わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第百九十八回
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アニーさんは言ったのである。
『ここは、閉鎖しました。あなたの身体は、ここから出ることができない。もっとも、ヘレナさん本体は、制限できませんが。ただし、ついでに場所も移転させました。いかな、あなたでも、すぐには、元の世界への出口が見つからないでしょう。昔、宇宙の狭間をさまよったようになります。でも、また、幸子さんとかの救いが入るとは思えないですよお。やってみますか?』
弘子が答えた。
「ふうん・・・・うまくやったつもりでしょうけど。そうは、行かないものなのよね。あれは、ある意味遠い昔で、つい最近のお話し。あたくしが、対策しないはずがない。そう思わないのかしら、アニーさん。」
『もちろん、ヘレナさん、いや、弘子さん。あなたが、次元の狭間にハマった時の対策を考えていたことは知ってますよ。アニーさんは、何でも知ってます。だから、アニーさんは、さらに強烈な対策を作った。と、思いませんか? 嘘だと思ったら、やってみますか? 運が良ければ、2億年くらいで、脱出できるかも。』
「ふんふん。ほ~~~~~。」
弘子とアニーさんは、にらみ合いと言う状況である。
「おもしろいね。ちょっと、ここで、ぼくが割り込んでも、いいかな?」
シモンズが口を挟んだ。
というより、もともとは、彼がしゃべっていたのを、アニーさんに持ってかれたわけだが。
「あらま。我が僕よ。いいわよ。」
「僕じゃないよ。従業員さ。」
「似たような者よ。」
「ほう、君ともあろうものが、そんなことを言ったら、組合から叩かれるよ。」
「それは、失礼しました。でも、あなたは、組合員じゃない。まあ、どうぞ。おしゃやべり下さいな。」
「では・・・・そもそも、この状況は、なんで、こうなったのかだよね。そこから、いっしょに考えてみよう。」
「なるほど。どうぞどうぞ。」
「うぇへん。そもそも、ヘレナは、なにものなのか。ぼくたちは、ヘレナが最初にくれた情報を、あまりに軽視してしまっているのではないか。」
「ほ~~~~。あたくしが、なにをお教えしましたの?」
「うん。こうだ、多少、表現は違うかもしれない。間違ってたら、それなら、訂正してほしい。『この宇宙空間では、本来生きてさえいないのに、あたかも、生きてるように振舞うなにものか。』だよね。」
「まあ、おおかた、合ってますわ。」
「つまり、生きものじゃない、生命じゃないってことだ。でも、生命がある様に振舞うことは可能だ。しかも、どうやら、この空間で、宇宙のあらゆる力と、現在考えらえている宇宙の力、つまり、重力、電磁力、強い力、弱い力、のすべてを、コントロールするすることが可能ならしい。だから、たとえば、ブラックホールの中に入る事も可能だし、事象の限界に住むことも可能だし、そこらあたりに、『地獄』やら、『真の都』やら、を造営することもできるらしい。これは、しかし、そうした可能性を説いている学者さんも現にいるから、まあ、突飛すぎるということもない。ここ、推察ね。でも、そんなの、果たして、実際にいるのだろうか?」
「ほう・・・ここに、いるじゃないの。まあ、はいはい。どうぞ。」
「じゃあ、そもそも、生物となにか? はい、弘志くん。」
「は? いやあ~~~、それは、どうかなあ、難しく考えれば考えるほど、はまってしまって出て来られない人類永遠の課題であるう。一般的には、代謝を行い、自己を再生産する機能、つまり、遺伝と複製が行われる存在。その最小単位は細胞にある。しかし、ウイルスさんなどは、増殖はするけれど、代謝は行わない。自分以外の宿主に入り込むと、相手を狂わせて増殖する。でも、宗教的には、そういうことではなく、肉体とは別に魂があり、転生輪廻を繰り返したり、死後の世界があったりもする。ない場合もある。タルレジャ教には天国はなく、その代わりに、『真の都』と『独自の地獄』がある。神は姿は見えないが、ひとりでも複数でも、どちらでもない、数えられない存在である。」
