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わたしの永遠の故郷をさがして 第四部  第ニ十一章


 杖出首相には、『第一王女』と『第二王女』の区別はつかない。

 だから、事の次第から言って、ここにいるのは当然『第一王女』だと思っていて不思議ではなかった。

 けれども、出迎えたのが『第二王女』、つまり地球帝国の『総督閣下』である可能性を考慮しなかったのは、首相のミスだった。

 というのも、『第二王女』が日本に来ているという情報は、政府もつかんでいたのだから。


 しかし、ここまで来たのだから、どうこう言っても仕方がない。

「いらっしゃいませ、首相閣下。「姉は」今外出中なので、わたくしが代わりにお迎えに出てまいりました。」

 それで、杖出首相は、これが『総督閣下』であると知った訳なのだ。

 もし「感応者」ならば、総督の足元に無意識のうちにひざまずいてしまうところなのだが、杖出首相は、そういう意識は持っていない。

 これは、非常に簡単な「不感応者」の判別方法のひとつでもあった。

 もちろん、そうした知識が広がってしまえば、これだけでは意味が無くなるかもしれないけれども。


 とはいえ、ここで首相をどうこうするという考えは、いまのところ総督には無かった。

 この男の命運は、もう尽きていることは、彼女には十分に解っていたから。

 それよりも、双子の姉が、いったいこの男をどうしようとしているのかに大変興味があった。

 また、今夜は、まだ洋子の問題もあった。

 まあ、慌てる理由はなかったのだけれども。

「どうぞ、お部屋を用意いたしております。姉が帰りましたら、お会いくださいますか?」

「ええ、もちろんです。」


 さすがにルイーザは、「実は姉の体は、すぐこの上におりますのよ。」とは言わなかった。



 *****     *****


 杖出首相は、「まずかったなあ。今夜はろくでもない事ばかりだ」と思いながら、案内された美しい部屋に入った。

 ベッドもある。

 ここで生活が十分にできそうな部屋だ。


 しかし、一宗教法人の施設にしては、あまりに出来すぎなのにはびっくりもしていた。

「まるで、要塞みたいだ。ここは地下室らしい。なんだか、タルレジャ王国に行った時のホテルの構造と似ているなあ。」

 まあ、しかし、はっきり言って、これは帝国側に拘束されたと同じ状況である。

 その前の、ニセ秘書たちに連れて行かれた方が、まだよかったかなあ、とも思う。

 秘書が「あんな言葉」を知ってるはずもなかったので、ちょっと軽率に行動してしまったのかもしれなかった。

 彼は言ったのだ、『首相は確保。一か所寄り道する。』と。


 **********   **********


 マヤコの映し出す映像は、会衆をびっくりさせていた。

 映像には音も記録されている。

 内容はわからないけれど、音の感覚はさきほどマヤコがしゃべった言葉と同じに聞こえる。

「タクシーを呼んでいます。ほら、あそこから飛んできたのがタクシーです。」

 赤と黄色の派手な空飛ぶ自動車が、こちら側に近づいてきた。

 車体には、大きな踊り文字が書いているが、読めそうでも、実はまったく分からない文字だ。

 すーっとこちら側からステップが伸びて、車とつながった。

 手すりもあって、怖くはなさそうだった。

 映像が映ったまま、マヤコが車内に入った。

『‘**@@7**・&%##・・・・』

『$♭#▲$~~、αβ&φ・・・』

 なんだか、わからないやり取りがあり、いったん映像が切れる。

 それから、すぐに映像は復活し、マヤコが車内から地上を映しているらしかった。

 しかし、下は雲ばかりで、地上の様子は見えない。

 時々下側を車が通り抜ける。

「『カバヤク遊園地に行ってください。』、とわたしが言い、運転手さんが、『今日は休日、混んでますよ。』と言ったのです。空中は、車の用途や大きさ、行く先などで飛ぶ場所が区別されています。わたしは当時、お金もあまりなかったので、カバヤク遊園地に行くのも、この時が初めてでした。実は、首都の空中都市で、ちょと危ない警備の仕事にありついたばかりで、最初のお給料でカメラを買って、遊びに出かけていたんです。」

『ふーん。そうんなことがあったのねえ。その上司が、あの「女将さん」だったわけかな。』

 他人の体の中で、ヘレナはちょっと感心していた。


 **********   **********


 弘子は、事実上アニーの監視下にあった。

 ヘレナにコントロールされているので、逃走したりはしないだろうけれど、地球人としては知能が非常に高く、それなりの能力も与えられている。注意が必要なのには間違いがない。

「アニーさん?」

『はいはい、なんですか弘子さん。』

「どうして、ご主人様は、わたくしを完全には信用してくださらないのかしら?」

『ぶ! それは違います。もし、本当に信用していないのであれば、あなたを空にしたりしません。分身とまではゆかなくとも、『残像』をきちんと残していきます。それさえもしないのは、あなたを信じているからですよ。』


