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わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第十九章


「一つ皆さんに聞いていいかな?」

 杖出首相が言った。

「そりゃあもう。」

 秘書が答えた。

「ふん。いやね、さっきも君とそうした話をしかけたが、タルレジャ王国の国王は、第一王女が非常に危険な、地球さえも破壊できる武器を所持していると言って、核兵器の廃絶に反対した。その第一王女が、国王に賛同する意思を示したんだ。おかしいと思わない方がおかしくないかい?核兵器の廃絶は、火星人の意図だ。それは地球人の爪をはぎ取るためだ。国王はおそらく「不感応」で、火星人の支配に反対したと考えられる。じゃあ、第一王女はなんなんだろう?かの女は、地球人の味方か敵か? 君は、内部対立があると言ったが、実際のところ、どうなんだろう。どうも、うさんくさいだろう。」

「いや、実はまったくそうなんですがね。でも、僕は少し、かなり、うがった見方をしているんですが。」

「ほう?どんな?」

「いやあ、首相に嫌われそうですから・・・」

「いいよ、この際言って見たまえ。いい機会かもしれないよ。」

「そうですねえ。僕はですね、火星人は本当に、核廃絶を願ってるんじゃないかと思うのですよ。もちろん、きれいごとだけじゃあなくて、地球人支配の狙いもあるんだと思いますが、実際これは、オカルト的説ですが、火星文明は、核兵器によって滅んだと主張している学者さんもいます。だいたい火星人がいる、なんていうこと自体が、つい昨日までは「うそ」だったんですから、そういうことだって、十分にあると思うんですね。そこで、国王と第一王女の対立は、もしかしてお芝居なんじゃないかと。」

「それはまた、何のため?」

「さあ、わかりません。火星人をゆすぶってるのか、そこんところは、分からないですけど。実際の対立には、もう少し他の構図があるんじゃないかという気がするんです。勘ですよ、勘。でも、あのリリカと言う火星人、けっして映画に出てくるような、単純な『悪の猛獣』じゃあないように思うんです。」

「勘は大事だがね。しかし、実は私は、まだ火星人なんて信じてないんだ。ふうん・・・」

 首相はそのまま黙った。


 **********   **********


 ヘレナの本体は渋谷の集会が開かれる会場に飛んだ。

『リリカさんとつながりましたよ。』

 アニーが言ってきた。

『ごくろうさま。リリカさん、夢に出てやろうかとも思ったけど、まあお気の毒なので。』

『いえもう、やっと頭が少し戻ってきた感じですから、そう変わらないでしょう。』

『まあ、やはり、お気の毒に。ときにお伺いしますけど、日本と王国、もしかしたらその他で、「反火星集会」なんていうものを、開かせてるのかな?』

『ああ、それですか。情報は掴んでます。いえ、あたくしたちではありません。正直正体不明です。なので、こちらも注目しております。』

『ダレルじゃない?』

『まあ、ダレルさんが絡んでるのかも、明確ではありません。しかし、恐らく違うでしょう。』

『第三王女?』

『それも、どうやら違うと思います。』

『ふん、そう、じゃあ、やっぱり行ってみるか・・・・・あらら、あれは杖出さん。どこ行くんだろうな?で、あの三人はなんだろうか? あからさまに怪しい。ははあ、さては・・・・』


