わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第百九十一回
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「くそ、こいつら、ばけもんか?」
火星の生き残り小型宇宙攻撃機のパイロット、オータ少尉が叫ぶ。
「当たってるのに、素通りと来た。これじゃあ、勝ち目はない。」
『少尉、先に行きますよ。そんなへなちょこではダメです。』
気の強い、しかし抜群に頭の良いコーモット連隊長が叫ぶ。
『まて、まて、無駄死にするだけだ。』
『あたくしに、考えがあります。』
『はああ????』
そう言ってる間もなく、コーモット連隊長は、第9惑星の『幽霊戦闘機』に飛び込む。
開戦間もないのに、すでに『幽霊』とあだ名された、不可思議な戦闘機部隊は、遥か後の世に『ニンジャ』と呼ばるような、あり得ない動きを見せた。
一機だったはずの機体が、三つに分かれる。
それぞれが、個別に攻撃して来る。
しかし、また合体する。
さらに、6機に分裂する。
狙いが定まらない。
『ふうん・・・・そうきたか。』
コーモット連隊長は、ものすごく動きが速い。
リリカが開発した、脳と直接操縦回線がつながっている、高性能宇宙戦闘機だから、ということもある。
しかし、他の誰よりも早い。
つまり、まあ、頭が良いのである。
一瞬でも迷ったり、逡巡したりすると、すぐに動きに反応してしまう。
それが、弱点だ。
だが、彼女にはそうした欠点が見られない。
アンドロイドなんじゃないか?
ともうわさされたが、まぎれもない火星人類なのだ。
こんどは、分裂した4つの戦闘機を、完璧に捉えた。
推進装置部を、それぞれ、一発で吹き飛ばした。
『やったあ!』
はずである。
しかし、相手は、すぐに、修復してしまう。
『あらあ~~~~???おかっしいなあ。当たってるのに。』
『連隊長でも、ダメですかな? まさに、化け物ですな。』
オータ少尉が皮肉った。
『くそ。あり得ない。こいつら、ほんとに、幻影かしら。』
『いやあ~~。ちゃあんと、物質反応してますよ。幽霊じゃない。ああ。危ないですよ。後ろ来た。』
オータ少尉が、さらにその後ろから攻撃した。
『きさまあ~~~~あたしに当てる気かああ~~~!』
あやうく、同士討ちだった。
いや、あっちでもこっちでも、同士討ちになっている。
『三番、四番、五番、離脱。六番は大破。救出不能。』
『こりゃあ、被害が増えるだけかな。』
コーモット連隊長がくちびるをかみしめた。
様子をじっと見ていたダレルが指示した。
『全員、いったん、帰れ!』
「やれやれですね。」
ソーが、あきれたように言った。
「あれは、どうなってるのかな?ブリューリより質が悪いぞ。」
「さあて、分析してますが。要は、動きが早すぎるんでしょう。光速でぴゅんぴゅんかわす。分裂するのは、よくわからないな。一種の細胞分裂みたいな感じですかね。」
「生きものかよ。こっちの攻撃波だって、光速で動くんだから、差はないはず。当たらないはずがない。」
「当たってますよ。確かに。ただ、効かないだけ。効いても、すぐに修復する。そんな技術は、火星にも金星にもないです。地球にも。たぶん。」
「それじゃあ、もう、話にならん。戦いにならない。バカにされてるだけだ。」
「おやや、連中。金星の大気圏内に侵入しようとしてますよ。金星人が黙ってない。攻撃用『空中都市』が大気圏外に浮上。さすがに、でっかいですなあ。」
「感心していてどうするの。相手には、被害が出ないぞ。歯が立たないな。金星人も可愛そうに。」
「ああ、宇宙警部殿が、参入しました。おやや・・・おかしいですよ。敵さん、なんだか、同じ空域を旋回してます。」
「ああ、ほう・・・あそこから、出られないんだな。空間が丸まったんじゃないかな。ここから見てると。おおきなたらいの中の、『金目フライ』みたいだ。(金魚の親戚みたいなもの。)」
「ふうん、さすが。宇宙警部と言うだけのことはある。逮捕はお得意ですからね。」
「敵さん、どうやら、撤退したいらしい。あ!」
「囲いをヒライちゃいましたね。警部さんは、おやさしい。」
「ばかな。捕虜をとらなきゃ、意味が無いのに。」