 実のところ、弘子の中には、小さな『種』だけは残っているのだが、これはヘレナが稼働指令をださなければ、『種のまま』で、眠った状態である。


「ふうん・・・。言い訳っぽいなあ。ねえ、アニーさん?」

『はいはい、なんですか。』

「もし、いま、わたくしが反乱をおこしたら、どうなるのかなあ?」

『ぶ! あのですね、それは、仮定したら駄目な事ですよ。』

「あら、ご主人様がお出かけの時は、自由な思考が許されておりますわ。」

『まあ、確かにガス抜きの・・・いやいや、そこがヘレナの偉大なところです。』

「はいはい、わかっています。でも、まあもしそうなったら、マニュアル的には、あなたはどうするの?」

『まあ、つまり、そう言う場合は弘子さんの行動の自由を奪います。そうしてすぐにヘレナに通報し、ヘレナは瞬時にあなたの精神を制圧します。で、一定の、まあ、所謂、改良を加えるでしょう。』

「ふうん。やっぱりそうなのかあ。」

『ご想像通りですか?』

「まあ、誰が考えても、そうなるわよね。もう、ご主人様に通報した?」

『いえいえ、その程度で通報していたら、あなたの場合、きりがありません。』

「ふうん。ねえ、アニーさん。」

『なんですか、弘子さん。』

「わたくしって、オリジナルの自分と、どのくらい違ってきているのかしら?」

『それは、推定が困難です。人間はほっといても変化しますから。』

「ふうん。自分探しの旅に出ようかなあ・・・服なんか、全部脱いじゃって、表に逃げ出すの。」

『ぶ!こらこら、アニーを困らせないでください。』

「でも、それじゃあ、アニーさんに先に阻まれるだろうし、うまく出られても『王女様御乱心!』で、拘束されて、意味はなさそうね。そうだなあ、じゃあ、さあ、この『空間工作装置』で、ここだけ時空を移動させて、ちゃっかり逃げるとか、どうかなあ・・・」

 弘子は教会の椅子にある「ポケット」から、小さなラジオくらいの機械を取り出した。

『ぶ! その機械、没収します。』

 機械は空中に浮かびあがって、どこかに消えてしまった。

「あららら・・・・消えちゃった。もったいないなあ。」

『いつの間に作ったんですか、こんなもの。』

「まあ、アニーさんに見えないようにいたずらすることは、可能という事よね。」

『むむむ、それは、事後通報しておきます。』

「あら、残念。つまんないなあ。ねえ、アニーさん、それ、しばらくは、内緒にしていてくださらないかなあ。わたくし、何か残しておきたいのね。自分というものがこの世に存在した証拠を。おのままだと、ヘレナ様の器として一生が終わるわ。あなたが、ずっと保管しておいてくださらないかなあ。弘子の思い出としてね。ヘレナ様には迷惑かけないから。ね。お願い。」

『はあ、こうですからねえ。まあ、考えておきますけど。』

「だって、アニーさんを退屈させちゃあ、かわいそうだもの。」

『そりゃあ、どうも。でも、道子さんは、もっと大人しいですよ。』

「まあ、あの子はまだ、素人だからね。」


 **********   **********


 シモンズは、この漫才の様なやり取りを聞いていた。

「ふうん。そうなんだ。それが、この機械かあ。」

 さっき、アニーが弘子から取り上げたのと、そっくりな機械が、彼の手の中にあった。


「まあ、王女様御乱心とは行かないけど、これはかなり興味深い。ちょっと、ばらさせてもらうよ。」


 **********   **********


「この、小さな電車は、とても人気があります。運転しているのは、地球のお猿さんのような感じですが、これはロボットです。でも、自分の意思があり、自分で判断して運転します。」

 むかし、日本の「とある」公園にあった、「お猿電車」のような感じの、かわいい電車が軌道の上を走っている姿だ。しかし、その敷地はかなり広い。

 トンネルもあれば、橋もある。

 あいかわらず、ずらっと並んだ順番待ちの中から、やっとマヤコが「電車」にまたがって座り込んだ。

 微妙な色の空が広がっている。

 すっきり晴れた青空ではない。まあ、地球ではちょっと見ない感じのおかしな色をしている。

「出発ーつ!」

 運転手が大きな声を上げて、笛を吹いた。

「わー!」

 と、子供たちが叫ぶ。

 ついでに、マヤコも叫んでいる。

 金星人の親子だけではない、火星人の親子と思われる人たちもいた。

 だれもが楽しそうだ。

 電車はゆっくりと動きはじめる。

 マヤコのカメラは写し続けていた。


 **********   **********












































 ************   ************


「うわー、これがお猿電車に乗った、やましんさんですかあ? かわいい!!」

 幸子さんが写真を見ながら言った。

 右手にはお饅頭。左手にはお酒ぱっく。

 いつもの態勢である。

「ふうん、こんな時代があったのかあ。」

「まあ、動物虐待とか言われると困りますが、人気はあったみたいですね。」

「ふうん、お猿さんより、やましんさんの方が、少しだけ可愛いいです。」

「はあ、それは、どうも。まあ、ありがとうございました。」

「結構、広いですねエ。」

「そうなんですよ。写真で今見ても、びっくりです。」

「ふうん。やましんさん、この運転手になりたかったんですか?」

「え? あ、いや、そうかも。実際。」


 ************   *************







 


































 

 







 

 

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