わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第二百三回
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正晴と武は、二人で神殿に向かった。
それぞれに、一人ずつ、女官が付いてきている。
警備の兵士のような存在は、まったくいなかった。
もっとも、現在、外部から王宮のここに、入り込むことは、まず無理だったのだが。
新郎と新婦が出会うのは、『婚約の儀』が行われる、そのためにだけ存在する、『暁の宮殿』に続くエントランス・ホールに入ってからだ。
この宮殿が使われたのは、アヤ姫の婚約の儀、以来のことだという。
それ以外は、この特別に神聖な場所が使われる要件に該当しなかったという。
たとえば、『三王女』の両親は、王室から離れていた時代、トョウキョウで知り合って、結婚式を行った。
この、母は、不可思議な歴史を秘めた、マツムラ家の出身だった。
父は、当時のタルレジャ王国国王の末子で、将来王家を継ぐ可能性はまずなかったので、気楽にかの国で学者生活を送っていた。
大学の同級生には、杖出首相などがいた。
それが、度重なる不幸の末、国王にならざるを得なくなった。
それは、公表されている事実であって、特に奇怪なことではない。
それでも、王室研究家の中でも、正統派だが、オカルト志向があるとされる、ブルン教授は、非常に慎重にではあるが、『それは、陰謀が見え隠れしてるようにも見えるのだ。』と、述べていた。
ブルン氏は、かつて、火星ではブル博士と呼ばれた人物である。
ただし、それは2億年以上前の話しで、もちろん、誰も信じない。
マヤコがシブヤに出現して、あえて、事実を公表したにもかかわらず、実際のところは、あまり、注目もされなかった。
『不死化』なんて、絶対に嫌だと、教授は言っていたが、最終的にはヘレナの技に嵌められた格好になった。
だから、彼は、女将さんやマヤコ同様に、この世には、あるべきではない存在である。
いつか、すべてぶちまけて、宇宙に旅だとうとは、思ってきた。
マヤコが、先にやったと聞いた時は、くそ、と、思ったが、まったく、効果がなかったらしい。
おそらくは、ヘレナが、・・・当時は、ビュリアだったが、・・・が、地球人の意識に介入してるに違いない。
だから、次は、自分の番だし、どうやら、その時期が近くになってきたと、ブルン氏は、このところの状況を眺めながら、思うのだ。
彼は、こうした流れは、当然、すべて、ヘレナの意図に基ずくものだろうと考えていた。
ヘレナは、筋書きを作り、地球人を、そのように動かしている。
もっとも、ヘレナは、戦争は嫌だったことは、知っている。
人類がしばしば戦争を引き起こすのを、ヘレナが、苦々しくも思いながら、地球人類の自主性と発展のためだと、あえて黙認していたことも、まあ、分かっている。
話がこじれたのは、いや、その、ある時期が来たのは、地球人類が、核兵器を開発してからだろう。
火星と金星の文明を破壊したのは、核兵器だけではないが、その手助けをしたことは、確かだから。
いま、この、『婚約の儀』が進む中で、教授は特別な計らいで、タルレジャ教会の奥深くに入っていた。
計らいをしたのは、もちろん、謎の存在『教母様』である。
あっさり、女将さんと番頭さんに、その正体を明かしたビュリアは、『旧温泉地球』の、スイートルームに宿泊することになった。
そうして、宮殿のエントランスには、男子二人が、先に入った。
これは、そうした約束ごとだからである。
しばらく待つうちに、大変官能的な衣装の、ルイーザが入場した。
それで、地球帝国総督にして、ダルレジャ王国第2王女、ルイーザは、婚約者の武の横に並んだ。
『なぜ、自分は、ここにいるのだろうか?』
正晴は、当たり前に進行するらしき、この儀式が、いったい、なにを意味するのか、判断に困っていた。
ヘレナは、いや、慣れ親しんだ呼び方ならば、弘子は死んだ。
道子が、ルイーザが、そう言うのだから、間違いはないはずだろう。
しかし、それは、やって来た。
ルイーザと、瓜二つ、というより、そのもの、その姿。
言葉は、発しないように、と、きつく言われている。
でも、これは、だって、ヘレナそのものだ。
正晴は、この双子を、瞬時に見分けることが可能な、数少ない人間だ。
それは、つまり、弘子以外には、あり得なかった。
死んだんじゃないのか?
それから、『化け物』という、言葉が、不謹慎かもしれないが、彼の脳裏に、浮かび上がった。
実際、正晴と武の、精神統制は、今は、行われていなかった。
ここにきて、二人の精神は、まだ、自由なままだった。
『おまたせ。正晴さま。ようこそ。ここに。』
それは、正晴の意識に、強烈に突き刺さった。
『うそだろ。アンドロイド? 偽物? コピー人間?』
正晴の意識は、シモンズや、弘志などからの情報で、ぐるぐると渦巻いていた。
『まあ、うれしいわ。ありがとう。正晴さま。化け物だと思ってくださって。でも、あたくしは、弘子よ。正真正銘、弘子なの。あなたの、弘子なのよ。さあ、参りましょう。』
もはや、正晴には、もちろん、武にも、止めることはできない。
そのような力がある者は、おそらくは、いないだろう。
百年以上、開いたことがない、宮殿の正面が開いた。
薄赤い、いささか、不気味な光が漏れてきた。
その部屋、宮殿、
それは、かつて、見たことがある者ならば、気が付いただろう。
ヘレナと、彼女に招かれた者だけが、入る事が出来る、女王の『巣』であり、この世の中には、無い場所である。
四人は、吸い込まれたように、中に入り、分厚い扉は、閉められた。
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