わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第百九十二回
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『やれやれ、危なかったですね。』
『アニーさん! これは、つまり、アニーさんが、ぼくを、救出してくれたと考えていいのかな。』
弘志は、目をぱちくりしながら言った。
広い広い、応接室のようだ。
全体的に白が基調になっている、さわやかな部屋だ。
空いている、大きなテラスからは、静かな風が入って来る。
松村の家の応接室でも、ここまで広くはない。
しかし、王国の王宮ならば、もちろん、この倍以上くらいは、いや、もっと、ある。
『救出という言葉が正しいのかどうかは50%程度の正確性ですが、あの次元から、こちらに移転させたことは事実です。』
『はあ、また、わからないことを。ここは、どこなんだい?』
その部屋は、前に弘子や正晴たちが閉じ込められた部屋である。
居場所が特定できたので、その後は、アニーが押収してしまっていた。
『じゃあ、ここは、いわゆる異世界とか、そういう、いま、流行りの場所かい?』
『まあ、そうとも言えますが、他には誰もいない世界です。何もない世界。何でもない世界。一切が無意味な世界です。』
『無意味と?』
『そうです。ここで起こるあらゆることは、あなた方の空間には、なんの影響も与えない。与えられることもない。もちろん、アニーさんが関与したら、少し変わってきます。』
『食料は?』
『自給自足が可能です。最初は、アニーさんも、わからなかったんですよ。しかし、その後、よく確認しました。じっつに、よくできています。もち、外部から仕入れることも、まあ、可能ですがね。』
『誰が作ったの?』
『ダレルさん。ということになってますがねぇ。アニーさんが思うに、ちょっと無理なんじゃないか?誰かが、後ろにいた。そう思います。』
『だれ?』
『さて、そこだ。そこが、問題です。』
『うん。話がこじれてるんだよなあ。雪ちゃんのことは、すごおく、ショックなんだ。いまだに、あれが何だったのかが理解できないよ。雪ちゃんが、化け物? まさか。』
『そうでしょうな。まあ、しかし、今まででも、十分、化け物ですがね。』
『ああ、・・・・ううん・・・まあ、とにかく、整理が必要だ。ここは、安全?』
『そう思います。アニーさんが、すでに場所を移転させてしまったので、ほかには誰も探せないでしょう。』
『じゃあ、最初から、考え直してみよう。ああ・・・・・でも、お腹空いたな。』
『そうでしょう。それが、話しの定番だ。何が食べたいですか? びふてき? らーめん? フランス料理のふるこーし? 海鮮丼?』
『まったく、でたらめですな。おいしい、ラーメンが良いなあ。ライス、御漬物付き。』
『あいよ。すぐできます。まあ、王子様としては、実に質素で結構です。ヘレナさんだったら、まずはすぐに、高級ワインとか、言いだすし。ここのシェフは、アンドロイドです。すでに、コントロールは、はく奪しました。自由の身です。』
『そこだよ、アニーさん。人間性というものが、ものすごく侵されているように思うんだ。自分が自分じゃなくなったりするだろ。ぼくも、自分自身がそうだからわかる。女の子になると、なんだか、すっかり人格が変わるんだ。確かに、誰かに操られてるような気がしたことも事実だし。それは、弘子姉さまがやってると思っていたけど・・・・でも・・・』
『まあ、ラーメン頂いてからにしましょう。』
『ああ、そうだね。』
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「連中、ちょっと腰砕けした様です。いったん後退してゆきます。金星内からもいなくなりましたからね。」
ソーが報告した。
「ああ。まあ、そこは、アブラシオさんが、やはり強いか。捕獲したんだろう、会いに行こうよ。」
「受け入れますかねぇ。それに、第一、危険ですよ。ぼくらが捕獲されるんじゃないですか。」
「ああ、そうか。ははは。確かにね。誰が敵なんだか。わからなくなったな。」
「ヘレナさん、つまり、現在のヘレナさんですよ。殺害されたと。地球側にも確認しましたが、事実だとされています。タルレジャ王国も、殺害を確認しました。しかし、王宮は、まだ正式にコメントしていないです。」
「ふうん・・・・怪しいなあ。まあ、もちろん、体が死んでも、ヘレナ自体は不滅だ。いま、このあたりにいても、おかしくない。あらゆる場所にいても、おかしくはない。いなくても、おかしくない。」
「気持ち悪いですな。」
「そうさ。化け物だもの。」
『さんきゅ~~~~~~。』
~風のような声が聞こえた。かすかにだが。
「聞いたかい。いまの?」
「はい、たしかに、『さんきゅー』、とか。」
「やはり、いるな。まちがいなく。ソーの、ほら、うしろ!」
「ぎゃあ。やめてくださいよ。いっぺんに、汗が出た。」
「はははははは。まあ、ヘレナはそうしたもんだ。しかし、あの、人間としてのヘレナは気の毒だな。」
「そうです。ぼくも、そう思う、自分の人生じゃ、なかったって、ことでしょう? いかに、ものすごい天才でも、自分が自分じゃない。それって、人生ですかね?」
「ああ。そうさ。人生には違いない。本人しかわからないがな。」
珍しく、ダレルが哲学的になっていた。
『お話ちゅう、失礼します。こちらは、アブラシオです。』
「きたか。」
予想していたように、ダレルがつぶやいた。
『捕虜に会いに来ませんか? なお、お二人を拉致することは、禁じられています。』
「ほう、だれから?」
『女王様です。』
「そうきたか。いいよ、行こうじゃないか。誰かに、合わなきゃ、話が、まったく進まないもの。な、ソー君。」
「そうですね。ダレルさん。」
二人は、立ち上がった。
一方で、『宇宙警部』は、これらの会話を、しっかりと、盗聴していた。
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