 *****     *****


「あ、あれはなんだろうなあ。下に何か落ちてるよな・・・・爆弾かな?」

 杖出首相がつぶやいた。

「え?」

 秘書が慌てた。

「ちょっと、ロック外しなさい。見るだけだから。」

「いやあ、それは・・・」

「ほら、あそこ危ないぞ。」

 秘書はロックを外して、ドアを小さく開け下を見ようとしたが・・・

「あああ、首相!!」

 杖出首相はものすごい早業で、車から走り出た。

「うわあ、待ってください?ほら、捕まえろ。えらいこっちゃ。」

 秘書は慌てた。ここで逃げられたらおしまいだ。



『ふうん。わいにも何かよくわからんが、首相さんを助けてあげようか。』

 ヘレナはいたずらをした。

 首相の乗っていた自動車が空中に、二メートル半ほど舞い上がったのだ。

 三人は、車から降りかけている最中だった。

 秘書は宙づりとなった。

 二人は落っこちてしまった。

「ばかあ、あんな言葉しゃべったら、疑われてあたりまえだろう。」

 一人がちょっと大声で「秘書」を見上げながら言った。

「こら、黙れ!」

 女性がたしなめた。

 どうやらこの人が一番偉かったらしい。



 杖出首相は、路地裏に逃げ込んだ。

「まあ、正しい判断かどうかは、自信はないがね。」

 彼は自らに、そう言った。

「まあ、だいたい正しかったですわね。たぶん。」

 ふと、女性の声がした。

 ヘレナが乗り移った、何の関わりもない、会社帰りの女性だった。

「君は?何者かな?」

「首相さま、とりあえずお味方いたしましょう。タクシーにお乗りください。ここは信じた方が得ですよ。わたくしは第一王女様の使いです。」

 路地の向こう側にタクシーが止まった。

「第一王女様が、ぼくをどこかに招いてくれていると聞いたが?」

「まあ、聞いておりませんわ。あの三人の話でしょう? そんなお話し。うそですわね。たぶん。」

「この際、乗った!」

 杖出首相は、路地の向こうまで走ってタクシーに飛び乗った。


 秘書たちの車が、ひっくり返った状態で、ゆったりと着地した。

 周囲は、だんだん人だかりとなってきてしまっていた。

 パトカーの音がする。

 捕まったらやっかいだ。三人は逃走した。


 **********   **********


 アンジは、集会場に入って行った。

「どうぞ、入場フリーです。」

 受付の男性が言った。

「そうですか・・・」

 アンジは、適当な席に座った。

 半分くらいは、人で埋まっている。

 半分しか入っていないと言えば、その通りだ。


 やがて、美しい女性が現れた。

 ざわめきが起こった。有名人だから・・・

「時間が来ましたので、開始いたします。今夕は、お忙しい中、お立ち寄りいただきまして深く感謝申し上げます。わたくしは、テレビ《OBAKAオービーエイケイエー》のアナウンサー、海野、と申します。よろしくお願い申し上げます。さて、みなさま、それでは本日の主催者から、ご挨拶申し上げます。」


 一人の男性が、舞台裏から、歩み出してきた。


 **********   **********


「くそ、なんだまったく。おまえらは、役立たずなんだから、もう。」

 見た目とは違って、きつい言葉でその女性は男二人を叱りつけた。

 首相の姿は、当然どこにもない。

「いい金づるだったのに。」

「いったい、なんという現象だったのかなあ?あれは?」

 「秘書」が言った。

「まあ、大方、親分の大事な「お嬢」が邪魔に入ったんだろう。他に考えられないわ。」

「「お嬢」ですか。しかし、ミュータントってことがある。」

「ばか、そんな連中だったら、こんなゆるゆるなことしないね。とっくに首が胴ら離れてるさね。」

 変装した顔を元に戻しながら彼女は言った。

「おお、怖い~。」

 他のふたりも同様に、全然別人の顔になった。

「まあ、親分に連絡しよう。まったく、親分ときたら、相手にかまわず勝手に「お嬢」「お嬢」って、なん億年も経ってるのに、でれでれして。仕方ないんだからねえ。」


 **********   **********


 男は、壇上に上がった。

「高いところから、大変失礼申します。本日は、ご参加いただきまして感謝申し上げます。わたくしは、『地球の未来を考える会』会長の、松村泰三であります。通常は、「株式会社マツムラコーポレーション」の常務として勤めておりました。昨日までは。しかし、突然解任されて、今はフリーであります。妻は、「タルレジャ王国研究家」の松村タイコであります。現在、離婚の危機にあります。すべては「火星人」の謀略に関わったものです。しかし、個人的な問題は、この際、もはや問題ではないのです。この地球が「火星人」の手に落ちたのですぞ。皆さん、そこはご理解なさっていらっしゃるでしょうか?平気でいられるのでしょうか?」

