わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第二百五回
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世界各地で、地方国家政府(これまで、国であった政府)を、各国の『紅バラ組』相当組織が襲撃していた。
また、同時に、ミュータント組織が軍事部門への攻撃を行い、さらに『紅バラ』との戦いを開始していた。
『紅バラ』組は、『地球帝国』の支援組織と見られてはいたが、実際は、あくまで『へレナ』を崇拝する一種のオカルト集団である。
組員は、強力な薬剤で精神と身体を改造されており、しかも、ヘレナが提供した未来兵器を持っているため、普通の人間では、歯が立たない。
製造元は、もちろん、『マツムラ・コーポレーション・タルレジャ』だったが。
一方、ミュータント側は、穏健派と強硬派が手を結んだことから、急速に事が進んだらしい。
彼らは、地球の保護、エイリアンの撃破を目的にしていた。
それでも、地球帝国は、翌日の創立記念式典を、強行しようとしていた。
火星の軍は、もちろん、帝国側についている。
そこに、『第9惑星』の膨大な宇宙攻撃艦船が現れ、金星にはその一部が残って、いまだに、金星軍とにらみ合っていたが、半分以上は地球に向かった。
彼らが重視していたのは、もちろん、『アブラシオ』である。
この状況になると、『宇宙警部』は、手を出せなくなるのは、実は分かっていた。
その情報を提供したのは、『宇宙怪物ブリューリ』と、かつて呼ばれた存在だった。
宇宙警部は、大規模な宇宙紛争には介入が禁止されている。
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赤い部屋の中は、いつもとは様子が違った。
とは言え、様子が違うなどと思える人物は、ダレルやリリカなどの火星生き残り組の幾人かと、地球人では、おそらくシモンズくらいだろう。
いつもならば、まず大きな部屋が、どかんと座っているものである。
しかし、今は、そうではなかった。
そこにあったのは、広々とした廊下であり、光のせいなのか、もともともそうなのか、そこは分からないが、赤いじゅうたんが、両側の、遥かな彼方まで敷かれている。
両側共に、その、端が見えないほど、長い廊下である。
シモンズは、そうしたものは、おそらくは、視覚のマジックなんだろうと考えていた。
あるいは、脳をごまかされているというべきだ。
ヘレナが見せる空間には、こうしたものが、非常に多いようだ。
相手を威圧する、一種の仕組みであって、おそらくは、実際は空間が閉じているのだろう。
つまり、どんどん行くと、いつかは、戻って来るのではないか。
地球の上を、一周するようなものだ。と。
もちろん、それ自体が、尋常なものではないが。
もっとも、今の正晴や武は、そうした余裕のある状況ではない。
「どうぞこちらに。」
弘子は、正晴の手を取って、右側に進み、道子は同様にして、左側に進んだ。
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「こんなときに、クーデターごっこしてどうするんだ。え?」
杖出首相は、紅バラ組のリーダー格らしい少女を怒鳴りつけた。
本当は、危ないから脱出するように側近から言われたが、首相はそれを振り切って、ここに現れた。
しかし、相手は、そんなことで動じるような存在ではない。
「あんた、首相さんじゃのう。」
「そうだよ。間違いなく。君たち、何をやってる。誰が、背後にいる?」
「さっすが、出てきたんは、立派じゃ。これから、この国は、わいらが指導する。」
「はあ?」
「今、言った、とおりじゃ。」
「ほう。あの、防衛隊本部を襲った連中は、仲間か?」
「どあほ。あいつらは、ミュータント連合じゃ。組長に逆らおうちゅう、許せん連中じゃ、これから、壊滅させる。防衛隊は、わしらが指揮するようになる。」
「壊滅? ぶっそうな。あのね。君たち、ここは、この国の中枢だよ。早く帰りなさい。」
「ばーか。きさま、拘束する。おりゃあ、こいつ、生け捕れ。」
「あい!」
取り巻きの少女たちが、首相を押さえつけにかかった。
あとから入ってきたSPが、阻止しようとする。
実は、最初に立ちはだかったSPたちは、彼女たちに、まったく歯が立たず、全滅していた。
「どあほう。わいらに逆らえるわけがないわ。」
彼女は、なんらかの武器を使ったのだと思われる。
一瞬、何かが、光った。
首相の側近や護衛たちは、あっさり、みな倒れてしまった。
「なんだ、どうなってる。」
首相は、一人になってしまった。
「組長から、あんたを保護するように、指示が出とる。傷つけてはならんとも。おとなしくせえ。おめぇには、シールを張った。ショックフィールドを回避するんじゃ。」
「保護だって?」
「そうじゃ。あんたは、狙われとる。間もなく、暗殺されるはずじゃったが、ミュータント連合が動いたんで、まあ、ちょと、時間が狂ったようじゃのう。あおら、きた。」
ばばん。
破裂するような、しかし、あまり大きくはない音がした。
どうやら、窓が、衝撃を受けたらしい。
外から、狙撃されたのだ。
しかし、マツムラ・コーポレーション特別製造の窓は、まったくひびも入らなかった。
銃弾は、跳ね返ったらしい。
「ふうん。こいつは、ようできとるようじゃの。まあ、さすがは、我が国の首相官邸じゃな。誉めてやろう。連行せよ。」
「あい。」
杖出首相は、少女たちに拉致された。
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あんじは、防衛隊襲撃の中核にいた。
彼女の力は、さらに、すさまじいものに成長していたのだ。
防衛隊の隊員たちは、みな、あんじの能力で、身体が自由に動かなくなっていた。
もちろん、あんじだけが、特殊な能力を発揮した訳ではない。
ここの攻撃には、100人程度が参加している。
サッポロのメンバーたちも、参加していた。
過激なミュータントグループも合同している。
みな、それぞれが、さまざまな能力を持っているわけだ。
もっとも、問題なのは、ここの武力を封じる事だ。
この場所の、すべての武力を使用不能にする力があるのは、ほかならぬ、『接続者』だった。
武器が使えない、身体が動かない。
これでは、防衛隊の精鋭もどうにもならない。
ミュータント連合のメンバーたちは、防衛隊本部を、短時間で制圧していった。
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『これで、よいのかな?』
彼は、相手にそう尋ねた。
『まあ、いんじゃないですか。今回、お互いに和解できたのは、大きな進歩ですよ。』
この、ふたりは、穏健派と、強硬派という、ふたつの組織に分裂した、『ミュータント連合』の両指導者である。
ほとんど、その姿を見せることはないと言われるが、実際は、そうでもない。
つまり、普段の姿は、普通なのだ。
誰も、正体を知らないだけのことである。
穏健派のリーダーは、本拠地をオキナワ地域に置いていた人物。
しかも、マツムラ家ゆかりの人間だった。
もうひとりは、よく知られた、世界的音楽家である。
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この事態は、もちろん、すぐに、アニーさんが把握していた。
アニーさんは、当然、『ヘレナ』に、その状況を報告したのである。
アニーさんには、関係者を、まとめて処分する力があるが、実行を見送っていた。
ヘレナの本体は、すでにアニーさんの意図は分かっていた。
そこで、回答しなかったのである。
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