「そこ、それだよ。数えられない存在なんだ。一神教でもなく、日本のように、八百万の神でもない。他の神の存在を否定さえしない。すべてのものに神が宿る訳じゃあないらしいが、神はあまねく存在する。でも、個々の事象は、あえて見ていないこともある。神がすべてを知ってるわけではない。だから、人間は自ら努力する必要が生じる。ここらあたりは、プロテスタントの倫理とかに通ずる部分もあるが、たとえば、『ベルフス・イデー』とかね。でも、もっと、はっきり言って、タルレジャ教の神様は、気ままで、いいかげんなところがある。なんだか、よくわけのわからない、あ、これは、ぼくの注釈ね。『存在ではない存在』とされる。つまり、ヘレナが言ってることは、タルレジャ教の経典そのものだ。だから、ヘレナは神そのものか、あるいは・・・・」
「あるいは?」
「すべてが、ヘレナの、あるいは、祖先の創作なのか。」
「それはまあ、タルレジャ教の経典は、開祖が書いたことになってるなあ。」
「そうだねぇ。で、開祖とは誰?」
「一般的には、ビュリアと呼ばれる人間。ただし、まあ、超能力者だな。今でいうところの。つまり、『巫女』の第1号だよ。弘子姉さまの、ご先祖さま。わりと、そこらあたりは、事実なんだろうと言われる。」
「何時の話だと?」
「2億5千万年前だね。」
「その時期に、人類はいたのかい?」
「いや。いないはずです。」
「そうだよね。でっも、実は、いた。地球人じゃない。火星人が。それと、金星人が。そうなってるんだろ?」
「ううん、そこが、経典の謎とされるところだね。ビュリアは、人類の祖先とされるけれど、ビュリア自身が何者かは、書かれていない。」
「うん。書かれていなかった。で、ひとつ問題は、その前だよ。火星人や金星人は、実在したのか? ぼくは、最初から疑ってきた。その年代もだ。科学的にみて、肯定されないことだ。そんな昔の人類の化石などは見つかっていない。2億5千万年前の人類の子孫? 途方もないお話しだ。証明出来たら、世界がひっくり返る。」
「まあ、そうなんだけど、世界で1箇所だけ、分かっていない場所がある。王国の北島。まあ、南島では、そうした遺跡は見つかっていないけど、発掘が禁止されてる場所はある。王室の所有地ね。古墳みたいな場所だね。結構、広いよ。」
「なるほど。まあ、とりあえず、そうなんだろう。ねえ、弘子さん、君は、王国の事を誰よりよく知っている。北島の遺跡は、最近発掘が進み始めたと聞いているが、成果の報告はまだないよね。どうなってるの?そんな、超古代の、ペルム紀後半の人類なんて、そもそも見つかってるの? 王国の北島に、あるいは、南島にも、人が住んでいたなら、文化的な存在ならば、きっと、お墓もあったはず。だって、君たちの宗教もお墓を作るもの。でも、そこがうそなら、君の存在は意味が違って来るかも。地球の大陸は、移動する。その時期の大陸の配置は、いまとは、大違いだよ。まあ、たしかに、一度も大陸になったことのない島もあるけどね。実際は、火星人も金星人もいないんじゃないかな。非常に手が込んでるけど、君は、ミュータントの親玉なんじゃないか? すべては、幻想を見せてるだけ。そう、考えた方が、話は早い。すべてが、創作なんだ。君が、ビュリアでもあり、神でもあり、なんでもある。元はと言えば、ただの変異体。ただし、非常に強力な。言い方悪いけど。創作されたのは、比較的近代だ。で、たとえば、アヤ姫様なんかも、ひっかかる。アヤ姫は、君くらいのミュータントだったんじゃないか?そこに、お話の始まりがあったんではないか?」
「はあ~~~~~~~~~、失望ですわ。あたくしが見込んだ、唯一の人類が、実はこの程度だったなんてね。あなたこそ、最悪の詐欺師。ペテン師。ばか。」
「本気で、言ってるよね。でも、そうなると、君は、化け物ではなくなる。まあ、化け物には違いないけど。それほど、大したことはない。そっちこそ、最悪の詐欺師、ペテン女。ばか。」
「ふ~~~~~~~~~ん。怒る気にもならないわ。いいわ、弘志くん。まずは、弘子になりなさい。それから、続きのお話しを、行きましょう。このおばかさんに、身の程、知らしめてやるのじゃ。」
「え、いやだよ。ここで、変体なんて。丸見えだし。」
「この人は、我が僕じゃ。気にしなくてよいわ。弘子の洋服ならば、ここにあるぞ。そら。変われ。わしになるのじゃ。」
ひろ子の手には、いつのまにか、真新しい女子用の服などが、乗せられている。
弘志の身体が、変わり始めた。
『きた。しっかり、分析してやる。がんばれ、ぼくの彼女。』
シモンズのポケットには、自慢の端末が入っている。
果たして、本体にうまく接続されているかどうかは、いささか、自信はないが、アニーさんが中継してくれているはずだった。
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