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わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第二章 

 弘子は、姉の部屋に入った。

 一般的な個人住宅をはるかに超越するくらいの玄関がある。

 そこから上がると自動ドアが開く。

 そうして、対話室に入ることになる。

 この部屋は、真ん中に特殊な透明スクリーンが二枚降りていて、洋子の不思議な能力を遮断している。

 しかし、完璧ではない。これでも、影響を受けてしまうケースもあり得る。

 なので、洋子自身は、はるか向こう側の畳の上に座っているか、さらにその向こうのソファにいるかどちらかが多い。相手によっては、姿を見せない事さえある。

 また、顔は絶対に見せない。

 広さから言えば、むかしの将軍様に謁見する部屋のような感じだろう。

 違うのは、来客を見下しているからではなくて、あくまで安全のためだということなのだけれど。


 しかし、相手が弘子と道子の場合だけは例外なのだ。

 スクリーンを上げてしまって、面と向かって話をすることが可能な、稀有な相手なのだ。

 握手したり、抱擁をしても、まったく問題はない。

 けれど、洋子はスクリーンも上げず、はるか向こうのソファに反対を向いて座っている状態だった。

 よほど、お気に召さない事態だったわけだ。

「お姉さま、ただいま帰りました。ご心配をお掛けいたしまして、申し訳ございません。」

「あなた、申し訳ないと思ってる?本当に?」

 洋子がこんな切り出し方をしたことは、かつてないことだ。

「まあ、わたくしは、あなた様がなさることに、反抗することは出来ません。でも、意見を申し上げることは出来ます。しかし、あななたは今回、まったく、わたくしの意見を尋ねませんでしたね?なぜ?」

 最初から思っていた以上に、厳しい言葉が来た。

「申し訳ございません。ご心配をお掛けしたくなかったのです。」

「それだけ?」

「はい。」

「じゃあ、もう、お帰りなさい。わたくしは、必要ないでしょう?」

「あの、お姉さま、違います。そうではないのです。あの・・・決断が壊れてしまうことが、恐ろしかったのです。」

「わたくしが、このような、地球の人類への侵略行為が認められない事は、わかっていたわけね。」

「はい。お姉さま。」

「しかも、道子と友子を、自分の身代わりに立てて、支配させるなんて、卑怯ですよ。」

「はい、お姉さま。」

「でも、撤回はしないのね?」

「はい。」

「なぜ、そんなに、ご自分を追い込むのですか?あなたは、もう火星や金星の二の舞はしたくないとおっしゃっていた。でも、また同じ方向に行こうとしているのではないのですか?」

「はい、お姉さま。すべては、かねてから決めていたことなのです。経典の「外伝」にも、明示されていたのですから。」

「だれも、そんな解釈はしていませんでした。あなたも、そうした解釈は一貫して否定してきていたでしょう? 先日大使館でも、そうした追及があったとか。」

「まあ、お姉さまに伝わったのですか? どこから?」

「教母様からです。」

「ああ、そうですか。大使様の側近が・・・、教母様のスパイが、伝えたのですね。」

「まあ、そうらしいですね。気づいていたのでしょう?」

「薄々は・・・。しかし、お姉さまには申し開きも出来ませんが、これはわたくしの意思と言うよりは、妹の、つまりヘネシーの意思がそう決めたのです。」

「ダレルさんに誘導されたからでしょう?」

「ああ、それもお見通しですのね。」

「当り前です。ぜひ、お止めください。このような事は。」

「できません。申し訳ございません。道子にも言いましたが、これは、一回始めたら引き返せない道なのです。」

「未来が、そのように求めているのですか?」

「それは!・・・確かに、ここが大きな分岐点だったのです。右側は、地球人類滅亡への近道です。左に行っても、結局は同じですが、まだ選択の幅が大きく広がるのです。場合によっては、画期的な未来が開かれる可能性も出てきます。つまり、宇宙の融合です。わたくしは、左に行くべきだと思いました。」

「それは、宗教的な意味で?それとも、科学的な意味で? あなたご自身のために?」

「偉大なこの国の作家が、かつて考えた通りです。科学も宗教も同じようになるのです。」

「その解釈は危険です。作家の意図を歪曲しています。賛成できません。第一、人類はまだそういう段階ではない。早すぎます。撤回すべきです。」

「もう、始まってしまいました。申し訳ございません。お姉さまに先にご相談していたら、踏み切れなかったかもしれないのです。」

「あなたは、神様ですか?」

「いえ、違います。お姉さま、だから選択するのです。どうか、わたくしを見放さないでください。まだ、人類を滅ぼしたくはないのです。」

「それは、だから神とすべての人類が、みなで決めるべき事です。確かにあなたは、小さな国の次期女王様です。第一の巫女として、神とつながる方です。しかし、決めるのは、あなた一人では決してないのです。それは間違いです。わたくしは、気持ちの整理がつきません。あなたを見放したりはいたしません。けっして。大切な妹なのですから。でも、少し時間をください。こちらから、お呼びいたします。それまでは、来ないでください。」

