わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第百八十二回
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「お衣装合わせにお越しくださいませ。」
武と正晴は、王宮に収容されていた。
それは、まさしく、『収容』というべきものだ。
確かに、予想はしていたし、双方の親からも言い渡されてはいた。
ふたりの親たちは、みな王宮で働いていたことがあるから、その実態はよく知っていたはずである。
だから、この場所が、いかに世間離れしている、つまり、きわめて、特殊な場所かということは、知り抜いていたわけだ。
『第1王女』が、実力を発揮しはじめて以来(彼女は4歳ごろから、その才能を『実際』に、発揮し始めていた。その前は、ただ大人しくしていただけだけれども。)は、そのあり方が随分と変わってきた。
風通しが良くなり、外部の情報がどんどんと入ってくるようになった。
逆に、外側に出て行く情報も、増やされていったのだが。
それでも、まだこの王宮は、謎だらけの迷宮である。
ここには、『火星王国』が誕生して以来の情報が、そのまま眠っている。
ただし、人の目には触れない場所にあるし、もしも、普通の地球人が見ても、ほとんど意味が分からないものが多いだろうけれど、それでも、それなりの人が見れば、それはもう、仰天することであろう。
『真の都』の例の博物館には、さらに膨大な情報があるのだけれども。
「衣装合わせといわれましても。そんなに大変ですか?」
武が、多少意地悪く、『プチ・じい』に、尋ねた。
「そりゃあもう。大変ですよ。お衣装直しが、4回ございます。王女様は、7回ございますが。」
「なんと。うそでしょう?」
「なんのなんの。本来8回と12回だったものを、『第1王女様』が、今回、随分、削除なさったのです。」
「はあ~~~~。そりゃあ、進歩なんだろうかな。しかし、ものすごい時間がかかるだろうなあ。」
「そりゃあもう。まあ、長く、実際には行われておりませんでしたが。おそらくは、ものすごく長い儀式です。予定では、休憩を挟んで、8時間はかかります。しかし、まず、武様は、いえ、ダカラリア・タケルニア・タレジャ・シン・タルレジャ殿下におかれましては、表に出ることが多くなりますゆえ、話し言葉からして、学ぶことが多くございますゆえ。これは、ほんの序の口であります。」
「その名前、なんとかしてほしいよ。いったい、だれだ?」
「は! 第1王女様が、日常の呼び方はいまのままでよいとは、おっしゃってはおられまずが、対外的には、そうはまいりません。『シン・タレジャ殿下』になろうかと思いますが。」
「なんだか、違和感多し。外国人みたいだ。」
「すぐにお慣れになります。もっとも、あなた様がたは、ここの国民なのですよ。本来。」
正晴は、少し噴き出していたが・・・
「ああ、一方、あなたさまは、また、別格でございますよ。なにしろ、今の情勢で行けば、次回は『第1王女様』が『女王様』におなりになるでしょうから、正晴様は、『女王様』の旦那様でございますゆえ、特に、『国父殿下』と呼ばれまする。あ~、今は、『国母様』ですからな。外に出ることはないが、多数の儀式がございまするぞ。それを覚えなければなりません。わたくしも、中身そのものは、まったく、存じませんが。ああ、ときに、ご自分のご本名は、覚えておいでですかな?」
「まあ、だたいは。マカラリア・ダマサルニア・マサハタレルジャ・ガナ・タレルジャ、だったような。」
「さようで。あなた様は、もともと、王家の流れの中の方です。よくご自覚ください。」
「ほらみろ。お前の一族は、むかし貴族だったからなあ。」
武が冷やかした。
なにかと世話を焼いてくれるのは、『第1侍従長補』である。
侍従長よりは、若いらしいが、見た目はそう違わない。
じい(侍従長)の、いとこなんだそうである。
「覚悟はしてます。そのように育てられたんだから。」
「いかにも。しかし、まあ、国王さまのご都合とは言え、動きが速くなりましたからな。まさに、先代国王様がお気の毒です。くくくくく・・・・なぜ、早死になさったのかあ、くくくくくく・・・。」
「ああ、大丈夫かい? プチ・じい。」
「はあ、しつれい。ええ、その、『プチ・じい』は、なんとかなりませんかなあ?」
「いやあ、弘子からそう呼ぶように言われたしなあ。」
「はあ・・・『第1王女さま』がお相手では。いたしかたありませんなあ。あれほど、『いやでございます』と、申しあげたのにですな。」
「まあ、さっさと、衣装合わせとかやろう。時間がもったいない。」
「は。さようですな。さすが、次期『国父様』。」
「なんか、違和感満載だね。」
「ああ。絶対、変だ。漫画みたいだ。この事態はおかしい。」
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杖出首相は、そう、言い放った。
「そこで、ぼくが、地球政府の全権となったようです。だから、みなさんに提案があります。」
「ふん。ヘレナ。なにやらかすつもりだ。」
ダレルは、いぶかしがった。
自分が、リリカの下に来たって、そう、変わりはない。
むかしから、そうだったし、今でも、最終的には火星の中で言えば、向こうが上なんだから、事実上の変わりはない。
どうも、おかしい。
ヘレナが、何かやらかすつもりな事は、明らかである。
「くそ。立場なんか、やっかいなだけだ。ここから、動きが取れない。」
