わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第百九十九回
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「あんた、なんで、いまごろ、出てくるの? どうして、こんなに長く、消えていたの?」
女将さんは、かなりのところ、もう、泣き声で話した。
「それは、ママ。ごめんなさい。でも、2億年以上生きてる人間なんて、ほかにいないわ。どこかで、まだ、生きてるのは、わかってたでしょう?」
「もう、親の心、なんとかだねえ。まったく。」
番頭さんが割って入った。
「ぜんたい、どこに、いらしたんです? 地球?火星?それとも、その他?」
「ああ、その区分で言えば、どれも正解です。番頭さん。」
「いまは、このひと、支配人さんなんだ。」
「あら、失礼。番頭さんと支配人さんって、どっちが偉いの?」
「そら、あなた、基本的には、同じような意味だけど、『番頭さん』というのは、古い言葉ですよ。日本では2005年に商法が改正されて、法律上はなくなったけど。」
「ふうん。まあ、それは、そうなんだけども。まあ、現場のボスよね。長年使った用語が残っていることはあるし。それに、ママは、シブヤのほうが忙しい。」
「あんた、よく知ってるじゃない。なんで?」
「そりゃまあ、つまり、すぐそばにいたからですわよ。ほほほ。」
「ふうんんんん。怪しい・・・・・・。明らかに、怪しい。」
「ぼくたちが、知ってる人になってたんですか?」
「まあ、そうですね。しかも、近づくことはできない。困った人よ。」
「うそ。あんた、松村家にいた? いえね、噂はあったんですよ。つまり、不死化された火星人の中で、なんか、あやしいというような。多くは、北島にいたからね、表立った話にはならないし。まさか、常識的には、あり得ないし。女王様ならともかくも、人間ならば、それはないだろう、ってね。だって、赤ちゃんから、やり直すと言うことは、まず、無い話だからねぇ。」
「そうですよ。最近、女将さんから、ちょっと聞いたけど。同じくらいのサイズでの変身! はあっても、人生をあかちゃんからやり直すのは、できないはずです。ああ、そういう、SF小説はありましたがね。でも、だから、まあ、あり得ないと言う結論だった。」
「あんた、洋子さまかい?」
「まあ、当たりですわん。」
「あちゃあ・・・・。でも、なんだか、雰囲気違うような。といっても、考えてみれば、洋子さんにお目にかかったことはないなあ。でも、洋子さんに近寄った人は、特に男は、みな、狂ってしまう。と。」
番頭さんが、急に思い出したように語るのだ。
「でも、狂ってるようでもないですね。ぼくは。う~~~ん。それに、なんだか、洋子さんには独特のイメージがある。ビュリアさんとは、違う気がする。なんでだろうな。」
「あんた、あたしが言ったろう、そんなの、信じてるのかって。やっぱり、デマなんだよ。あれは。」
「そうですね。まあ、すべてがデマとは言えないのですけれども。まず、一義的には、それは、女王様が、人間の基本的な心理に、そういうイメージを与えているからです。洋子は、謎の女。魔女的な存在。危ない存在。いつも和服を着ていて、お茶をたてている、そういう女。近くに行った人は、精神に異常をきたす、魔性の女。そう言う風に信じている人は、みな、そうなるのです。弘子さんや道子さんは、そうはならない。でも、一定のポーズはしていた。二人で来るときはね。弘子さん一人の場合は、そういう必要はないわけですけれど。でも、誰かが見ている可能性は、十分あったし。用心はしていた。」
「びったし。でも、それは、やはり、どうも、ビュリアさんじゃあないでしょう? 見た目も雰囲気も、そうじゃない。それにいったい、誰が見てるっていうんですかい? 絶対に、誰にも見えないと、言われるのに。」
これは、番頭さんである。
「まあね。まあ、もちろん、世界的には、知らない人の方が、多いことでしょうけれども、そういうイメージが当然になっているのですわ。それだって、女王様が拡げた。そうして、人の心理に植え込まれた。作られた、真実です。逆に言えば、うそ。でも、監視してる存在は、あり得たのです。いまもね。」
「嫌な話だねぇ。ふうん。あのね・・・あなたの話し方、なんだか、弘子さんに、すごく似てるような気がするなあ。」
「さすが、ママ。鋭いわ。」
「あなたがた、そもそも、どういう関係になってるの? なんだか、ふと、いま、急に思ったんだけど、ご兄弟姉妹全員が、もとはひとりみたいなことだったり。まさかね。・・・まあ、もちろん、みな、そういう側面はあるわけだけど。なんだか、おかしな一族だものな。」
