わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第百八十九回
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『第二王女』は、ある意味、大変に迷っていたのである。
世間は混乱していた。
射殺されたのは、『第1王女』だ、と、第1報では報道された。
しかし、間もなく別の報道が出された。
王室派の新聞『我が王国』は、どこからどう取材して来たのかわからないが、次のような見出しの大々的な記事を発表したのだ。
《第1王女様はご無事! 亡くなったのは、『第2王女様』》
その根拠は、《第3王女様》、すなわち、『皇帝陛下』筋から出された『極秘情報』である。
と、すっぱ抜かれたのである。
しかし、当の『地球帝国政府』も当惑していた。
その時、『婚約の儀』と『地球帝国創立式典』のため、三王女様とも、王国の『王宮』もしくは、『タワー』に滞在していた。
殺害された王女が、双子のどっちなのか。
間違えるはずがないだろう、と、世間からは思われるかもしれないが、そう簡単ではない。
タルレジャ王国は、一応『民主主義国』であり、王室は政治にはタッチしないのが基本だが、国王の拘束以来、事実上の『クーデター』とも言われる状況で、17歳の『第1王女』が、全ての権限を掌握していた。
それは、周知の事実である。
タルレジャ王室は、謎が多い。
それでも、政府は機能していたし、大方の俗世のことがらは、首相に任されていた。
それが、内戦の勃発で、『南島』対『北島』の戦争に発展しそうになった。
王室を除いて、『北島』のトップは、『侍従長』である。
『タルレジャ教』のトップ、『教母』様は、俗世の事には関わらないのが、古来からのしきたりだ。
『第3王女様』は、地球帝国の『皇帝』であり、『第2王女様』は同じく『総督』である。
しかし、『第1王女様』は、そのまま、王国の王女ではあるけれど、『地球帝国』には、直接のかかわりがない。
その、『皇帝』の考えは、明らかに、『北島』の開放にあった。
しかし、『第1王女様』は、徐々に緩和する方針ではあったが、即時開放は考えていない。
それは、彼女にとって、非常に『マズイ』ことだからである。
彼女にとって、というよりは、彼女に取りついている、ある『存在』にとって、と、いうべきだ。
過去の秘密が明らかになることは、最終的にはどうにでもなるが、社会秩序の維持という観点からは、好ましくないということだ。
さらに、食料の問題がある。
火星での失敗は、『金星のママ』を放置していたことに大きな要因があった。
『ママ』は、実のところ、すべてを『ぶちまける』考えがあった。
もっとも、二億五千万年前のことだが。
非常に危険な力のある『宇宙警部』が、干渉してきていたが、ビュリアに恋をしてしまったことから、状況は非常に不透明になった。
おまけに、『宇宙警部』は、『宇宙怪獣』の元同僚で、さらに親友だったことは、『ビュリア=女王』には分かっていた。
やがて、女王は、地球中心の、新しい『太陽系』の構築に踏み切った。
現状は、その流れの上にある。
『ヘレナ』と『ルイ―ザ』は、女王が作り上げた、自慢の『地球人類』の最高傑作だった。
もう少し言えば、『ルイ―ザ』は、ヘレナのスペアだったのだ。
シモンズは、そこのところを、早くから見破っていたのだが。
この二人は、双子というより、さらに完璧な同一人物だったわけだ。
まあ、いろいろ、女王は、味付けはしたが。
だから、射殺されたのが『第1王女』なのか『第2王女』なのかは、『女王』にとっては、最終的にはどちらでもよかったのである。
二人は、いつでも、完全に入れ替わることが可能であり、その意識そのものも、そのまま、入れ替えることができる。
『どうしようかなあ・・・』
と、迷ったのは、本物の『女王』だったわけだが、その『女王』そのものが、『本物』かどうかさえ、かなり怪しくなってきていた。
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「ということは、間違いないと思うんだ。」
シモンズは、弘志と会話していた。
「う~~~~ん。」
弘志は、うなった。
「あの、シモンズさん。ならば、ぼくとゆきちゃんはどうなんだろう。」
「そうだね。確実には言い切れない。雪子さんに確認してみるしかない。ただ、雪子さんは、自分の正体を明かすことは拒否しているだろ?」
「そうなんだ。」
「まあ、ぼくが想像するに、君たちの関係は、弘子さんと道子さんの、こうした関係とは異なるんだと思う。しかし、背後に、なんらかの企みがあって、キミたちが生まれたことも、間違いないんだろうな。君はビューナスの生まれ変わりだと言われた。『両性具有』の、言い方は良くないが、ミュータントだ。妹さんも、つまり、ゆきちゃんも、そうした存在だろう。気にはなるだろうけど。」
「そりゃあ、気になるさ。化け物なんだよ。ぼくは。」
「まあね。」
弘志は、がっくり、首を床まで落とした。
「しかしだ、人間だれしも、自分の出生は選べない。それは、みな同じだよ。」
『あの~~~~~~。いいですかあ?』
例によって、アニーさんが割り込んできた。
「聞いてるのは、分かってるよ。アニーさん。なんだい。」
『宇宙戦争がはじまりましたあ。場所は、金星近傍と、その大気圏内。攻撃してきたのは、『第9惑星』の、『火星』と『金星』の人類の子孫たちだと思われます。』
「ほんとに、やり出したか。」
「はい。まあ、同士討ちですが、同士とは思ってないようです。その姿は、見えないです。何らかの防御物質が宇宙船を覆っていて、中が見えないです。『光人間』の関与が疑われます。もしかしたら、『光人間』が、首謀者かもしれないです。形勢は、互角。『宇宙警部』さんが、なぜか、金星側についてます。これが大きいですね。ものすごく、強い。」
「はあ。そりゃあ、警部さんだもんな。地球に波及するかしら。」
そう、弘志が尋ねたのだ。
『さあ、どうなんでしょう。ヘレナさんは、応答しないです。アニーさんも、困ります。』
「あのさ、アニーさん。」
これは、シモンズである。
『はいはい。なんですか?』
「亡くなったのは、実際、どっちなんかいな? へレナか。ルイーザか?」
『ああ。回答したします。ヘレナさんです。』
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「やましんさん、御正月以来ですね。」
幸子さんである。
しっかり、黒のマスクをしている。
「幸子さん、花粉症?」
「ファッションですよ。女神様は、影響受けませんから。」
「まあ、そうだと思うけど。『第3部』の続きのほうを、ぼちぼち書いてるからです。上手くゆかないけど。」
「上手くゆかそうと思うと、間違いですよ。やましんさんは、天才じゃなくて、ばかの一種ですよ。だから、上手に書こうなんて、思っちゃダメなんですよ。あるがまま。指の向くまま。」
「まあ、ね。このごろ、体力が急に減退。保険料は高くなる。もし、危ない状態になって、さらに、万が一医療が破綻してしまうと、60歳以上は捨てられる可能性が出て来ます。」
「そのときは、幸子がご案内いたしましょう。地獄に。」
「はあ・・・・。居場所があるなら、まだましかな。いやいや、それじゃ困るよ。やっぱり。」
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