 早くも、ブーイングが少し上がったが、拍手の方が多かった。

「いや、反対の方のお気持ちは、分かっていないのではありません。わたくしは、技術畑の人間ではありません。経理担当でありました。ですから、科学技術の事や、医学や心理学などは、実際よく分かってはおりませんが、しかし、人間であります。みなさん、ここには、火星人に同意できない方もいれば、そうじゃない方もいらっしゃるでしょう。しかし、みんな同じ地球の人間です。憎み合ったり、傷つけあったりするべきではないのです。」

「反対だあ! 火星人のおかげで、真の平和が訪れるのだあ!」

 大きな声が飛んだ。

「ばかやろう、恥を知れ!」

 逆の声が飛んだ。

「まあまあ、我々が、ここで喧嘩しても仕方がないのです。皆さん、真実をわれわれは、知る必要があるのです。そこで、特別な講師をお迎えいたしております。その正体は、ご本人がお話になるとのことですから、ここでは遠慮いたします。しかし、この方は、地球文明の発祥と、それに先立つ火星文明と金星文明の崩壊について御詳しい方なのです。」

「なんだあ、オルト集会かあ!意味ない、帰ろう帰ろう、みんな。」

「そうだそうだ、潰してしまおう。これは単なるオカルト思想の宣伝ですよ。いたら、洗脳されますよ!」

 立ち上がって出ようとする人たちがいた。

 「怪しい」、「なんか危険かなあ」、と感じる人には、ここが退場のチャンスなのだ。

「待って!」

 アンジが立ち上がった。

「みんな、聞いて見ようよ。あたしは、この人知ってる。「変なおじさん」じゃあない。日本の有名な実業家よ。『マツムラ』の重役さんだもの。タルレジャ王国の王女様のおじさんだよ。あたし、『第一王女さま』の、クラスメートなの。聞いてみたって害はないよ。」

「たしかに、『マツムラ』の常務だもんな。テレビで見た。」

「『三王女様』のおじさんだって。」

「『皇帝陛下』のおじさまだわ!」

「みなさん、騙されてはなりませんよ。こいつは『不感応者』だ。」

 会場がざわついた。

 自分が『不感応者』だという事は、お互いに、みんな知られたくない。

「それは、関係のない事だと、みなさん自らの『理性』に従って知るべきです。たしかに、わたくしは、かの王国の王女様たちのおじにあたります。みなさん、集会に出たり、話を聞くとこで、今はまだ、罪にはなりません。第一王女様もそのようにおっしゃっておられるのですから。でも、この先は、分からないのですよ。本当に! そこを考えましょう!ここは滅多にない機会ですよ。皆さんがもし帰ったら、やがて日本は、いや世界は潰れてしまうでしょう。」

『こらこら、そんなこと言ってないぞ。おじさま。ひどいわ。世界を潰す気なんてないもの。ただし、わたくし現在無役なのですけど。まあ、追加して同意は致しますけど。で、ゲストは誰かな? ええええ!お面?』

 勝手に入り込んだ女性の体の中で、弘子はちょっとだけびっくりしていた。


 周囲を探ってみれば、いろいろな人が入り込んで居る。

 日本政府関係者、公安関係者、王国のスパイ、国際連合関係者、地球帝国の情報員、アメリカ国や大ロロシアはじめ、大手各国のスパイ。その中に、変装はしているが、なんと懐かしい人がいるではないか。

『まあまあ、まるで、わたくしのかつての「お茶会」みたいね。』

 人々を外に連れ出そうという策略は、どうやら、あまりうまくゆかなかったようだ。

 出た人はほとんどいなかったのだ。

『さすが、日本人ね。こういうところは理性的と言うか、物見高いわ。洗脳が甘かったかなあ。』

「では、皆さま、ゲストです。」

 弘子のおじさんが言った。


 女性だった。確かにお面を被っている。それでも、弘子にはその正体がすぐにわかった。

『マヤコさん! どこに潜んでいたのかな?」


 **********   **********


 












 





































































 















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