わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第二百九回
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「ヘレナがやってるらしい、生け贄をする、みたいな場所に、連れていってもらえるかな。」
弘子の箱は、しかし、まったく、反応しない。
「だめかな。じゃあ、ああ、お願いだから、ぼくが、生きていられるなら、火星のリリカさんのところに連れてってほしい、ただし、月の裏側の。それは、可能かな?」
小さな『箱』は、言葉での回答はしなかったが、明るく光り輝いた。
それから、シモンズは宇宙空間を飛んだ。
そんなことが可能かどうかも分からなかったし、月の裏側に、リリカのコピーが存在するというのも、確証はなかったのだが。
「この資料からすれば、リリカはかつて複製された。複製された方は、月の裏側に研究所を建てた。2億年以上たっても、月の裏側ならば、隕石とかで壊されていなければ、存在してもおかしくはないかもしれないな。とは、思ったが、おとぎ話のレベルだが。さて、ここは、どこだろう。」
真っ白な空間。
何もない空間。
しかし、何かが周囲をさまよっている感じがする。
シモンズご自慢の、小さなコンピューターは、ごくごく微量な放射線を検知している。
「身体検査かい。コピーされてるのかな。で、ぼくは、お払い箱とか。とんでひにいる・・・なんだったかな。『The fly that plays too long by the candle singes his wings at last.』かな。それとも、『虎穴に入らずんば虎子を得ず』。とか、言ったかな。まあ、でも、まずは、成功したらしい。」
上だか下だか、わからない状態が続いたが、しばらくすると、あたりは、マーブル・キャンデーみたいに変容し、ごく普通の部屋になった。
そこに、すぐに大きな女性が現れた。
大きな角。でっかい牙。
なにもかもが、大きい。
身長は、2メートル以上はある。
「これは、火星の鬼さんか、悪魔さんかが現れたか。」
「おほん。失礼な。押し入ってきておいて、ようく言いますね。不法侵入ですよ。細菌類などは、排除しました。ここは、平和な月ですよ。争いごとは、迷惑です。」
「それは、失礼。ぼくは、シモンズ・フォン・デラベラリ。ヘレナの、まあ、秘書みたいなものです。」
「はい、知っていますよ、聞いていますから。ここに、直に来ることは、あまりないだろうと思っていましたが、あなた、良いものを持っているようですね。」
「そうです。秘密の箱です。弘子さんが作ったね。ぜひ、協力してほしい。もっとも、あなたの寄って立つ立場は、まったくわからないですが。」
「ふん。なるほどですね。あの、デラベラリ先生の子孫か。2憶5千万年経って、存在が確認されるのは、いささか異様ですが、わからないこともない。あの人は、ずいぶん宇宙をさまよってから、地球に行った。だから、あなたは、せいぜい1万年以内の子孫だから。あの海賊は、いま、まだ金星にいる。なにを考えてるのかな。あなた、ご先祖様には、まだ、会ってないのね。」
「会いたいとも、思わないね。」
「そう。ドライな、ぼうやね。で、あたくしに、どうしてほしいと。」
「ぜひ、一緒に、あの恐怖の王国に行って欲しいんです。まだ間に合うかどうかわからないが、おかしな人身御供は、止めさせたいんだ。あなたの力が必要です。」
「ああ。それか。あたくしは、ほっておかれていますが、リリカ本体は、いまだに、ヘレナに操られている。あたくしが、ここを離れたら、それは、たぶん、すぐに探知される。非常に危険です。あなたもね。」
「それでもいいんだ。ぼくの見るところ、北島の、この島か、この島か、どちらかの地下に、おそろしい儀式の行われる会場があるはずだよ。それを、妨害したい。」
シモンズは、自分の小さな箱から、立体映像を立ち上げて言った。
「あなた、そんなこともできるのか。地球人にしては、先進的な。面白いな。まあ、あなたがどこまで、掴んでるのか知らないが、ヘレナの人喰いは、ある程度は、必須事項なんだなあ。それを、止めたら、いずれ、この三次元または、四次元の空間には、姿を現せなくなる。もっとも、いなくなる訳ではないから、ほとんど意味はない。人間に寄生できなくなるだけだ。つまり、むしろ、ややこしくなるだけですよ。」
「とりあえず、今、やろうとしているらしい行為は、止めたい。確かに、ぼくは、よくは、分からないんだ。弘子さんは、死んだらしい。なのに、秘密の式典は続いていることは確認してる。ぼくの、偵察機が複数、王宮に入り込んでるからね。でも、入り込めない場所がいくつもある。」
「もちろん、そうでしょう。ヘレナさんは、慎重だから。まあ、大体、お互いに、知ってることなんでしょう?そういう、探りあいは。」
「まあね。ぼくはね、彼らに、つまり、あの、可愛そうな新郎二人に、人間としての、タブーを犯させたくはないんだよ。あなたなら、わかるでしょう?」
「ふうん。そうね。でも、リリカ本体の地球侵攻は止められないわよ。それは無理だ。どうにもならない、圧倒的な力で動いているんだから。まあ、確かに、あなたの言う事は、理解はできる。そう、実際に、ここに閉じこもってから、随分と長い時間が経ったな。しかし、まあ、よく、ここまで来たことは、賞賛に値するしな。いいでしょう。一回だけ、妨害してやりましょう。あたくしは、アンドロイドやロボットではない。コピーとは言われても、感情がある人間だから。ヘレナ様は、どうしても、そこんところが理解しずらいような。それは、いささか、煩わしい。でも、その先は、あなたが、なんとかしなさい。あたくしも、ここで、消されてはたまらない。研究もやりかけだし。宇宙は、謎だらけなんだから。ここまで生きたら、もっと先が知りたいから。」
