わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第二百十一回
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『さあ。行きましょう、戦士たち。』
アニーさんが、いささか、あほなことを言った。
「ふん。いいかげん、正体を現したらどうなのかな。」
シモンズがつぶやくように言った。
『え、なんですか、よく、聞こえませんデシタガ?』
「いいよ、あとで。まずは、ばかげた儀式を停止させなければ。あんた、一緒に来る気になったの?」
ここまで、シモンズを案内してきた、もう一人のリリカが、いまだに残っていたからだ。
「いやあ、やはり、どうなるか気になって。それに、機械の仕組みとか、分かる人がいた方がよいのではないかな、と。」
「まあ、そのほうが、ありがたいですよ。」
シモンズにしては、ずいぶん素直な物言いだった。
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「あ、もしかして、首相様!」
彼女は叫んだ。
「ああ、きみ、どいて。はい、じゃまです。」
警備官が彼女を制止する。
これは、当然の役目である。
「あああ、首相様。話を聞いてください。大事なことを知っています。ジャラバ教授の弟子です。ヨハンナです。この国と、王国をいや、地球を救えます。」
「きみ、じゃま。ほら、出ていきなさい。」
「あなたは、この国の首相でしょう。国民を助けなさい。」
「こら、それ以上言ったら、拘束する。」
「まった、まった、ジャラバ教授なら知っている。あとで、話しましょう。」
杖出首相は、そう言って大使室の方に、大ぜいに囲まれて歩いていった。
「ほら、あなた、首相がそうおっしゃるのよ。追い出したら、あなた、くびよ、くび。」
ヨハンナは、別室に事実上、拘束された。
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首相官邸を占拠した紅バラ組は、杖出首相を拉致した。
彼女たちは、その首相が、それとは別に、王国の大使館に現れたということは知らない。
つまり、どちらかの首相が、偽物か、あるいは、両方とも偽物か、そのどちらかなのだが。
あんじたち、ミュータント軍団ならば、もしかしたら、誰かが、その嘘を見抜いたかもしれないが、紅バラ組には、そうした能力を持つものは、あいにく存在していなかった。
紅バラ組は、しかし、強力な洗脳薬を持っている。
それを使用したら、首相を操れるだろう。
ところが、この薬には、使用上、どうしようもない弱点がある。
それは、人格を粗暴に変えてしまうということだ。
さすがに、首相に使用するというのは、無理があった。
また、組長命令で、首相を拉致したら、ある場所に拘禁するように指示が出されていた。
紅バラ組の組長は、言うまでもなく、ヘレナである。
ただし、組員たちは、その正体を知らないし、本当の顔は見たこともない。
ヘレナは、死んだはずである。
ナンバー・ツーは、ルイーザということになっているが、これも、組員たちは一度しか見ていないし、それも、本当の顔は見ていない。
紅バラ組を、実際に指揮をしているのは、正体がよくわからない、謎のリーダーだった。
つまり、この指示を出したのも、その、リーダーだったわけだ。
彼女だけは、ヘレナとルイーザの正体を知っていた。
むしろ、もともと、『紅バラ組』を設立したのは、リーダーである。
彼女こそが、本来の組長だったのである。
当初は、小さな不良少女グループに過ぎなかった。
首都内部で、グループ同士の抗争を繰り広げていた。
声をかけてきたのは、ヘレナの方からだ。
大きな資金と、武器を供給するという。
全国、いや、やがては全世界を支配する組織になると言われた。
そうして、リーダーは、ヘレナの持つ武器の、ものすごい力の一端を見せられた。
その、武器は、近未来的な武器で、SF映画に登場するようなものだった。
組織の指揮は任せるが、最終的なヘレナの命令には、きちんと従うように約束をさせられた。
その代わりに、あの、魅惑的な薬と、武器を手に入れた。
その薬は、人の心を自由に操ることができる。
欠点はある。
よい人には、変えられない。
もちろん、それで良かったのだ。
ただ、組長の許可がない殺人だけは、禁止された。
他人を改造するマニュアルを渡され、みな、同じ内容で、洗脳するように指示された。
元々、紅バラ組は、女子だけの組織だ。
ついでに、男子の扱い方も、指示をされた。
そうして、アッと言うまに、首都を制圧し、全国組織に拡大していった。
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シモンズは、この組織についても、弘志からの情報も含めて、調べを進めていた。
その、組長と言うのが、ヘレナだということも、すでに掴んでいた。
しかし、なぜ、ヘレナがこうした組織を従えているのか、そこは、理解が出来なかった。
万が一、これが、表ざたになれば、王国の王女ではいられないだろうに。
しかし、それは、シモンズの勘違いである。
ヘレナは、独裁者なのだから。
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王国大使館は、厳戒態勢に入っていた。
杖出首相は、大使館幹部たちと話し合いをしたのち、約束通り、ヨハンナの拘禁されている部屋にやって来たのだった。
「お待たせしました。あまり、時間は取れないです。5分だけです。秘書が、同席します。ご理解ください。これは、非公式なことがらです。」
「もちろん、わかります。首相閣下、あすの帝国創立式典には、出席されないのですか?」
「出席する予定ですよ。だから、時間がないのです。」
「あすの式典では、暴動が起こります。出席しない方がよろしいかと、思いますが。」
「暴動? どんな。」
「各国の首脳が、とくに、あなたのような、反抗的な方が、暗殺されます。」
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もうひとりの杖出首相は、目隠しをされたうえで、よくわからない場所に連れて来られた。
「ここは、どこかな。」
監視役らしき少女に尋ねたが、返事はもらえなかった。
「おやおや。愛想が悪いね。」
悪い部屋ではない。
広くはないが、小奇麗な部屋だ。
趣味の良い応接セットが置かれている。
全体的に、赤色が強い。
テレビや電話などは、さすがに見当たらないが。
「さてと、どうするかな。」
長椅子にどかっと座り込んだ首相は、天上を見つめて考えた。
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