もちろん、それもヘレナの計算の内ではある。
いくらなんでも、格好悪くて、息子に見せたくはないのだ。
しかし、杖出首相は、誰も考えていなかったことを言い出した。
「みなさん。協力しましょう。団結しましょう!」
「む? なんだと?」
うつ向いていたダレルが、顔を上げた。
ソーが、いつのまにか後ろの席に帰ってきている。
「それは、つまり、首相殿、どういう意図ですか?」
ブリアニデスがいんぎんに言った。
「ああ、ぼくの『火星語』がまずかったかな。日本語で言いましょう。『みなさん、協力して、ヘレナを叩きましょう。そうしたら、みなが、長年の鎖から解放される。今こそチャンスです。あの怪物を、滅ぼしましょう。』え~~~~と、通じましたかな?」
「なんと!」
ブリアニデスが絶句した。
別室にいて、スクリーンを見ていた海賊『マ・オ・ドク』は、恐ろしい形相で立ち上がり、会議室に押し入ろうとして、衛兵と、もめた。
さすがの、マ・オ・ドクも、素手で、武装した金星軍精鋭の衛兵7人を相手にしては分が悪い。
「くっそお。チキュ人! なにほざく!」
と、わめいた。
そこに、当然のごとく、もう一人の永遠の宇宙海賊『ジニー』が現れたのだ。
これは、偶然だが、いくらかジニーがタイミングを見計らっていたようだった。
「てめぇ。いまどき現れやがって! どっちの味方する気だ?」
「あんた、もうろくしたね。いまさら、『火星の女王』の味方して、どうするの。時節は動いた。これからは、地球人の時代だよ。」
「なにお~~~! 時節が動こうが、磁場が回転しようが、おれは、おじょうの味方なんだ。」
「ば~~~か。こいつ、始末した方がいいよ。」
「監禁するよう、指示されました。あなたも、ここには、入室禁止です。」
衛兵が答えた。
その様子が、会議室内の杖出首相たちにも伝わった。
「どうですか。平和に話し合うのならば、あの二人も、入れてあげませんか?」
マ・オ・ドクとジニーは、武装解除した状態で、暴力は使わないと確約して、会場に入る事を許されたのである。
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村沢は、仮眠を取った後、いよいよ、準備にかかった。
なにがなんだか、よくは分からない。
しかし、ヘレナの申し出は、盗賊としても、またスパイとしても、非常に価値があるものである。
実は、大変な報酬が用意されていたのである。
それなりの国ひとつ、現金買いが可能なくらいの。
「どうなるのか知らないが、いいさ。歴史が動くんだろう? やってやろうじゃないか。」
射撃用のドアを確認した。
愛用の銃も。
しかし、今回使うのは、ヘレナに渡された銃だ。
ミスは、絶対にしない。
そこは、なにやら、お祭りの準備のようなことになっている。
「こいつら、戦争やめて、こんどはパーティーかい。変わったやつらだ。おっと、そういえば、クリスマスとか、盆とかの休戦もあったかな。まあ、これは、いい、仕事だ。」
付き人たちをけむに巻いたヘレナは、たぶん、自分しか知らない通路を通って、外に出ようとしていた。
王宮の構造に関して、彼女以上に知る者はいない。
『第1王女』の姿が現れたのに、兵士たちが気が付かないはずがない。
そのようなことは、あり得ない。
南側の兵士が言った。
「おい・たいへんだ!」
「どした?」
「王女様だ。なんと、・・・・・美しい。やはり、あれは、神様だ。」
朝日を浴びた『第1王女』は、実際に神々しいばかりに美しかった。
外の映像を見ていた侍従長が、仰天した。
「まさか。なにをやろうと! すぐにやめさせなければ。衛兵!衛兵! 何を、しい~てる!」
催眠状態になっていた、王宮側の門番の衛兵たちは、さっぱりと、反応しなかった。
「くそ。王女様、なにを、はやまったことを!」
侍従長は、その年齢からは信じられないくらいの速度で、王宮内を走った。
『南側』の兵士と『北側』の兵士の、ちょうど、真ん中あたりにまで進みでた『第1王女』が言った。
『みなさん、喧嘩はダメですよ。はやく、おうちにお帰りなさい。いいですわね。』
銃声が響いた。
『第1王女』は、人形のように、そのまま、倒れたのである。
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************ ふろく **********
『ぎょわ~~~~。大変~~~~~~。主人公殺してどうするのよお~~~~! やましんさん。準主役の幸子が困ってしまう。』
『いよいよ、来ましたね。そこの時が!』
『え? 幸子が、主役に昇進・・・ですか?』
『あ~~~~そこまでは、行きません。まだ、道女さん(道子の事)がいるでしょう。』
『あ・・・そか。そこがいたか・・・・。むむむむ。でも、主人公がいなくなったら、お話はお終いですよお。』
『いやいや、主人公が出ない、あるいは、なかなか出ないお話は、やまとありますよ。きっと。『トリストラム・シャンディ』とか。ワーグナーさんの『ニーベルングの指輪』も、なかなか主人公が出ないでしょ?』
『じゃあ・・・・・ヘレナさんは、ほんとの主人公じゃあ、ないってことか?』
『ははは、まあ、まだ考えてないです。ははははははは。』
『お饅頭! どっさ~~~~~~~~~~~~~~~ん!!』
『おぎょわ~~~~~~~~~~~~~~。たしけて~~~~!』
『ふん。いつものことよ。幸子が主人公にならなきゃ。意味ない。』
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