「わかりました。お姉さま、失礼いたします。」

 弘子は、頭を下げ、それから洋子の部屋を出て行った。



「どうでしたか?」

 アニーが聞いてきた。

「悲しいわ。わたくしだって、こんな事にはしたくないもの。」

「でも、変えないのでしょう?」

「変えられないわ。お姉さまだって、分かっていらっしゃるのだもの。」

「じゃあ、どうしようもない。」

 空中には、大昔に、ビュリアがアニーに買ってやった「くまさん」が浮かんでいた。

「くまさん」は、弘子の頭を、軽くいい子いい子した。

「あなた、まだ持ってたの?」

「はい、だって離れられません、ずっといっしょです。」



  ************   ************


 「地球帝国」の、創立セレモニーの準備は着々と進められていた。

 しかし、その前に国連の総会が、きっちり議決する必要性がある。

「ものごとの理論的なつながりは、きちんとできているべきだわ。」

 それは、第一王女の口癖のようなものだった。

「後から考えて、誰もが、なるほど、と思うようになっていなければ、結局は上手くゆかなくなるわ。勝手に証拠を消したり、作ったりしていては、追い付かなくなるもの。」


 一方で、第一王女と第二王女の「婚約の儀」・・・事実上の結婚式・・・も創立セレモニーのすぐ後に行われる予定になっていた。

「本当は、もっと積極的になってほしいけど、正晴さまは大人しいしな。道子の方は、どうなってるのかなあ。」


  ************   ************


 地球皇帝が真っ先に出した指示は『核兵器の廃絶』だった。

 総督が全地球の指導者の脳に、直接その指示を徹底的にたたき込んだ。


 ところが、これに、最初に真っ向から反対したのは、なんと「タルレジャ王国」の国王だった。

 「生きているも存在しない国王」と言われてきた、「謎の国王」である。

 歴史上、記録に残る限り初めての「国王声明」が発表された。


 〈全世界のみなさん。このたびの皇帝陛下がお下しになった命令は、現状では、絶対に受け入れてはなりません。なぜならば、私の知るところによれば、タルレジャ王国のタルレジャ教団は、先の火星との戦闘で示した武器以外にも、さらに恐るべき爆弾を、間違いなく所持しているからであります。それは、手のひらに乗るくらいの大きさであるにもかかわらず、ほぼ瞬間的に、全地球を消滅させてしまう力があります。しかも、それは核兵器ではありません。おそらく、休止状態のブラックホールを、未知の力で封じたようなものだと思われます。したがって、この命令の対象とはなりません。これはすなわちこの地球が、タルレジャ教団によって一極支配される可能性が高いことを意味します。それは許すべき事ではありません。私は、国王ではありますが、これらの兵器を処分する指示を行う事ができないのです。したがって、世界の皆さまのご協力が不可欠なのです。これらの恐ろしい兵器が処理され、消滅したことが確認されるまでは、このたびの命令に従ってはなりません。〉



 これは、第一王女にとっては、まったくの青天の霹靂だった。

 まさか、父がこのような反逆に出るとは、思ってもいなかったのだ。

 確かに父は、不感応者である。

 今は、国王大権が発動されている(第一王女が発動させたのだが・・・)。

 実質的には、王国は第一王女の意のままの状態にあったのだ。

 しかし、絶対にありえないはずの、「国王自らの声明」が出されてしまうと、その代理であるだけの第一王女は、王国内でも、非常に厄介な立場に立たされる。

「やられちゃったわねえ。どうしようか。ねえアニーさん。」

「しかしそれで、地球内の形勢が変わるものではないでしょう?王国内でも、あなたが強行したら、誰も逆らえないでしょうに。」

「激震よ。大激震。だって皇帝陛下の足元から、しかも肉親から反逆が出た。地球帝国創立セレモニー以前にね。それ以上に、わたくしは、お姉さまとも、今度はお父様とも決裂状態に陥ってしまう。」

「そりゃあ、だから、いやなら、あなたが介入するしかないです。「ああた」ご自身が言ったのでしょう、何があっても引き返せないって。いい実例ですよね。それか、もう。信じて、すべてルイーザ様に任せるしかない。信用できないから悩むのです。」

「いじわるね。最近のアニーさんは。誰かがちょっかい出してるの?」

「まさか!」

「ふうん。そうねえ・・・誰が、あの「玉」の事を、お父様にお教えしたのか?わたくし以外は、教母様しかご存じないはず。もう、答えは決まったようなものよね。どうしようかしら・・・」

 第一王女ヘレナは、少し考えていた。


  ************   ************















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