



   **********   **********



 「突入しますよ。」


 アニーさんの声が聞こえた。


 皆を乗せたゴンドラは、地中深くを、かなり高速で移動する。


 王国全体のシステムを管理できる、そのアニーさんが動かしているおかげで、彼らの突入は、誰にも察知することは難しい。


 異様な緊張感の中で、わずか5分たらずで、目的の島の地下に至った。


 プラットホームには、誰もいない。


 「まったく、日本の怪獣映画そのものだな。」


 シモンズがつぶやく。


 

   **********   **********



 「では、献上体の調理にかかる。『釜』に5人を挿入せよ。」


 「はい。」


 いよいよ、本番だ。


 『これは、神聖な儀式だ。抜かりなく、やらねば。』


 弟子は、そう、自分に言い聞かせた。


 もちもと、感情の調整を完璧に行われてきた献上体たちには、特に変わった動きはなく、たんたんと、(手術室に運ばれる患者以上に)手順に従ってゆく。


 この『釜』は、アニーさんの意のままにならない、めずらしい機構のひとつだ。


 独立した、コンピューターによって、管理されている。


 それは、これがリリカによる特別製だということが、まずは、大きい。


 しかも、調理の『こつ』は、最終的には、シェフの腕次第だ。


 その、細かい見極めは、大奉贄典に任されている。


 彼こそは、偉大な調理人である。


 

   ************    ************



 二組の婚約者たちは、豪華でありながら、落ち着いた、しかも、大きすぎない部屋に案内された。


 ここは、ヘレナの好みである赤色に染まっていたりもしない。


 それは、ここでは、招待されたものが主人公だからだ。


 そのようなことは、滅多にない。


 だから、尊いのでもある。


 二組のカップルは、向き合わせになって座った。


 つまり、第2王女と武が横並びになり、反対側に、第1王女らしきものと正晴が並んで座った。


 すでに、相寝の儀式は終了した。


 武と正晴には、よくわからないが、今までとは違った意識が入り込んでいた。


 それは、通常の人間が持つものとは、いささか、異なったものだ。


 これから、戴くことになる献上体に関する意識であり、それは、本来あるはずの拒否反応を、消し去るような種類のものである。


 

  ************   ************



 「準備は、整いました。」


 弟子が、うやうやしく述べた。


 「あい、わかった。では、火を入れる。」


 大奉贄典は、操作卓に、手を伸ばした。






















    **************  ふろく   ***************




 「幸子さん、なに見てるの?」


 

 「選挙ですよ。人間って、おもしろいことやるなあ。って。」



 「大事なことです。」



 「こんなに、手間暇かけるんだ。おいしい、お料理みたい。」



 「幸子さんは、お饅頭が一番なのでは?」



 「まあね。でも、人間を飲み込む時が、一番。」


 

 「あ、いいです。聞かなきゃよかった。」



 「おあ。すごい、接戦。」




   ****************   ****************



















   






   












 


 

 





 



 


 







 

 

 



 


 


 


 

 




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