「いいよ。それで。場所と行きかたさえ分かれば、きっと、打つ手はあるさ。侵入の手引きをしてもらえたら、ありがたいよ。」
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ビュリアは、実のところ、シモンズと同じことを考えていた。
彼女は、ヘレナ自身だったことがある。
それも、かなり長くだ。
だから、ヘレナの考えは、ある意味、よくわかる。
ただ、ビュリアは、ヘレナと約束を交わしたことがらがある。
『この先、この世の終わりまで、ヘレナの邪魔は、一切しない事。』
いまの時代に、洋子として、弘子の直ぐそばにくっ付いているのは、洋子が弘子を監視しているのではない。
むしろ、逆だったと言えるだろう。
ヘレナは、ビュリア=洋子の存在が、ここにきてのことだが、いくらか、感情的な用語でいえば、うっとおしかったのだ。
客観的に言えば、邪魔になる可能性がある、というわけだ。
だから、手元に置くようにした。
それでも、ビュリアを消せない理由がある。
ヘレナはへレナで、パル君と交わした約束があるからだ。
パル君にとって、ビュリアは、恩人だから。
パル君は、当然、そのまま、あの、ウナにも、つながっている。
ビュリアは、実のところ、いささか、ヘレナには操れきれない特性を持っている。
しかし、ヘレナ自身であったものは、最終的には、ヘレナには逆らえない。
ある種の、縛りがあるようなのだ。
それに、その大部分は、役割が終われば『真の都』に送られてしまう。
ビュリアは、言ってみれば、大きな例外なのだが、そこにはもちろん理由があるらしい。
ビュリアは、この果てしない宇宙の歴史の、特殊なポイント、のような存在だ。
ビュリアが存在する世界が、沢山に枝分かれしたこの宇宙の歴史の中の、本筋としてつながってきている。
たくさん、誕生した宇宙の中でも、生命が誕生した宇宙は、きわめて、稀なものだ。
その中でも、ここでだけ、ビュリアは生き続けている。
一方、ヘレナは、どこにでも、存在する。
『ヘレナリア』、として、存在する場合もある。
生命が存在しない宇宙にさえ、ヘレナは、存在する。
それらは、各自、独立した分身なのだが、本人たちは、自分は分身だとは思わない。
本当のヘレナ自身が、枝分かれした宇宙の分身を回収しようとしたら、その分身は、すぐに回収される。
その宇宙は、消滅する。
ヘレナは、そうやってきた。
理由は、わからないが。
※ ※ ※
この保養所から、あの、忌まわしい儀式の行われる、北島のさらに一番、端っこの島には、秘密の地下通路がある。
ビュリアは、その存在のことを、アヤ姫様から聞いていたのである。
まだ、生きていた頃のアヤ姫様から。
アヤ姫様は、かなり、際立った人間だった。
独自の能力を、沢山秘めていた。
ヘレナにとっては、魅力的でありなが、危険でもあった。
アヤ姫様は、苦悩していたのだ。
自分のあり方に。
コンピューター『アニーさん』は、そうした事実を、たくさん把握してはいたが、その、多くを、ヘレナには報告していなかった。
それには、ビュリアの意志が絡んでいた。
アニーさんは、なぜか、未だに、ビュリアを、ヘレナの一部として認識している。
ビュリアの中には、なぜか、回収されていないヘレナの部分が残っていた。
アヤ姫様の悲劇は、それらが絡み合って、発生したのだ。
それから、もう、人間には、それなりの時間が経ったが。
それに、現在には、忘れられた、あの分身が、この地球には戻ってきている。
昔、火星の女王だった、あの、分身である。
それは、ヘレナによって回収され、消滅するべきだったが、ヘレナはそれを思い止まったのだった。
その分身は、女王時代の残虐行為を、深く、恥じていた。
だから、やっと帰還したこの太陽系の、この、地球人の体を借りても、王国で、いまだに行われている、悪しき風習は、やめさせたかった。
アニーさんは、その分身も、ヘレナの一部として、認識している。
そのせいかどうか、最近は、アニーさんの活動が鈍い。
しかし、ヘレナは、ほったらかしにしているらしい。
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************ ふろく ************
「え~~~~~、やましんさん、やっぱり、これ、分かって書いてますう?」
「いやあ、どうかなあ、幸子さん。でも、第4部のお話を、なんとか終結に向けて動かそうとは、してるんですよ。第4部で終わらせることも考えていましたが、そうも行かない感じなんですが。」
「ややこしくなるばかりでしょ。なんだか。」
あいかわらず、お饅頭をくわえながら、幸子さんは、そう、言うのです。
「やましんの書き方は、書き忘れたことを、追加してゆく、やりかた。かっこ良く言えば、シグゾーパズルの隙間を埋めてゆく感じなんですが、困ったことに、枠がない。」
「つまり、行き当たりばったりなんだ。」
「まあ、そうも、言えますか。」
「そうでしょう。やれやれ、そりゃ、どこ行っても、役に立たないか。嫌われるだけなんだなあ。」
「あそ。じゃあ、止めよかな。」
「あ、お饅頭、どぞ。それは、寂しいから、とにかく、最後まで、書いてください。社会のお邪魔はしてないみたいだし。幸子は、まだ、主役級にならないし。幸子が、主役級にならなければ、おはなしは、終わらないの、です。」
お饅頭が、たくさん、降ってきました。
それにしても、危ない病気さんは、早く、消えてほしいな。
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