「いや、ダレルさん、ほら、いなくなっていた、アブラシオが帰ってきましたよ。出口をふさいでる。」
「ふん。・・・・あああ、食べた。」
「食べました。ね。」
アブラシオは、敵艦を5機、巨大な胎内に取り込んでしまったのである。
のこりは、解放してしまった。
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『ゆきちゃん、ぼくに、どうしてほしいと?』
弘志は、いったん、シモンズと別れて、自室に帰った。
『おにいさま、ショックでしょうね。』
弘志は、まとめていた髪を、ほどいていた。
驚くほど、弘子と道子に似ているし、男子だとは思いにくい。
『そおりゃあ、もう。弘子姉さまが死んだなんて、うそだろ。あり得ない。銃撃されたということ自体、あり得ない。姉さまは、周囲の危険を先読みできる。絶対に撃たれたりしない。違うかい?』
『違いません。そのとおりです。今回も、お姉さまは、撃たれるのが分かっていました。』
『な・・・なんて? わかっていた?』
『はい。もちろん、分かっていました。だって、お姉さまが計画して実行したのですから。』
『ゆきちゃんは、それを、知っていた?』
『はい。』
『でも、止めなかった。』
『まあ、止めようがないですよ。その必要が、ないと言うか。』
『ぼくに、言ってくれたら。』
『そうしたら、撃たれなかったと、思いますか?』
『いや・・・・つまり、姉さまを操ってる、化け物が、姉さまを、殺させたということか。』
『まあ、そうです。』
『なぜ?』
『邪魔だからでしょうね。』
『邪魔・・・もしかして、ぼくが、裏で動いていたことと、関係がある?』
『まあ、そうだと思います。』
弘志は、しばらく沈黙した。
『なら、ならば、殺されるのは、ぼくだろ! 弘子姉さまではなくて。そうだろ!』
弘志は、叫んだ。
精神的な統制が、破壊されそうだった。
雪子は、鎮静効果がある物質を、弘志に別空間から注入させた。
『ご自分を責めないでください。お兄様は、間違っていない。弘子姉さまの内部で起こった、なにかの変化に、内部の存在が気付いたのです。』
『悪魔みたいなやつだな。ねえ、ゆきちゃん。ゆきちゃんは、まだ、隠し事をしてるだろう。話してほしいんだ。いまの状態では、何が正しいか、そうじゃないか、分からない。』
『そうですね。結論から言えば、正しい事とか、間違った事とかは、ありません。立場の違いがあるだけで、正しいか正しくないかは、関係していません。お兄様は、いままで、一種、蚊帳の外にいましたが、今からは、その中心に立つことになります。』
『え? どういうこと。』
『弘子お姉さまも、道子お姉さまも、どちらも、あたくしの、しもべに過ぎないからです。』
『え? まって。ゆきちゃん、何、言ってるの?』
『この世に、あの二人を生み出させたのは、あたくしだということです。』
『え? あの・・・そりゃあ、ないよね。そか、・・・化け物が、ゆきちゃんに。とりついたんだな。』
弘志は、じりじりと、ドアに近づこうとしていた。
『お兄様、ドアは開きません。これから、お兄様には、まず、女の子になっていただきます。もう、慣れてるでしょう。ただの、女子ではありません。あなたは、これから、道子姉さまをも吸収し、究極の弘子姉さまになるのです。まあ、お名前は、道子の方が良いでしょう。弘志兄さまは、この世から消えます。弘子姉さまの人格や能力は、あたくしが握っております。弘子と道子が、あなたの仲介で、同一人物に発展します。どのような人類も、ミュータントも、けっして対抗不可能な、絶対的な能力を持つのです。』
『な、なんのために?』
『この、宇宙の、統一です。』
『うな、むちゃくちゃな。』
空間が歪み始めた。
弘志は、自分がとろけるような気がした。
そこで、雪子の身体から、点滴の管が外れた。
警報が鳴り響く。
10分以内に、適切な処置をしないと、雪子の身体は死んでしまう。
弘志は、何かに、引っ張られる気がした。
ものすごい力だ。
なにがなんだか、分からなくなった。
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