わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第二百一回
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タルレジャ王国のこの国の大使館には、かなりの歴史がある。
それでも、正式な大使館が出来たのは、歴史の流れから言えば、それほど、大昔でもない。
ここは、じつは、なかなか、面白い問題だった。
どうやら、それ以前は、松村家が、事実上の『大使館』を、やっていたらしいのだ。
そこで、なんとか、『マツムラ家』の、お偉方に会いたいのだが、なぜか、上手くゆかない。
なにしろ、王女様お二人は、この国の高校生である。
『第1王女』さまに、会える機会なら、王国よりも、はるかに高そうな気がする。
まあ、王女様は、実際、難しいとは思うが、ほかのどなたかになら、会えそうなものだ。
会社にも行ってみるのだが、そう簡単には出て来ない。
なんとなく、敬遠されてる気がする。
マツムラは、沢山、兄弟姉妹がいるのだから、だれかに、会えそうなものだが、そこは、なかなか、ガードが堅いのだ。
本宅にも、行ったこともあるが、アポなしでは、庭に入る事も出来なかった。
どうやって、アポを取るかさえ、わからない。
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かつては、両国ともが、事実上の鎖国状態だった時代がある。
しかし、公だったかどうかは議論があるものの、常に一定の交易を行っていたし、関係が険悪になったこともないこともなかったが、王国側が巧みにかわしてしまったこともあり、戦争状態になったことはない。
むしろ、歴史上には、残っていない関係が、相当古くからあったと思われる。
先般、シブヤの集会で、マヤコに質問をした若い学者こそは、その起源を探っていた、この、当事者だった。
本来、古代言語の研究が専門だが、最近は、考古学の領域に傾いている。
だから、彼女は、王国側に残されている(はずの)、さまざまな資料を漁ってきていた。
もちろん、しばしば、この国にもやって来ては、遺跡を歩き回っていた。
今も、そうなのだ。
彼女は、日本側の縄文土器に、おおいに興味があった。
そこには、きっと、古い時代のタルレジャ王国との関係を示す何かが、残されているに違いないと踏んではいたが、なかなか、その実物が見つからないでいる。
縄文時代でも、いや、だから、言葉の壁は、より大きかったはずだ。
大陸側との交渉も、至難の業だったろう。
まして、はるか絶海のはての、タルレジャ王国と、交易するのは、無理な気さえする。
ところが、王国側からは、縄文土器が、わずかだが、出土していた。
似ていると言うよりは、そのものなのだ。
ところが、学界では、無視されてきた。
出自が怪しい、というのだ。
新しすぎる。
そう、そこは、大きな謎だった。
まるで、作られて、間もないという、品である。
贋作だと言われていた。
けれど、よく調べられた形跡もない。
彼女は、王国のはずれにある、小さな博物館で、実物を手に取って見せてもらった。
『こりゃあ、本物じゃないの。』
彼女の勘は、そう言っている。
実際、王国側の遺跡からは、最近、それは別としても、さらに注目すべきような資料が、掘り出されていた。(そうらしい。)
いや、いるはずである。
以前は、王室の許可が出ずに、発掘も、入る事もできなかった、『南島の』、王室所有の古代遺跡調査が、最近になって、少しづつだが、進むようになった。
日本側にも、国の許可が出ないで、発掘できない古墳は多くある。
なぜ、最近になって、王室が発掘許可を出すようになったのか。
もちろん、その背景には、第1王女様の意向が働いていたことは間違いがない。
しかし、問題もある。
発掘したはずの、『画期的な』資料の多くが、まだ公開されないのだ。
おまけに、彼女のような、まだ地位も定まらない若手は、門の外である。
わりと、遠慮なく、どこにでも現れるので、煙たがられてもいる。
そもそも、学会の重鎮たちには、なかなか、会う事も難しい。
日本側にも、公開してほしい資料がある。
だから、自国の大使館に押しかけては、こうして、協力を依頼する。
あまり、相手にはしてもらえないが、最近は担当官と顔なじみになったせいで、話がしやすくはなってきている。
公務員だって、人間である。
喧嘩ばかりしていたら、むしろ、損だ。
べつに、賄賂をしようとか、言うのではない。
本来、仲良くなることは、悪い事ではない。
それは、大物学者の推薦とか、そうしたものがあればよいが、彼女は、やや異端派なせいか、正統派の教授陣からは、あまり良い顔をされない。
師と仰ぐ人物は、反体制派の象徴みたいにも言われる。
いずれ、大使館は、もし、味方になってもらえたら、ありがたい存在だ。
というわけで、今日も、座り込んで、おねだりをしている。
そこに、突如現れたのが、なんと、日本の首相閣下だったわけである。
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彼女には、一つだけ、切り札があった。
彼女の師と仰ぐ人物は、なんと、我が王国、国王陛下の友人だったのだという。
タルレジャ王国の国王は、即位したら、俗世の経歴は、すべてが消去される。
もっとも、それは、観念上のもので、実際に消えるわけでもない。
そうして、日本の現在の杖出首相は、かつて日本で学者をしていた時代の、飲み仲間だったのだと聞く。
これこそが、彼女の、たった一つの、持ち駒だった。
お師匠様から頂いた、日本の首相あての電子書簡である。
開封できるのは、宛先人だけだ。
いつか、機会が来たら、渡そうと思っていた。
それが、来た。
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