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わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第百八十三回


  ************   ************



 その、前の晩のことについてである。


 王国の慣例とか王室の不文律とか、タルレジャ教会の暗黙の約束とか、そうしたものは、ほとんどみな、ヘレナが作り出したものだと言ってよかった。


 そもそも、『婚約の儀』=『結婚の儀』というような考え方自体が、女性体であったヘレナと、男性体であったヘレナが、共同で考え出したようなものだ。


 つまり、早く実行したかっただけのことである。


 一日も早く、後継ぎを決めておくこと、ということは、おそらくは王家のような場合は、それほど珍しい事ではないだろう。


 実際は、火星の王室においては、『婚約』と『結婚』という区別は、あまりはっきりしたものではなかったのである。


 事実上、同じものだった。


 それが、地球社会の中での様々な都合というものが入り込んで、一応、分割することにはなったが、その意義の多くは、前倒しにされたわけである。


 ヘレナが決め、相手の意識自体を、ヘレナが操るのだから、特に分割する大きな意義はなかったわけだ。


 しかし、今回いくらか誤解があったとしたら、婚約の儀の晩が『初夜』だと、二人が考えたとしたら、それは正しくなかったわけである。


 実際問題、あの二人で閉じ込められた晩に、ヘレナは予行演習してしまおうと考えていた。


 邪魔が入らなければ、その通りになっていたが、あと一歩で、救出されてしまったのである。


 だから、婚約の儀の前夜こそは、事実上の『初夜』となったわけである。


 それは、『第2王女』も、そのままを、まねる形となったのであるわけだ。



   **********     **********



 しかし、昼間に、わけのわからない衣装合わせに苦しんだ二人にとっては、なおさら、まったく夢のような時間だった。


 もちろん、二人の脳自体が、ヘレナと、その能力を分割されたルイーザによって、いくらか麻薬漬けのような状態になっていたことは、間違いはない。


 それは、ヘレナとルイーザの身体にとっても、同様の事態だったわけである。


 そのふたりに取り付いている、正体不明の怪物は、二人分の快感や陶酔感、エクスタシーというものを、間接的に感じていたわけだ。


 正晴は、弘子=ヘレナの美しい、やわらかい、ここちよい体に、酔いしれていた。


 武もそうだった。


 事前の心配などは、結局のところ、なんの問題もなかったわけだ。



 ************   ************



 侍従長が駆け付けた時、ヘレナの肉体は、すでに、息絶えていた。


「どこから撃った? 犯人は?」


 侍従長が叫んだ。


「それが・・・空間から、突然・・・なにもない、空間です。あおこらあたりかと・・・。」


 目撃していた、南島側の兵士が、うわのそらを指しながら言った。


「ばか。何もない場所から弾が来るかいなあ! 犯人捜せ!・・・・ううん? しかし、これは、普通の銃じゃ、ないな。・・・・・おい、きみ、東京のご実家に連絡したまえ。すぐにあの巨大なお屋敷を封鎖だ、封鎖。」


 侍従長は、側近の上級兵士に言った。


「は? いやあ、しかし、それは・・・・」


「緊急通信回線だ。いいな。緊急事態だ。定められた方法を、遅滞なく、実行せよ。」


「あ、はい。すぐに。」


 北島側の上級兵士に命じながら、侍従長はめまぐるしく考えを巡らせていた。


 そこに、マムル医師が駆けつけてきた。


 助手を一人連れてきている。


 動かないヘエナの身体を調べながら、医師がつぶやいた。


「これは、普通の銃ではないですね。レーザー光線のようでもないな。心臓が蒸発してます。どうにもならないな。王室の銃ですか? こんなの?」


「いやあ。違いますよ。見たことないです。こんな、残酷なの。」


「ふうん・・・・あ、あ、もう一人が来たわ。大変だ、どういう反応を示すのか。わからないな。」


 『第2王女』が、もの凄い勢いで、ほとんど、空を飛ぶようにやって来た。


「お姉さま! お姉さま! どうして? どうして、こら、ばかアニー、なんとかしなさい!」


 『第2王女』が、ここまでうろたえたのは、誰も見たことがない。


「ばか、あにー? ルイーザ様、大じょぶですか? お気を確かに。」


 さすがのマムル医師だが、アニーのことは知らないわけではないのだが、ここで、アニーが出てくるはずもない。


 医師は、ルイ-ザを、抱きかかえた。


 マムル医師のアニーに対する認識は、そこまでしかない。



   *****   *****   *****



『あああ~~~~~あ。やっちゃった。いいんですか? へレナさん?』


 へレナの姿は、誰にも、見えてはいない。


 そこに、存在しているのだけれど、それは、存在ではない。


 幸子さんや、アヤ姫さまのような存在は、見えないようでも、それなりの実体がある。


 人に見えるようにも、なれるのだ。


 ヘレナには、人体などを借りなければ、それさえもない。


 ただ、なんらかの憑依可能な物質があれば、なんにでも、化けられる。


 あらゆる物質と関連しないし、一切の因果関係には、関わらないことが出来るが、関わることも、もちろん可能なわけだ。


 それがどうしてかは、ヘレナ自体が、まださっぱり、分かっていない。


 さすがのシモンズも、まだ、回答が得られないままでいる。


 毒へびは、なぜ、どうやって、自分の持つ毒物が生成されたか、説明はできないだろう。


「まあ、しかたないわね。ここからが、大変なんだから。」


「はあ・・・・でも、あのお、・・・儀式。どうするんですか?目撃者がいっぱいいるんだから、内緒にはできにくいすよ。」


「まあ、そりゃまあ、ルイーザさんと武さんは、そのまま、やってもらう。正晴様は、かわいそうだけど、まあ、写真とでも、やってもらおうかな。まあ、夕べ、やっちゃったから、心のこり、ないわ。」


「あのお、そおおいう、問題ではないでしょう! あ、それから、ご本宅が緊急体制に入りましたよ。ごきぶりさん、いちごきたりとも、逃げられない。」


「それはもう、織り込み済みだ。とっくに、彼は、遥か彼方に消えてるわ。捜したって、むだよ。吉田さんを責めても、何も出て来ないしね。一切の映像はない。村沢さんは、来ていない。いや、来たけど、追い返された。すべての物証は、それを証明する。だって、あなたがそうしたんでしょ?」


「まあ、そうです。」


「じゃ、よかった。これで、ヘレナは、もう、皇帝にはなれない。どうする、だれるちゃん。」




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