「そうだな。ママ。良い線、言ってますわ。まあ、でもね、2憶5千万年は、長いとえば長い。でしょう?」
「そりゃあもう、気が遠くなるくらい長い。でも、終わって見れば、大したことない。」
「まあ、それが、生物の心理だからね。で、その先の謎解きは、もう少し後でやりましょう。まずは、もう、直前になっている、さまざまな儀式を行うことが先決。」
「あなたは、どう、関係していたの? 確かに、マツムラ・ファミリーでは、あなたがトップなんでしょうけれど、一連の王室の話題には、あなたは、ほとんど、噛んでこなかったように思うんだけどさ。名前が出て来ないもん。覚えがないんだよ。」
「まあね。ママ、洋子は、かすがい。すべての事象をつなぎとめる、大切な蝶番。ビュリアは、その、すべて。そういうところよ。そこで、これからの儀式には、ママと番頭さんにお手伝いが欲しい訳よ。」
「ふうん・・・まあ、ビュリアちゃんに頼まれたことは、やってあげたいよ。でも、『第1王女様』や『第2王女様』や、皇帝陛下になった、『第3王女様』のことは、ダイじょブなのかい? あなた、危ない立場にならないの?いやね、ママは、あなたのためなら死んでもいい。でも、番頭さんはそうは行かないし。」
「ぼくは女将さんと、いっしょに行きますよ。嵐の中でも、宇宙の果てまででも。」
「あらま。」
「ママは、番頭さんも、滅多なことでは、死ねないわ。それにね、ほら、ほかにも、助っ人が来ることになってるんだ。けっこう、たくさん。」
「え? どなたたち?」
「まず、リリカさん。」
「あら。」
「それと、もう一人の、月の裏のリリカさん。」
「あらまああ。」
「さらに、アヤ姫様と、その、仲間の池の女神様たち。」
「なんだか、話が、怪談めいてきたじゃない。それって、幽霊さんかい?」
「ほほほほほほほほ。まあね。ほかにも、ゲストさんが、どんどん、出てくるわ。お楽しみにね。」
「なんだか、総出演みたいな感じになってくるのかしらあ?」
「さすが、ママ。時は、迫ってきた。宇宙は、間もなく相転移する。すべては、なくなる。まあ、間もなくと言っても、あす、あさってではないけれども。」
「なによ、それ?」
「ビュリアさん、恐ろしい事を言ってませんか? 宇宙空間の相転移は予想できない。光の速度でやってくる。その時まで、わからない。実際に起こったら、それも、だれにもわからない。手の打ちようがない。」
「はいー。そう。その、とおり。でもね、せっかく生まれた、この宇宙の生き物たちを、消滅させたくはないんだなあ。」
「はあ・・・・・・・あのお・・・」
番頭さんの話を、その先まで聞かずに、ビュリアが、立ち上がった。
「ヘレナリアを、ここに、呼び出します。」
「あんた、なんだい、そりゃあ?」
ビュリアは、中空に両腕を高く広げた。
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「なんだって? そりゃあ、あり得ないよ。」
シモンズが、驚嘆しながら言った。
「まあ、そうでしょう。人類は、予測も出来ないし、自分たちを観察もできない。しかし、女王さまは、別だ。彼女は、その予測が可能で、観察もできる。できるというより、そうなる。この宇宙では存在していないから。光速にも拘束されない。なんて・・・。また、以前にも、見たことがある。」
「うそだろう。いくらなんでも、あり得ない。」
「あのお・・・・姉さまは、いったい・・・なにもの?」
弘志は、いつも言わなければならないはずのセリフを、いま、初めて言ったような気がした。
*************** ふろく ***************
「なんだか、やましんさん、朦朧としてません?」
幸子さんが、逆さまになって、上側から、頭を伸ばして、長い髪を垂らしながら、やましんの顔を、覗いている。
これは、相当、恐ろしいはずなんだけれど、妙に、コミカルです。
「はあ・・・。なんだか、終わりが近い。かな。」
「何の終わり。お話の終わり? それはないわね。幸子が、まだ、大活躍してないもの。」
「そうですね。このお話は、終わらない。たぶん、永遠に。」
「またまたあ。そういう、分からない事を言うんだからあ。」
「いやあ、次回は、第200回ですからねぇ。なんだか、何時まで経っても、話が煮詰まらない。」
「それは、やましんさんの、知識が貧弱で、意思が弱いからです。」
「ぬ。まあ、大正解ですよ。言い訳の余地はなし。」
「まあ、っほらほら、お饅頭食べて、頭ひやしなさい。ね。幸子は、あいす食べよ~~~。冷凍庫にあったなあ。」
「む、見たな?」
「ほほほほほ。夏は、あいすです。」
「ぼくの頭も、ICEです。」
「なに、それ?」
「かちかち。」
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