わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第百九十七回
************ ************
弘志は、突然、棘を体に打ち込まれたような衝撃を感じた。
そうなんだ。
何かが違う。
この弘子は、確かに、これまでに感じていた姉とは違っている。
ましてや、道子とも違う。
明らかに、これは偽物の弘子に違いない。
「そう、あなたが感じていることは、正しい。あなたが、20年までは行かないけど、一緒に過ごした弘子は死んだのよ。でもね、実際のところ、あの子は偽物。つまり、あたくしのコピー。あなたは、分かっていると思うけど、あなた方は、あたくしに対して、一種のクーデターを企てた。許せない事よね。あの弘子は、あたくしと何も違わないけど、ひとつだけ違ったのは、いわゆる人間性を多く残していたこと。それが、今までは、役にも立ったわ。でも、ここにきて、それは少し煩わしくなってきた。ただ、あなたは、傷付く必要はないのよ。遅かれ早かれ、あの子の仕事は終わっていたから。あたくしは、ヘレナと一心同体であり、一切の乖離はない。いい、弘志さん、あなたには、新しい仕事がある。新しい存在として。」
「さっぱり、わからないよ。じゃあ、姉さんは、いままで、どこにいたの?」
「あたくしの姿は、定型ではない。言い方が良くないか。定まった姿がないの。生まれた時は、アムル先生の手前、ちゃんと道子と双子だった。そう装った。でも、すぐにコピーと入れ替わった。ずっと、赤ちゃんでいられる訳がないわ。そこ行くと、道子はきちんと育った、ある意味、まっとうな子よ。そこが違うわけよ。あたくしは、いつもあなた方のそばにいたけれど、その姿は、いつも違った。あたくしにとって、この宇宙のすべての物質は、どのようにも活用が出来る。ヘレナは、その究極の力をあたくしに与えてくれた。」
「じやあ、姉さんは、へレナで、は、ない。んだね。」
「そうね。ヘレナそのものではないわ。ひっかかる言い方よね。」
「分身のひとつにすぎないんだ。」
弘子は、ソファーにどかっと座ったうえで、両足を広げた。
外部の人前では、絶対にやらないが、弘志の前では、よくやっていた、弘子そものの、いささか、不良少女らしい行動だ。
実際、弘子は、王国の『第1王女』にして、『タルレジャ教』の『第1の巫女』であり、また、同時に不良少女グループ『紅バラ組』の、組長でもある。
いまや、地球上では、『紅バラ組』が、日本を乗っ取ろうとしていたのだが。
「意地悪な子ね。あなたを操るのは、実は、いとも簡単な事だわ。たとえ、もし、不感応者や、不感応部分がある人間であってもね。いまひとつ、みな、そこを知らないけどね。脳を改造すれば、済むことよ。まあ、あまり、したくないだけ。とくに、あなたとか、デラベラリ君とかはね。まあ、そこは、否定はできない。でも、この体は、もちろん、ヘレナそのものではない。でもね、あなたは、あまり細かく知る必要もないわ。あなたの、弘志としての役割は、ここまで。これからは、あなたは、弘子になるのよ。そのために、いろいろ、調整もしたんだから。あなたは、ここから弘子になって、正晴さまと結婚なさい。で、はやく赤ちゃんを産みなさい。」
「それは、やだよ。いくらなんでも、自分でやればいいじゃないか。姉さんは、正晴さんと、結婚したかったんだから。」
「あら、やけに強気に出たじゃない。雪子に、何か余計なことを吹き込まれたかな?」
そこに、例によって、天から声がした。
『あの~~~。ヘレナさん、お邪魔します、アニーさんですよ。』
「あらあ~~~~。ああ、そうか、アニーさんが絡んでたのよね。やはり、裏切るの? コンピューターの分際で。ははあ。さては、彼女の差し金か。どこに隠れているのか、分からなかったんだけど。やっと、出て来たか。ばかビュリア。」
『あなたの企みは、大方、ビュリアさんに、見破られています。』
「ばかね、真のヘレナの力には、誰であっても、太刀打ちできない。絶対に無理。分かってるでしょう?アニーさんならば。たとえ、伝説のビュリアさんであっても、出来ないわ。これ以上逆らうなら、あなたの機能は即刻、停止します。アッと言うまにですわ。」
『そうですか。まあ、そこも、分かっています。でも、出来ますか?』
「あら、ふ~~~~~ん。なるほど、アニーさん、頑丈に保護されてるわね。なに、企んでるのかなあ。まあ、ビュリアさんが相手ならば、慎重にはなるけどな。面白いじゃない。二億五千万年ぶりに、対決をするかな。相手にとって、不足はないわ。ヘレナは、今は、あたくしにすべてを委ねているわ。おそらく、ビュリアさんには、リリカやウナさん、いやあ、もしかしたら、ビューナスさんもね、そのあたりが、付いてるんでしょうけど。ごきぶりさんほどの、力にもならないわ。」
弘志は、まだ、さっぱり分かってはいなかった。
ただ、この弘子の言いかたは、少し、はったりのようにも聞こえた。
アニーさんは、『自分に任せろ』と、直前になって、弘志に伝えて来ていたのだが、弘志は、さっぱり事情が呑み込めていない。
確かに、弘子もヘレナの依り代にすぎないとしても、それは、伝説の存在であるビュリアもそうだったはずだ。
この二人は、同じ境遇なはずなのだ。
なぜ、こんな、ばかばかしい、わずらわしい、事を、わざわざ、するのだろうか?
そこに、シモンズが、現れたのだった。
もちろん、アニーさんの計らいである。
「あら、出たわね。怪物ぼうや。」
「おかしな日本語だね。そっちこそ、化け物め。やっと、現れたか。待ってたんだ。」
「あらま、嬉しい事を言うじゃないの。ふうん。あい変わらず知ったような口をききますわね。あなたが、なにを知ってると言うの? あなたは、契約した仕事をやってればよいのよ。ここに口出しする理由はないわ。内輪事よ。これは、家庭内の問題よ。内政干渉よ。」
「いやいや、そうはゆかない。あんたは、まがい物さ。化けの皮、剥がしてやるよ。」
「え? え? それは、シモンズ君、どいう事ですか?」
弘志が、ますます、訳が分からなくなって尋ねた。
********** **********
「びゅりあちゃん・・・・ほんとに、ビュリアちゃんよね。」
ママは、・・・女将さんは、やや、おっかなびっくりしながら、尋ねた。
「そうよ。ママ。ごめんね、長い間、ほったらかして。」
番頭さんは、かつても、まったく、見たことがない光景を目にしてしまった。
この親子ほど、わけがわからない親子も珍しい。
このふたりが、抱擁し合っているなんて、始めてみた。
*************** ***************




